一穂ミチ「アフター・ユー」#008
青吾の脳裏に、ゆうべのちいさなパブがよぎる。あのカウンター席で、出口重彦が浦誠治に酒を飲ませている光景が浮かんだ。口元にウイスキーか何かが入ったグラスを押しつけ、気さくなそぶりでがっちりと肩を抱えて逃がさない。ふたりの顔は「おじかだより」で見た写真と同じモノクロで、カウンターの向こうにいるレイカの姿は全体にモザイクがかかってぼやけている。青吾と最も関係の深い人間の顔だけがわからないなんておかしな話だ。
「口封じに殺された可能性もあるってことですか?」
刑事ドラマみたいに現