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  • 一穂ミチ「アフター・ユー」(*小説)

    ある日突然姿を消した恋人。彼女は自分の意志で消えたのか、それとも……。最悪の事態に怯えながら、残された青吾は手掛かりを求めて動き出す。愛を問う、大人のための恋愛小説

  • 門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」(*小説)

    かつて経済の中心には「米」があり、それは「証券」や「先物」に姿を変え、金融派生取引(デリバティブ)を発生させた。つまり、「金融市場(マーケット)」である――大坂堂島に実在した「米市場」を舞台に商人vs.江戸幕府の戦いを描く一大エンターテインメント

  • 今井真実「ひとりでまんぷく」(*食エッセイ)

    料理家・今井真実さんが、ひとりで味わう至福の時間を綴るグルメエッセイです。

  • 鈴木忠平「ビハインド・ゲーム」(*小説)

    負けることに慣れきったプロ野球チームと不祥事に揺れる親会社。出口の見えない暗闇を進む二つの組織を変えたのは、アメリカから来た一人の日本人だった。フィクションとノンフィクションのあわいに屹立する、ある再生の物語

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一穂ミチ「アフター・ユー」#008

 青吾の脳裏に、ゆうべのちいさなパブがよぎる。あのカウンター席で、出口重彦が浦誠治に酒を飲ませている光景が浮かんだ。口元にウイスキーか何かが入ったグラスを押しつけ、気さくなそぶりでがっちりと肩を抱えて逃がさない。ふたりの顔は「おじかだより」で見た写真と同じモノクロで、カウンターの向こうにいるレイカの姿は全体にモザイクがかかってぼやけている。青吾と最も関係の深い人間の顔だけがわからないなんておかしな話だ。 「口封じに殺された可能性もあるってことですか?」  刑事ドラマみたいに現

漫画家が〝美味しい〟ミステリーで小説家デビュー!|土屋うさぎ『謎の香りはパン屋からインタビュー』

 読んでいるうちに、ぷーんと香ばしいパンの香りが漂ってくる……そんな〝美味しい〟ミステリーが誕生した。 『謎の香りはパン屋から』は、第23回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作。著者の土屋うさぎさんは、26歳の漫画アシスタント兼漫画家だ。ギャグ漫画や百合漫画を主戦場にしているが、あるきっかけで小説を書き始めたという。 「ここ数年、漫画家のおぎぬまX先生のアシスタントをしているのですが、先生が2年前に『このミス』大賞に応募していたんです。漫画家でも小説書いていいのか!

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#008

第5章(承前) 御庭番は、将軍直属の密偵または調査員である。全国へ飛んで大名の動静や民情などの探索にあたるが、そもそも幕府機構にこの職を創設したのが吉宗自身ということもあり、吉宗は、かねて彼らと直接口をきくことを好んでいた。  男はそのひとり、遠藤某という者である。もっとも、密偵といっても、 「大坂より、先ほど帰りました」  と切り出した、その声は特別ではない。しゃちほこ張ったような、遠慮したような、小役人そのものの話しかたである。幕臣としての実体は微禄の旗本なのだから当然だ

第16回 今井真実|蔵元たちの熱い思いが飛び交う「醤油の日の集い」

 秋にはいつも楽しみにしている行事がある。それはしょうゆ業界の関係者が集まり、開催される「醤油の日の集い」である。  10月1日は「醤油の日」。昔の日本では、冬に備えるために、秋口に農作物の貯蔵や加工を行なっていた。さらにしょうゆ造りのための「もろみ」も、10月に仕込んでいたのだそう。醸造に関するさまざまな由来が秋に縁深く、そのことから10月1日が「醤油の日」と定められたという。その日を記念して行われているのが、「醤油の日の集い」である。ひょんなことからご縁がありご招待をい

一穂ミチ「アフター・ユー」(*小説)

ある日突然姿を消した恋人。彼女は自分の意志で消えたのか、それとも……。最悪の事態に怯えながら、残された青吾は手掛かりを求めて動き出す。愛を問う、大人のための恋愛小説

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  • 9本

一穂ミチ「アフター・ユー」#008

 青吾の脳裏に、ゆうべのちいさなパブがよぎる。あのカウンター席で、出口重彦が浦誠治に酒を飲ませている光景が浮かんだ。口元にウイスキーか何かが入ったグラスを押しつけ、気さくなそぶりでがっちりと肩を抱えて逃がさない。ふたりの顔は「おじかだより」で見た写真と同じモノクロで、カウンターの向こうにいるレイカの姿は全体にモザイクがかかってぼやけている。青吾と最も関係の深い人間の顔だけがわからないなんておかしな話だ。 「口封じに殺された可能性もあるってことですか?」  刑事ドラマみたいに現

一穂ミチ「アフター・ユー」#007

「ほな、あの花束は……」  沙都子が言葉の続きを引き取った。 「浦さんが、ご自分のお父さまに手向けたもの、だと考えるのが自然でしょうね」  翌日、翌々日と新聞をめくり、念のため一週間先まで記事をチェックしたが、続報は見当たらなかった。 「事件性がなかったとすると、事故か自殺……まあ、遺書でもなければ本当のことはわかりませんよね」  沙都子のつぶやきは、今の自分たちにも当てはまる。そうだ、なぜ今まで考えなかったのだろう。多実も波留彦も、何か苦悩を抱えていて、その苦しみによって繫

一穂ミチ「アフター・ユー」#006

『もしもし』  多実の声だった。すこし掠れているが、間違いない。青吾は、自分でも意外なほど平静だった。 『あ、スガワラさんですか? 調査報告書ありがとうございます。きょう受け取りました。すみません、無理言って郵送していただきまして……』 「多実」  ざ、さ、と砂を踏みしめるようなノイズが混じる。呼びかけに対する応えはなかった。 『はい、だいぶよくなりました。残りのお金はあした振り込みますので、よろしくお願いいたします』  通話が切られ、テレカが吐き出される。「42」に減った度

一穂ミチ「アフター・ユー」#005

 涙の筋で、頰の一部分だけ突っ張る感じがした。先に口を開いたのは沙都子だった。 「とりあえず、上がってください。お茶でも淹れます」 「はい」  子どものように答え、洗面所で手を洗うついでに顔も洗った。鏡を見ると涙は止まっていたが、充血した眼球がまだ全体的に潤んでいる。頭全体が妙に腫れぼったい感じで鈍く痛み、明瞭な思考ができそうにない。ダイニングでは、沙都子が何事もなかったような顔で湯を沸かしていた。 「ハーブティでいいですか?」 「はい」  何を考えているのかわからなくて怖い

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」(*小説)

かつて経済の中心には「米」があり、それは「証券」や「先物」に姿を変え、金融派生取引(デリバティブ)を発生させた。つまり、「金融市場(マーケット)」である――大坂堂島に実在した「米市場」を舞台に商人vs.江戸幕府の戦いを描く一大エンターテインメント

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  • 9本

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#008

第5章(承前) 御庭番は、将軍直属の密偵または調査員である。全国へ飛んで大名の動静や民情などの探索にあたるが、そもそも幕府機構にこの職を創設したのが吉宗自身ということもあり、吉宗は、かねて彼らと直接口をきくことを好んでいた。  男はそのひとり、遠藤某という者である。もっとも、密偵といっても、 「大坂より、先ほど帰りました」  と切り出した、その声は特別ではない。しゃちほこ張ったような、遠慮したような、小役人そのものの話しかたである。幕臣としての実体は微禄の旗本なのだから当然だ

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#006

第3章(承前) 翌日、紀伊国屋は、早朝から大工たちを呼び入れた。  彼らに木の箱状のものを作らせて、土間に置くことで、もう1つ帳場を増やそうとしたのである。 「報酬ははずむ。すぐ作ってくれ」  そう言ったのが効いたのか、大工たちはいったん出て行って、おなじ日の午後にはもう完成したものを運んで来た。  既存の店框の横へ置いてみると、高さがぴったり揃っている。ここに帳場格子と机を置き、奉公人を座らせて、3つめの帳場が稼働を開始したときには、しかしもう土間はしんとしていた。  ほと

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#007

第4章(承前) 垓太が神妙な顔になり、 「今度は、逃げへんで」  小声で言うと、久右衛門はうなずいて、 「中川、川口、久保田のお3人さんは、もう再来月には堂島近くに新たな御用会所をかまえて、いろいろお指図を始めはるでしょう。ご公儀もこれほどの人を差し向けるからには、よほどお覚悟が強いのでしょうし、あっさり引き上げもしないでしょう。あたしたちには正念場です。これは最後の戦いになる」 「戦い」  垓太はぎょっとして久右衛門を見た。久右衛門はなお静かな口調のまま、 「われら大坂の商

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#005

第3章(承前) 紀伊国屋はその晩、野村屋、大坂屋とともに曽根崎新地へ行き、「よし野」という料亭ののれんをくぐり、2階の座敷へ通された。  ここで食事をしながら一献かたむけようと思ったのは、かつは気分転換のため、かつは人気の調査のためだった。もともと曽根崎という繁華街自体が堂島から近く、市場関係者の多く集うところであるのに加えて、「よし野」は特に愛されていて、毎晩のように数人ないし数組の米仲買の客たちが来るため夜ふけまで灯りが絶えず、絃歌の音もつづくという。  人気の秘訣は、い

今井真実「ひとりでまんぷく」(*食エッセイ)

料理家・今井真実さんが、ひとりで味わう至福の時間を綴るグルメエッセイです。

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第16回 今井真実|蔵元たちの熱い思いが飛び交う「醤油の日の集い」

 秋にはいつも楽しみにしている行事がある。それはしょうゆ業界の関係者が集まり、開催される「醤油の日の集い」である。  10月1日は「醤油の日」。昔の日本では、冬に備えるために、秋口に農作物の貯蔵や加工を行なっていた。さらにしょうゆ造りのための「もろみ」も、10月に仕込んでいたのだそう。醸造に関するさまざまな由来が秋に縁深く、そのことから10月1日が「醤油の日」と定められたという。その日を記念して行われているのが、「醤油の日の集い」である。ひょんなことからご縁がありご招待をい

第15回 今井真実|日比谷でちょっと早めのお昼ご飯。お腹も心も満たされるお粥と焼売

 「料理家」という仕事をしていると、ふだんはめったに家から出ることがない。打ち合わせのときも撮影のロケハンを兼ねて、編集者が自宅にやってくることが多いし、その後の撮影ももちろん我が家。撮影後のレシピをまとめるときも、原稿を書くときも、自宅で行う。基本的に、家でぼんやり過ごすのが一番リラックスできる私にとって、不満はない。むしろちょっと作業しては寝転んだりと、いわばもってこいの労働環境なのである。  そんな日常を送る私にとって、めずらしい日があった。  午前中に、オフィス街に

第11回 北海道で酔いしれた、絶品お寿司 ひとりでまんぷく 今井真実

 次の出張は北海道と聞いてから、暇さえあれば「寿司 ウニ 札幌」でネット検索をしていた。だって北海道といえば、ウニではないか! 豊富な魚介類があるのは承知の上だが、なんせ夏だし、普段は滅多に食べることのないウニを食べたいのだ。口いっぱいに頬張り、あのとろける甘みを、磯の香りを、なめらかな喉越しを味わいたい。その瞬間を、想像するだけで鼻息が荒くなってしまう。ホテルを予約することさえもすっかり忘れて、ここ最近の私の趣味はもはや「札幌のウニのおいしいお店を探すこと」になっていた。

今井真実|叫びたくなる美味しさ! 高級クレープの衝撃

 レシピの撮影の後には、いつも「最近食べた美味しいもの」の話で盛り上がる。みんながみんな食に関わる仕事だからだろうか、それぞれのアンテナときたら、すさまじい迫力を感じられる。待ってましたとばかりに誰かが情報を披露すると、みんなで検索して一斉にGoogleマップにピンを付けていく。投稿された写真を見ては、なにこれ! 美味しそう! とわいわいと大騒ぎ。さっき試食を終えたばかりなのに、今から食べに行っちゃいたいくらいよねえといつも煩悩に苛まれるのだ。  先日もいらしたスタッフの1

鈴木忠平「ビハインド・ゲーム」(*小説)

負けることに慣れきったプロ野球チームと不祥事に揺れる親会社。出口の見えない暗闇を進む二つの組織を変えたのは、アメリカから来た一人の日本人だった。フィクションとノンフィクションのあわいに屹立する、ある再生の物語

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  • 3本

鈴木忠平「ビハインド・ゲーム」#002

第二章  甲子園の英雄1 「結局、甲子園がピークだったってことだろうな」 「よくいますよね。高校時代は輝いてたのに、プロに入って急に色褪せる選手って」  後方から訳知り声が聞こえてきた。  おそらくバックネット裏中段に陣取っている関係者だろう。声を潜めてはいたが、ネット裏前列にいる山縣聡太の耳にははっきりと聞こえていた。部外者が勝手なことを、と内心憤りを覚えたが、反論の言葉は見当たらなかった。山縣はもどかしさとともにグラウンドを見つめた。マウンドでは宮田一翔が苦悶の表情を浮

鈴木忠平・新連載スタート!「ビハインド・ゲーム」#001

プロローグ 開場の日は朝から雲ひとつなかった。生えそろったばかりの天然芝と真っさらなアンツーカーが北の大地の柔らかな陽の光を浴びている。球場のコンコースでひとり、その静謐な光景を飽くことなく眺め続けている男は球団のフロントマンである。濃紺のスーツにチームのシンボルカラーであるスカイブルーのネクタイを締めた彼の胸の裡にはひとつの感慨が宿っている。その感慨がいつまでも彼をその場に立たせていたのだった。  やがてそんな想いを知るよしもないファンたちが、フロントマンの脇を抜け、我先に

鈴木忠平『ビハインド・ゲーム』 はじまりのことば

 なぜ、この人物を書こうと思ったのですか?  新刊を書くと、インタビュアーの人からこう質問していただく。その度、的確な表現の見つからない私は「翳があるから」だとか、「逆風を浴びているから」だとか口にしながら、なにか言い足りてないな……と感じてきた。先だってはついに、「言葉で表現できない人だからです」などと答えてしまった。書き手としてアリなのか? 帰り道に落ち込んだが、本当にそうとしか言えなかったのだから仕方がない。  言葉ではうまく説明できないが、感覚としては分かっている。例