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【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~

〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と…… 4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします! これを読めば5月病も怖くない……はずです。 『令和元年の人生ゲーム』 第1話 平成28年  2016年の春。徳島の公立高校を卒業し、上京して慶応義塾大学商学部に通い始めた僕は、ビジコン運営サークル「イ

ピアニスト・藤田真央エッセイ #66〈人生を揺るがす鑑賞体験ーートリスタンとイゾルデ〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  ついに開演のベルが鳴り、客席のドアが閉まると、オーケストラがチューニングを始めた。客席の照明が完全に消え、灯が微かに灯るのは幕の下りたステージだけ。やがてチューニングが終わるとそこは完全に無音状態だった。いつ、どのタイミングでビシュコフがピットにやってきたかも判らないので、開演前の拍手もない。静寂がどのくらいの時間続いただろうか。徐々に五感が研ぎ澄まされていく。  不意に地

イナダシュンスケ|チャーハンの退屈

第30回 チャーハンの退屈  あえて悔恨から始めます。僕はチャーハンという食べ物に対して、かつてあまりにも冷淡かつ非道でした。  世の中には、推定1000万人を超えるチャーハン好きが存在するのではないかと思います。今だから言えますが、僕はその全員から一斉に憎まれかねないことを、ずっと心の中で思っていました。 「中華料理屋でチャーハンを頼むやつの気が知れねえ」  これがその秘めたる思いです。おっと、ここだけ切り取って拡散するのはやめてください。そんなことをされたら、今の

ピアニスト・藤田真央エッセイ #65〈世界一取りづらいチケットーーバイロイト音楽祭鑑賞〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  世界には数多の音楽祭がある。特に夏のシーズンは大小様々なフェスティバルが各地を彩る。私もピアニストとして沢山の音楽祭に出演し、それぞれの特色を味わってきた。しかし、私がどんなに切望しようとも絶対に出演できない音楽祭が存在する——バイロイト音楽祭だ。  バイロイト音楽祭は、ドイツの小都市・バイロイトで毎年7月から約1ヶ月間開催される。驚くべきことに、このフェスティバルで演奏さ

宮島未奈『婚活マエストロ』刊行に寄せて

『婚活マエストロ』第一話の原稿を担当編集者に送ったのは去年の10月31日のことでした。それから一年で単行本になろうとは、まったく想像していませんでした。 「はじまりのことば」でも書いたとおり、『婚活マエストロ』は担当編集者のオーダーからはじまった話です。 「宮島さんの書く婚活の話が読みたいです!」  と言われたとき、わたしは「○○さんとかに書いてもらったほうがいいんじゃないですか」と別の作家さんの名前を挙げたぐらいで、婚活に対する興味も関心もありませんでした。それが今や……

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#007

第4章(承前) 垓太が神妙な顔になり、 「今度は、逃げへんで」  小声で言うと、久右衛門はうなずいて、 「中川、川口、久保田のお3人さんは、もう再来月には堂島近くに新たな御用会所をかまえて、いろいろお指図を始めはるでしょう。ご公儀もこれほどの人を差し向けるからには、よほどお覚悟が強いのでしょうし、あっさり引き上げもしないでしょう。あたしたちには正念場です。これは最後の戦いになる」 「戦い」  垓太はぎょっとして久右衛門を見た。久右衛門はなお静かな口調のまま、 「われら大坂の商

背筋|オシャレ大好き【ホラー短篇】

オシャレ大好き  コンクリートのふちに足をかける。下から吹き上げる風が心地好い。この気持ちはアドレナリンのせいなのか。怖いと感じない私はおかしいのだろうか。下を見つめる。サラリーマン風の男が足早に歩いている。私はやっと解放される。こんな世界から。 「さようなら」  そう話したあと、宙に身を躍らせた。風の音が耳に響く。歩道の地面が猛スピードで迫る。身体の奥から木の枝をまとめて折ったようなバキッという音が響いた気がした。 ※※※※※ 「これ、素材はなにを使ってるの?」  磨

¥250〜
割引あり

寺地はるな「リボンちゃん」#004

第四話 「乾杯!」の掛け声とともに、隣に立っていた知らない男性のコップがありえない角度に傾き、あ、と思うまもなくわたしのシャツの肩は濡れていた。こぼれたビールはじわじわと染みて胸元まで到達しようとしている。 「わ、こりゃ大変だ。ごめんね、だいじょうぶ?」 「気にしないでください、洗えば落ちますから」  わたしはハンカチでシャツを押さえながら立ち上がった。数メートル先のバーベキューコンロで焼いている肉の匂いが鼻孔をくすぐり、お腹がぐうと鳴る。  よかった。バーベキューをやる、と

鈴木忠平『ビハインド・ゲーム』 はじまりのことば

 なぜ、この人物を書こうと思ったのですか?  新刊を書くと、インタビュアーの人からこう質問していただく。その度、的確な表現の見つからない私は「翳があるから」だとか、「逆風を浴びているから」だとか口にしながら、なにか言い足りてないな……と感じてきた。先だってはついに、「言葉で表現できない人だからです」などと答えてしまった。書き手としてアリなのか? 帰り道に落ち込んだが、本当にそうとしか言えなかったのだから仕方がない。  言葉ではうまく説明できないが、感覚としては分かっている。例

鈴木忠平・新連載スタート!「ビハインド・ゲーム」#001

プロローグ 開場の日は朝から雲ひとつなかった。生えそろったばかりの天然芝と真っさらなアンツーカーが北の大地の柔らかな陽の光を浴びている。球場のコンコースでひとり、その静謐な光景を飽くことなく眺め続けている男は球団のフロントマンである。濃紺のスーツにチームのシンボルカラーであるスカイブルーのネクタイを締めた彼の胸の裡にはひとつの感慨が宿っている。その感慨がいつまでも彼をその場に立たせていたのだった。  やがてそんな想いを知るよしもないファンたちが、フロントマンの脇を抜け、我先に

太田愛『ヨハネたちの冠』 はじまりのことば

 編集者のKさんとAさんに初めてお目にかかったのは『彼らは世界にはなればなれに立っている』を上梓した四年前の秋だった。それ以前の三つの長編、『犯罪者』『幻夏』『天上の亜』が現代社会を舞台にしたいわゆるクライムサスペンスであったのに対して、『彼らは世界に~』はまったく趣が異なり、いつの時代ともわからない〈塔の地・始まりの町〉で繰り広げられる物語だ。期待されている世界観でないことはわかっていた。案の定、上梓直後の読者の評は真っ二つに分かれた。  よりによってその『彼らは世界に~』

太田愛・新連載スタート!『ヨハネたちの冠』 #001

第一章 夏至の夜に始まった六月二十一日 午後八時四十分 「最速で行ってきてよ!」  姉の青明が、リビングからのけぞるように廊下へ顔だけ出して叫んだ。両手はムーニーのお尻拭きで理久の尻を拭いているのだ。階段下の物入れの戸が大きく開け放たれているのは、買い置きの紙おむつが切れているのを発見した際の衝撃をものがたっている。 「わかってるよ!」  紺野透矢は運動靴をつっかけて玄関を出ると、一家に一台きりのママチャリにまたがり、紙おむつを買うために立ち漕ぎでドラッグストアへと急いだ。

発売即重版! 彼を見殺しにした男達を許さない――どんでん返しミステリ|くわがきあゆ『復讐の泥沼』インタビュー

 怒濤の展開、次から次に予想が裏切られる……そんな一冊が誕生した。くわがきあゆさんの最新刊『復讐の泥沼』(宝島社文庫)だ。くわがきさんは2022年に『レモンと殺人鬼』で第21回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリを受賞、同作は現在30万部超のベストセラーとなり、大きな話題となった。 「いつか復讐を動機とするミステリを書いてみたいなと思っていました。私は本格ミステリよりも、どちらかというと社会派ミステリが好きなんです。笹本稜平さん、薬丸岳さん、相場英雄さん、下村敦史

ルームシェアで〝一生最強〞を目指す!自由な未来の選択肢を示した傑作――小林早代子『たぶん私たち一生最強』インタビュー

 そんな叫びから始まる『たぶん私たち一生最強』。花乃子、百合子、澪、亜希——高校時代からの女友達である4人が、ルームシェアを通じて大マジメに〝一生最強〟の人生を目指す物語だ。  著者の小林早代子さんは2015年に「くたばれ地下アイドル」で第14回「女による女のためのR―18文学賞」読者賞を受賞し同作でデビュー、本作は2作目となる。出発点は、『小説新潮』の官能小説特集に掲載された短篇「よくある話をやめよう」だった。 「海外ドラマの『フレンズ』が大好きで、友達同士で近くに住ん