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〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と…… 4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします! これを読めば5月病も怖くない……はずです。 『令和元年の人生ゲーム』 第1話 平成28年 2016年の春。徳島の公立高校を卒業し、上京して慶応義塾大学商学部に通い始めた僕は、ビジコン運営サークル「イ
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ある救急医のもとに搬送されてきた溺死体。それは自分と瓜二つの遺体だった――。 第三十四回鮎川哲也賞を満場一致で受賞した『禁忌の子』は、医療現場を舞台にした本格ミステリ。発売直後から反響を呼び、新人のデビュー作にして既に四刷が決定、快進撃を続けている。著者の山口未桜さんは、現役医師だ。 「幼少期から読書が大好きで、小説やノンフィクション、漫画なども乱読していました。高校生時代は文芸部に所属して創作に励み、本気で作家になりたいと思っていた時期もあったんです。でも、結局医学
ミーちゃんのおかげ 爽やかな秋の風が落ち葉をかきまわして去っていく。私は乱れる髪をおさえて、空を見あげた。広く澄んだ青が広がっている。 向かう先は、このあたりで一番大きな病院、青葉総合病院。私が勤めている長期療養型病棟は、完治の見込めない患者さんが多く大変ではあるけれど、病を持ちながらもよりよく生きることへのお手伝いができるのではないかと、やりがいも感じている。 職員用の入り口までとことこ歩く。 「卯月さーん、おはようございます」 聞きなれた声にふりむくと、同僚の山
24 火災二日目 アオイ(承前)『中央自動車道』小淵沢IC出口まで五百メートルの標識を過ぎた。いよいよだ。 〈いたらどうする〉 ハンドルを握るリョウが、片手で短く訊いた。 どうする、とは「〝やつら〟が出口で待ち伏せしていたら」という意味だ。〝やつら〟が数人の精鋭部隊なのか、一個大隊なのか、そこまでわからない。少なくとも、樋口と間抜けな刑事の三人組のほかに、もう一グループ加わったことはわかっている。 ほんの十五分ほど前に『組合』に、大金——難度の高い〝仕事〟一回分のギャラ
いよいよ明日は、『ナースの卯月に視えるもの2 絆をつなぐ』(秋谷りんこ/文春文庫)の発売日です! note主催の創作大賞2023から生まれた秋谷さんのデビュー作『ナースの卯月に視えるもの』は大きく話題を呼び、現在6刷と絶好調!(かなりすごいことですよ!!!) シリーズ化が決定し、この度、第2巻が刊行されることになりました!いえーい! 1巻に続き、装丁はイラストレーター・かないさんが担当してくださいました。 2巻のご相談をした際に、私(担当編集)からお願いをしたのは、た
第31回 叱咤激励タコライス タコライスはお好きですか? 僕はあれはものすごくおいしい食べ物だと思っています。 おいしいにもいろいろあります。多くの人がおいしいと思っていて嫌いな人はあまりいない「キャッチーなおいしさ」や、ちょっと伝わりづらいけどしみじみおいしい「渋いおいしさ」、そして好き嫌いがはっきり分かれる「マニアックなおいしさ」、などなど。それで言うと、タコライスのおいしさは、概ね最初の「キャッチーなおいしさ」にあたるのではないでしょうか。例えば給食で出てきたら
うちにルンバがきた。うつでうごけなくなった私のためにきた。 私は夫と二人ぐらしなんだけど、今までずっとへやのそうじは私の仕ごとでした。2LDKのへやをひとりでそうじするのはそれなりに大へんなんだけど、でもプレイリストにすきな曲いれてききながらへやをきれいにしていくのはけっこうたのしくて、おわるとへやも私もすっきり、だいたい一しゅうかんにいちど、そうやってそうじしてそれなりにちゃんとくらせてました。 けどうつになった今はまずベッドからおき上がれない。小説家デビューしてから
「料理家」という仕事をしていると、ふだんはめったに家から出ることがない。打ち合わせのときも撮影のロケハンを兼ねて、編集者が自宅にやってくることが多いし、その後の撮影ももちろん我が家。撮影後のレシピをまとめるときも、原稿を書くときも、自宅で行う。基本的に、家でぼんやり過ごすのが一番リラックスできる私にとって、不満はない。むしろちょっと作業しては寝転んだりと、いわばもってこいの労働環境なのである。 そんな日常を送る私にとって、めずらしい日があった。 午前中に、オフィス街に
「ほな、あの花束は……」 沙都子が言葉の続きを引き取った。 「浦さんが、ご自分のお父さまに手向けたもの、だと考えるのが自然でしょうね」 翌日、翌々日と新聞をめくり、念のため一週間先まで記事をチェックしたが、続報は見当たらなかった。 「事件性がなかったとすると、事故か自殺……まあ、遺書でもなければ本当のことはわかりませんよね」 沙都子のつぶやきは、今の自分たちにも当てはまる。そうだ、なぜ今まで考えなかったのだろう。多実も波留彦も、何か苦悩を抱えていて、その苦しみによって繫
『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 ついに開演のベルが鳴り、客席のドアが閉まると、オーケストラがチューニングを始めた。客席の照明が完全に消え、灯が微かに灯るのは幕の下りたステージだけ。やがてチューニングが終わるとそこは完全に無音状態だった。いつ、どのタイミングでビシュコフがピットにやってきたかも判らないので、開演前の拍手もない。静寂がどのくらいの時間続いただろうか。徐々に五感が研ぎ澄まされていく。 不意に地
第30回 チャーハンの退屈 あえて悔恨から始めます。僕はチャーハンという食べ物に対して、かつてあまりにも冷淡かつ非道でした。 世の中には、推定1000万人を超えるチャーハン好きが存在するのではないかと思います。今だから言えますが、僕はその全員から一斉に憎まれかねないことを、ずっと心の中で思っていました。 「中華料理屋でチャーハンを頼むやつの気が知れねえ」 これがその秘めたる思いです。おっと、ここだけ切り取って拡散するのはやめてください。そんなことをされたら、今の