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間宮改衣|ルンバがきた

第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞した『ここはすべての夜明けまえ』が大きな話題を呼んだ間宮改衣さんから、生活にまつわるエッセイが届きました。小説家デビューによって変わった生活、そしてそこにやってきたルンバのお話。

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 うちにルンバがきた。うつでうごけなくなった私のためにきた。
 私は夫と二人ぐらしなんだけど、今までずっとへやのそうじは私の仕ごとでした。2LDKのへやをひとりでそうじするのはそれなりに大へんなんだけど、でもプレイリストにすきな曲いれてききながらへやをきれいにしていくのはけっこうたのしくて、おわるとへやも私もすっきり、だいたい一しゅうかんにいちど、そうやってそうじしてそれなりにちゃんとくらせてました。
 けどうつになった今はまずベッドからおき上がれない。小説家デビューしてからかんきょうがかわって、ただでさえはりつめてた心に少しずつヒビいれられるような出来ごとがつみかさなって、私のせいしんはこわれてしまいました。ガシャン!っておさらを床にたたきつけてみてわかったけど、こわれたものっていうのはどうがんばっても元にはもどりません。大きなはへんはあつめられるけど、こまかいのとかはどうやってもとりきれない。フローリングのみぞにはまったりして、スリッパのうらがいつまでもじゃりじゃりします。ごはんは一日に一回たべられればいいほう、おなかすいたなとはおもうけど全ぜんしょくよくがわかず、おかげさまでダイエットはじゅんちょう、ちゃくちゃくと体じゅうがへっていってます。おふろとかトイレとかはみがきとかも、ものすごい決心がいって、このエッセイをかいている今は夏だから毎日シャワーをあびないとあたまがかゆくなるのに、どうしてもどうしても体がうごかなくて、昨日なんかはおふろに入らなきゃっておもってから三じかんたってようやくうごけるようになり、はみがきにも同じくらいのじかんがかかって、私何やってるんだろって泣いて、病いんで処方してもらったすいみん薬と安定ざいを四しゅるいくらいのんでようやくねむるような、生きてるけど生きてないような毎日で、へやのそうじなんか二の次三の次四の次、かみの毛とかほこりとかちらばり放だいで、それはひどいありさまになってました。
 けどこのあいだルンバがきて、へやをそうじしてもらったら、ほんとにそうじができたのでおどろきました。正じきいうと、かったはいいけどあんまりきたいしてなかったんです。小回りとかちゃんときくの?みたいな。でもちょっとしただんさくらいなら自力でのりこえられるし、自分がなっとくするまでそうじしてくれるようなとこがあって、今のところ全ぜん文句なし。障がいぶつをそのつどとりのぞいてあげないといけないから、人間がわもまったく何もしないでいいってわけじゃないけれど、でもぎゃくにいえばいすとかごみばことかちょいちょいってどかしてあげて、あとはルンバをはなてばへやがきれいになるんだから、安いかいものかもしれません。
 ルンバは、いきおいがすごいです。人間がわがおいつけないくらいで、うごきも予そくできず、さい初にきた日は、次はどっち⁉どのへやにいくの⁉と夫と二人でいすとかもって右おう左おうしてました。でもこれはルンバが学しゅうをかさねていけば、人間がわで今日はこのへやをそうじしてねってし定できたりもするらしく、早くそうなってくれたらいいなとおもいます。まだほんとにきたばっかりだから、ルンバもいろいろとまどっていることでしょう。でもせいそうのう力になんのもんだいもないことはわかったんで、私はこれでもう、にどとへやのそうじをしなくていいことになります。
 あの、すきな音がくをききながら、たのしく手をうごかしていたじかんは、にどともどってこない。デビューが決まって不安とそれ以上のきたいでいっぱいだったあの日々がもどってこないように。なんでこんなことになってしまったんだろう、って毎日毎日泣いてるけどこたえはでない。ねたきりでいつづけるというのも体力がいり、血行がわるくなるせいか、足がものすごくだるくなります。お医しゃさんは、なるべく外にでて体をうごかしましょう、ねたきりだと体のリズムがくずれてしまうから、できるだけおきて、活どうして、っていうけど、できたら苦ろうしません。おくすりが、もうだいぶふえちゃってるので、っていってくすりにたよりたくない方しんなのはわかるけど、むりなものはむり。しんどいものはしんどいです。
 でも小説は、このあいだ短編の依らいがあって四十枚くらい、二しゅうかんでかいて出したら編集さんからほめてもらって、私こんな状たいでも小説はかけるんだー、ってふしぎな気もちになりました。少しうれしくもなりました。ただ、この苦しい状たいはいつまでつづくんだろう。明日、私は、生きていられるかな?いろいろかんがえるとまた苦しいですが、とりあえず今はルンバうちにきてくれてありがとうーの気もちです。へやがきれいになるのはいいことだからです。こうやってルンバのことでエッセイもかけたし。そうしてひとつひとつ片づけるように、毎日を生きのびていくしかないんだとおもってます。

間宮改衣(まみや・かい)
 一九九二年生まれ、大分県大分市出身。東京都在住。二〇二三年、「ここはすべての夜明けまえ」で第十一回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞し、二四年同作で単行本デビュー。

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