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【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~
〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と……
4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします!
これを読めば5月病も怖くない……はずです。
『令和元年の人生ゲーム』
第1話 平成28年
2016年の春。徳島の公立高
第12回 今井真実|じっくり焼いて、ガブリ! 初夏に蘇る、鮎の記憶
初夏になると、スーパーでいのいちばんにチェックするのは鮮魚売り場。探し物の目的は「鮎」である。
私は子供の頃から鮎が大好物。この季節は今か今かといつも鮎の登場を待ち侘びている。幸運なことに夫も鮎に目がなく、週に何度も夕食に出したって、いつでもまるで初めて食べるかのように歓声を上げる。この時期は食卓に鮎の塩焼きを出すだけで大人たちは大喜びだから、ある意味ラクなのである。
それに引き換え、子ども
ピアニスト・藤田真央エッセイ #58〈魔法のような室内楽――タメスティとの共演〉
『指先から旅をする』が書籍化しました!
世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。
”宝箱”との誉れ高いブラームス・ザールは、精巧で眩い装飾と豊かな響きを併せ持つ素晴らしいホールだ。客席の中央ではブラームスの像が静かに耳を澄ましている。音響の質は別格で、私の代名詞であるまろやかな音が会場の隅々まで減衰することなく響き渡る。ひとたびタッチのニュアンスを変えれば、客席に飛んでいく音色も
ピアニスト・藤田真央エッセイ #57〈矢代秋雄との出逢い――新アルバム・レコーディング〉
『指先から旅をする』が書籍化しました!
世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。
ソニー・クラシカルインターナショナルから私の新アルバム「72 Preludes ショパン/スクリャービン/矢代秋雄:24の前奏曲」のリリースが発表された。私たちチームにとっても大いに待ち焦がれた逸品である。
実のところ、2022年に発売したモーツァルト「ピアノ・ソナタ全集」の次回作について、私た
イナダシュンスケ|ラーメン不満足化待望論
第26回
ラーメン不満足化待望論 いきなり大きな話から始めますが、人はいったい何を求めて小説やエッセイを読むのでしょう? そんなの十人いたら十通りの答えが返ってきそうですが、そこにおいて「共感」は、誰にとっても大事な要素であるということは言えるはずです。読者は著者や登場人物、なかんずく主人公に共感しつつ、物語を擬似体験する。それが読書の醍醐味であることは間違いありません。
食エッセイという分野
今村翔吾『海を破る者』冒頭試し読み
序章
時を追う毎に一人、また一人と、集まって来る。
壁の無い茅舎のような粗末な御堂には、弟子や教えを聞きに来た近郷の僧で溢れ返り、その周囲を数十の民たちが取り囲んでいる。
一遍はすくと立ち上がった。他の僧たちも慌てて立ち上がろうとするのを手で制す。
「まだよ」
弟子の一人が物言いたげな目をしている。
「暑いな」
一遍は手で大袈裟に顔を扇いでみせた。
狭い御堂に三十人以上の僧が詰まって
小田雅久仁 「夢魔と少女」〈後篇〉
十八 堀内は横たわった少女の傍らに胡座をかき、その寝顔を、どんな感情も読みとれない巌のような面持ちでじっと見おろしていた。少女はジュースを半分ほど飲んだだけでたちまち強烈な睡魔に襲われたらしく、崩れ落ちるように横になり、早くも穏やかな寝息を立てはじめていた。しかしその心中までが穏やかだったかはわからない。突きあげてくる急激な眠気を、少女は訝しく思ったに違いなく、一服盛られたのではと恐怖に駆られなが
もっとみるピアニスト・藤田真央エッセイ #56〈ウィーン・リサイタルデビュー――コンツェルトハウス〉
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『指先から旅をする』が書籍化しました!
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2024年3月15日、私は再びウィーンの地にいた。”再び”というのは、2月にアントワン・タメスティと共にウィーン楽友協会の〈ブラームスザール〉でデュオリサイタルを行い、その次週にはウィーン交響楽団と共に、念願の〈グローサーザール〉デビューを果たしたの
ピアニスト・藤田真央エッセイ #55〈ホフマンとシューマン――小説から生まれた音楽〉
『指先から旅をする』が書籍化しました!
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ドイツに拠点を移して早2年。これまで世界各国での旅の模様をお伝えしてきたが、その合間にしっかりと大学へも通っていた。演奏旅行を終えて大きなキャリーケースを引きながら大学へ直行したり、レッスンを受けたその足で公演に向かったりすることもしばしば。このように授業に出席できる日は必ず出席し、また時折教授に
栗原ちひろ「余った家」
「本当にここ?」
と問うてみたものの、ここ以外のどこでもないだろうという諦めはあった。
だらだらと続く坂の果て、広々とした区画は緑に埋もれており、中にある家の姿はさっぱり見えない。伸びすぎた庭木は一心に空を目指しているが、下の方はおざなりに枝を打たれた跡があった。近隣への配慮なのだろう。
この家の持ち主はかろうじて生きている、ということだ。
「ここだよ。美岬も見たことあるでしょう?」
たお
阿津川辰海「山伏地蔵坊の狼狽」——有栖川有栖デビュー35周年記念トリビュート――をお届けします!
1 この店から、最後の灯が消える。
という文章を思い浮かべれば、ロマンチックな気分になるかと思ったが、そうでもない。
僕、青野良児はほとんど機械的な動作で、レンタル落ちのビデオテープをレジに通していた。
僕は同い年の友人と二人で、町に五つあるレンタルビデオ店の一つを経営していた。しかし、時代の流れに抗えず、五つあった店は四つになり、三つになり、遂に最後の砦である僕たちの店も今日、店じまいをす