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  • ピアニスト・藤田真央「指先から旅をする」

    24歳の若き天才ピアニスト・藤田真央氏によるエッセイ

  • #ミステリー小説が好き

    #ミステリー小説が好き

  • 稲田俊輔「食いしん坊のルーペ」(*食エッセイ)

    南インド料理店「エリックサウス」総料理長にして、ジャンルを問わず何にでも喰いつく変態料理人。あふれ出る食いしん坊パワーで、世界を味わい尽くすエッセイをお届けします。月イチ連載

  • 寺地はるな「リボンちゃん」(*小説)

    女性の下着はキュートでセクシー? そんな固定観念を解きほぐす寺地はるなの連載小説

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【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~

〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と…… 4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします! これを読めば5月病も怖くない……はずです。 『令和元年の人生ゲーム』 第1話 平成28年  2016年の春。徳島の公立高校を卒業し、上京して慶応義塾大学商学部に通い始めた僕は、ビジコン運営サークル「イ

    • 平均年齢85歳!老人たちの読書会で感じた〝ワンダー感〟――朝倉かすみロングインタビュー

      作家の書き出し Vol.33 〈取材・構成:瀧井朝世〉 ◆個人的な思いを語る読書会があってもいい――新作『よむよむかたる』は、北海道は小樽の古民家カフェで開かれる高齢者の読書サークルのお話ですね。ものすごく楽しく読みましたが、どういう出発点だったのですか。 朝倉 編集者の方たちとお話ししている時に、うちの母親の話になったんです。母親がもう二十年くらい読書会に参加しているという話をだらだらしていたら、「それを書けばいいじゃないですか」と。 ――朝倉さんのお母さんといえば、

      • ピアニスト・藤田真央エッセイ #64〈夏の終わり――デュトワとの共演〉

        『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 8月3日 「ミルクバー」でブランチ。  今年のスケジュールは自由時間が限りなく少なかったが、それでもお気に入りのこのお店に2回も訪れることができた。ヴェルビエ滞在のラストに好物のオレオミルクシェイクを飲むことができて嬉しい。  17時からはサン=サーンス《ピアノ協奏曲第2番》のリハーサルがあった。あまり弾かれる機会の少ない作品のため、私もオーケストラの団員も感触を掴むのに苦

        • ピアニスト・藤田真央エッセイ #63〈エベーヌ四重奏団との共演、テントでのリサイタル〉

          『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 7月29日  昨日のアドヴェンチャーから一夜明け、朝の10時からエベーヌ四重奏団とのリハーサルが始まった。いつの日か共演してみたいと願っていた、世界屈指の四重奏団と演奏する機会に恵まれたのだ。もっとも我々日本人にとっては、この名門カルテットにチェリストの岡本侑也君が2024年1月に加入したニュースは喜ばしい。彼とは以前から親交があって何度か共演したこともあり、今回エベーヌメン

          • 第14回 今井真実|食生活を整える。体重計の数字に驚いた日に作る、お味噌汁の素

             この夏、体重が3kgも増えてしまった。最高記録の更新である。   7月に行った韓国と台湾へのはしご出張は、連日会食続きでおいしいものを自制することなくたらふく食べてしまった。  きっとこれは大変なことになっているだろうな、と思っていたものの、その分いつもより歩いているしと、たかをくくっていたのだった。  帰国後、さあいよいよ現実と対峙しようか、と心の準備を整えてから体重計に乗ったところ……。目の前が真っ暗になり、うわんうわんと耳鳴りがする。いやいやこんなはずがない、間違い

            • ピアニスト・藤田真央エッセイ #62〈幻となったカヴァコスとの共演〉

              『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 7月28日  今年のヴェルビエは特別、日差しが眩しい。8時過ぎに目を覚ますと、カヴァコスとのリハーサルの録音を再び聴いた。今夜の公演のために、これほど入念に準備を行うのには理由がある。実のところ、カヴァコスとは2023年5月に初共演を果たす予定だったのだが、彼の体調不良により叶わなかった。共演の機会をその後1年以上も待ち遠しく思いながら過ごし、やっと今晩、念願のその時を迎える

              • ピアニスト・藤田真央エッセイ #61〈我がホーム! ヴェルビエ音楽祭〉

                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  2024年6月の中旬から7月の下旬まで、1ヶ月の休暇を貰った私は、次に待ち構えているレパートリーをじっくり練習したり、新しいレシピを考案したり、はたまた読書に耽ったりしていた。不朽の名作、ダニエル・キイス作『アルジャーノンに花束を』には大いに胸を打たれた。ロングセラー作品のため多くの方がご存じだと思うが、際立って魅力的なのは作品全体を通しての構成や文体の巧妙な変化だろう。主人

                • 門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#006

                  第3章(承前) 翌日、紀伊国屋は、早朝から大工たちを呼び入れた。  彼らに木の箱状のものを作らせて、土間に置くことで、もう1つ帳場を増やそうとしたのである。 「報酬ははずむ。すぐ作ってくれ」  そう言ったのが効いたのか、大工たちはいったん出て行って、おなじ日の午後にはもう完成したものを運んで来た。  既存の店框の横へ置いてみると、高さがぴったり揃っている。ここに帳場格子と机を置き、奉公人を座らせて、3つめの帳場が稼働を開始したときには、しかしもう土間はしんとしていた。  ほと

                  • イナダシュンスケ|サクラダ君のアメリカンドッグ

                    第29回 サクラダ君のアメリカンドッグ  今となっては分かります。小学生時代の親友サクラダ君は「早熟」でした。  小学四年生に進級して、毎日一緒に帰る僕たち5人組は、クラスがバラバラになりました。かろうじて僕とサクラダ君は引き続き同じクラスでした。しかし僕たち2人はその頃から微妙に別々の道を歩み始めたのです。  その小学校では、四年になると希望すれば部活動に参加できました。サクラダ君は真っ先にサッカー部に入りました。僕はなんとなくバドミントン部に入るつもりだったのですが

                    • イナダシュンスケ|サクラダ君と道草コロッケ

                      第28回 サクラダ君と道草コロッケ  小学三年生の時、親友ができました。  サクラダ君というその同級生は、足が速くてスポーツ万能、色白で茶色がかった髪にぱっちりとした大きな目と長い睫毛、明るくて成績もほどほどに良く、つまりは女子にモテまくる少年でした。僕がなぜそんな彼と仲良くなったかと言うと、単に家が近所で帰宅する方向が同じだったからです。学校帰りはだいたい、僕とサクラダ君の他に同じ方向の友人たち総勢5人で、やたらと道草を食いながら帰ったものでした。  ある時そのメンバ

                      • 【アーカイブ動画公開】五十嵐律人×浅倉秋成×白井智之ライブトーク!「ダークミステリーが好き」

                        ※記事の下部「購読者限定エリア」にて アーカイブ動画がご覧頂けます。  リーガルミステリーで人気の五十嵐律人さんの新作『魔女の原罪』が2023年4月24日に発売になりました! これを記念して、5月1日(月) 20:00から人気作家3人によるライブトークが開催されました。 『魔女の原罪』にまつわるお話はもちろん、過激な設定やビターな味わいが堪能できる「ダークミステリー」についての楽しみ方、さらに三者三様の創作流儀や代表作にまつわる創作秘話までたっぷり90分! 当日ご覧になれな

                        • 第13回 今井真実|灼熱の台湾でほおばる、肉汁たっぷり水煎包

                           ああ、これがこの国の夏なのか。これは、暑いわ、評判通り。昨日までは、「東京の方が暑いくらい。台湾、意外と涼しいね」などと軽口を叩いていたくらいだったのに。台湾が本気を出してきた。  街中の道をただ歩いているだけなのに、日光が肌に刺さるように痛い。太陽に焼かれた砂浜に立っているみたいに足の裏からも熱が伝わってくる。日傘をさして、さらになるべく日陰を探すも、もちろん歩道はぎらぎらと明るいまま。汗は当たり前のようにとめどなく流れて、もうそれに意識を向けることもない。  仕方がない

                          • 「アップデートとは、自分が間違っていたと理解すること」|桜庭一樹『名探偵の有害性』ロングインタビュー

                            作家の書き出し Vol.32 〈取材・構成:瀧井朝世〉 ◆中年を主人公にしたミステリを書きたかった——『名探偵の有害性』は、約三十年前に活躍した名探偵と助手が、ネットでの炎上を機に当時の事件を振り返る旅に出る物語です。東京創元社の文芸誌「紙魚の手帖」に連載されていましたよね。 桜庭 連載を立ち上げる際に、東京創元社さんから「ミステリじゃなくてもいいです」と言われていたんです。でもせっかくミステリの老舗で書くなら、直球のテーマをやりたいなと思って。ミステリってなんだろうとか

                            • ピアニスト・藤田真央エッセイ #60〈矢代秋雄のカデンツァーー山田マエストロとの日本ツアー〉

                              『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 ”  5月下旬、私たちは日本に帰ってきた。飛行機を降りるとふわりと香る醤油や出汁の匂いで故郷を実感する。沢山の大谷翔平選手の広告に迎えられて入国したが、その数が帰国の度に増えている感じがするのは気のせいだろうか。  実家の猫と戯れるも束の間、7公演の怒涛のツアーが始まった。兵庫、館山(千葉)、東京、名古屋、京都、そして横浜。オーケストラの楽器を運搬する大きなトラックに私の衣

                              • ピアニスト・藤田真央エッセイ #59〈地中海の青空の下――モンテカルロ・フィル〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  絵に描いたような雲ひとつない晴天。水底まで透き通る海。指先から溢れ落ちるサラサラの砂。肌にまとわりつく熱気。  人々は水着を身につけ各々の時間を楽しんでいる。砂浜に寝そべり肌を焼く女性。サーフボードを手に海に入り込むシックスパックの男性。寄せては返す波にはしゃぐ子供達。その隣のおとなしい犬。様々だ。  私もただただ無心に水面を眺めたり、靴下を脱いで砂の感触を確かめたりしてい

                              • 固定された記事

                              【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~

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                              • ピアニスト・藤田真央「指先から旅をする」
                                65本
                              • #ミステリー小説が好き
                                244本
                              • 稲田俊輔「食いしん坊のルーペ」(*食エッセイ)
                                32本
                              • 寺地はるな「リボンちゃん」(*小説)
                                5本
                              • 一穂ミチ「アフター・ユー」(*小説)
                                6本

                              記事

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                                【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~

                                〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と…… 4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします! これを読めば5月病も怖くない……はずです。 『令和元年の人生ゲーム』 第1話 平成28年  2016年の春。徳島の公立高校を卒業し、上京して慶応義塾大学商学部に通い始めた僕は、ビジコン運営サークル「イ

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                                平均年齢85歳!老人たちの読書会で感じた〝ワンダー感〟――朝倉かすみロングインタビュー

                                作家の書き出し Vol.33 〈取材・構成:瀧井朝世〉 ◆個人的な思いを語る読書会があってもいい――新作『よむよむかたる』は、北海道は小樽の古民家カフェで開かれる高齢者の読書サークルのお話ですね。ものすごく楽しく読みましたが、どういう出発点だったのですか。 朝倉 編集者の方たちとお話ししている時に、うちの母親の話になったんです。母親がもう二十年くらい読書会に参加しているという話をだらだらしていたら、「それを書けばいいじゃないですか」と。 ――朝倉さんのお母さんといえば、

                                平均年齢85歳!老人たちの読書会で感じた〝ワンダー感〟――朝倉かすみロングインタビュー

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #64〈夏の終わり――デュトワとの共演〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 8月3日 「ミルクバー」でブランチ。  今年のスケジュールは自由時間が限りなく少なかったが、それでもお気に入りのこのお店に2回も訪れることができた。ヴェルビエ滞在のラストに好物のオレオミルクシェイクを飲むことができて嬉しい。  17時からはサン=サーンス《ピアノ協奏曲第2番》のリハーサルがあった。あまり弾かれる機会の少ない作品のため、私もオーケストラの団員も感触を掴むのに苦

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #64〈夏の終わり――デュトワとの共演〉

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #63〈エベーヌ四重奏団との共演、テントでのリサイタル〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 7月29日  昨日のアドヴェンチャーから一夜明け、朝の10時からエベーヌ四重奏団とのリハーサルが始まった。いつの日か共演してみたいと願っていた、世界屈指の四重奏団と演奏する機会に恵まれたのだ。もっとも我々日本人にとっては、この名門カルテットにチェリストの岡本侑也君が2024年1月に加入したニュースは喜ばしい。彼とは以前から親交があって何度か共演したこともあり、今回エベーヌメン

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #63〈エベーヌ四重奏団との共演、テントでのリサイタル〉

                                第14回 今井真実|食生活を整える。体重計の数字に驚いた日に作る、お味噌汁の素

                                 この夏、体重が3kgも増えてしまった。最高記録の更新である。   7月に行った韓国と台湾へのはしご出張は、連日会食続きでおいしいものを自制することなくたらふく食べてしまった。  きっとこれは大変なことになっているだろうな、と思っていたものの、その分いつもより歩いているしと、たかをくくっていたのだった。  帰国後、さあいよいよ現実と対峙しようか、と心の準備を整えてから体重計に乗ったところ……。目の前が真っ暗になり、うわんうわんと耳鳴りがする。いやいやこんなはずがない、間違い

                                第14回 今井真実|食生活を整える。体重計の数字に驚いた日に作る、お味噌汁の素

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #62〈幻となったカヴァコスとの共演〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 7月28日  今年のヴェルビエは特別、日差しが眩しい。8時過ぎに目を覚ますと、カヴァコスとのリハーサルの録音を再び聴いた。今夜の公演のために、これほど入念に準備を行うのには理由がある。実のところ、カヴァコスとは2023年5月に初共演を果たす予定だったのだが、彼の体調不良により叶わなかった。共演の機会をその後1年以上も待ち遠しく思いながら過ごし、やっと今晩、念願のその時を迎える

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #62〈幻となったカヴァコスとの共演〉

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #61〈我がホーム! ヴェルビエ音楽祭〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  2024年6月の中旬から7月の下旬まで、1ヶ月の休暇を貰った私は、次に待ち構えているレパートリーをじっくり練習したり、新しいレシピを考案したり、はたまた読書に耽ったりしていた。不朽の名作、ダニエル・キイス作『アルジャーノンに花束を』には大いに胸を打たれた。ロングセラー作品のため多くの方がご存じだと思うが、際立って魅力的なのは作品全体を通しての構成や文体の巧妙な変化だろう。主人

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #61〈我がホーム! ヴェルビエ音楽祭〉

                                門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#006

                                第3章(承前) 翌日、紀伊国屋は、早朝から大工たちを呼び入れた。  彼らに木の箱状のものを作らせて、土間に置くことで、もう1つ帳場を増やそうとしたのである。 「報酬ははずむ。すぐ作ってくれ」  そう言ったのが効いたのか、大工たちはいったん出て行って、おなじ日の午後にはもう完成したものを運んで来た。  既存の店框の横へ置いてみると、高さがぴったり揃っている。ここに帳場格子と机を置き、奉公人を座らせて、3つめの帳場が稼働を開始したときには、しかしもう土間はしんとしていた。  ほと

                                門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#006

                                イナダシュンスケ|サクラダ君のアメリカンドッグ

                                第29回 サクラダ君のアメリカンドッグ  今となっては分かります。小学生時代の親友サクラダ君は「早熟」でした。  小学四年生に進級して、毎日一緒に帰る僕たち5人組は、クラスがバラバラになりました。かろうじて僕とサクラダ君は引き続き同じクラスでした。しかし僕たち2人はその頃から微妙に別々の道を歩み始めたのです。  その小学校では、四年になると希望すれば部活動に参加できました。サクラダ君は真っ先にサッカー部に入りました。僕はなんとなくバドミントン部に入るつもりだったのですが

                                イナダシュンスケ|サクラダ君のアメリカンドッグ

                                伊岡瞬「追跡」#007

                                19 火災二日目 新発田信(承前) わが子ながら、どうひいき目に見ても軽薄にしか映らない淳也が出ていった執務室のドアを、新発田信は短いあいだ睨んでいた。 「どうしたらあれほど出来の悪いのが生まれるんだ」  普段は腹に納めている愚痴が、つい口からこぼれた。いや、考えないようにしている現実を、ふいに見せつけられたことへの嘆きだ。  過去には、妻が浮気してできた子ではないかとさえ疑ったこともある。しかし中学に進んだあたりから、顔つき体つきが自分によく似てきたことは認めざるを得ない。

                                伊岡瞬「追跡」#007

                                イナダシュンスケ|サクラダ君と道草コロッケ

                                第28回 サクラダ君と道草コロッケ  小学三年生の時、親友ができました。  サクラダ君というその同級生は、足が速くてスポーツ万能、色白で茶色がかった髪にぱっちりとした大きな目と長い睫毛、明るくて成績もほどほどに良く、つまりは女子にモテまくる少年でした。僕がなぜそんな彼と仲良くなったかと言うと、単に家が近所で帰宅する方向が同じだったからです。学校帰りはだいたい、僕とサクラダ君の他に同じ方向の友人たち総勢5人で、やたらと道草を食いながら帰ったものでした。  ある時そのメンバ

                                イナダシュンスケ|サクラダ君と道草コロッケ

                                第13回 今井真実|灼熱の台湾でほおばる、肉汁たっぷり水煎包

                                 ああ、これがこの国の夏なのか。これは、暑いわ、評判通り。昨日までは、「東京の方が暑いくらい。台湾、意外と涼しいね」などと軽口を叩いていたくらいだったのに。台湾が本気を出してきた。  街中の道をただ歩いているだけなのに、日光が肌に刺さるように痛い。太陽に焼かれた砂浜に立っているみたいに足の裏からも熱が伝わってくる。日傘をさして、さらになるべく日陰を探すも、もちろん歩道はぎらぎらと明るいまま。汗は当たり前のようにとめどなく流れて、もうそれに意識を向けることもない。  仕方がない

                                第13回 今井真実|灼熱の台湾でほおばる、肉汁たっぷり水煎包

                                「アップデートとは、自分が間違っていたと理解すること」|桜庭一樹『名探偵の有害性』ロングインタビュー

                                作家の書き出し Vol.32 〈取材・構成:瀧井朝世〉 ◆中年を主人公にしたミステリを書きたかった——『名探偵の有害性』は、約三十年前に活躍した名探偵と助手が、ネットでの炎上を機に当時の事件を振り返る旅に出る物語です。東京創元社の文芸誌「紙魚の手帖」に連載されていましたよね。 桜庭 連載を立ち上げる際に、東京創元社さんから「ミステリじゃなくてもいいです」と言われていたんです。でもせっかくミステリの老舗で書くなら、直球のテーマをやりたいなと思って。ミステリってなんだろうとか

                                「アップデートとは、自分が間違っていたと理解すること」|桜庭一樹『名探偵の有害性』ロングインタビュー

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #60〈矢代秋雄のカデンツァーー山田マエストロとの日本ツアー〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 ”  5月下旬、私たちは日本に帰ってきた。飛行機を降りるとふわりと香る醤油や出汁の匂いで故郷を実感する。沢山の大谷翔平選手の広告に迎えられて入国したが、その数が帰国の度に増えている感じがするのは気のせいだろうか。  実家の猫と戯れるも束の間、7公演の怒涛のツアーが始まった。兵庫、館山(千葉)、東京、名古屋、京都、そして横浜。オーケストラの楽器を運搬する大きなトラックに私の衣

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #60〈矢代秋雄のカデンツァーー山田マエストロとの日本ツアー〉

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #59〈地中海の青空の下――モンテカルロ・フィル〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  絵に描いたような雲ひとつない晴天。水底まで透き通る海。指先から溢れ落ちるサラサラの砂。肌にまとわりつく熱気。  人々は水着を身につけ各々の時間を楽しんでいる。砂浜に寝そべり肌を焼く女性。サーフボードを手に海に入り込むシックスパックの男性。寄せては返す波にはしゃぐ子供達。その隣のおとなしい犬。様々だ。  私もただただ無心に水面を眺めたり、靴下を脱いで砂の感触を確かめたりしてい

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                                イナダシュンスケ|ファーストコンタクト晩餐会

                                第27回 ファーストコンタクト晩餐会 「料理は味が全て。うまけりゃいいんだよ」ということが世間ではよく言われますが、僕は主に料理を作る側の立場として、これは一見正論めいてはいるけれど、実際は暴論だと考えています。「うまけりゃいい」はその通りだとしても、じゃあそれはいったい誰にとってうまいのか。どういう時にどういう気分で食べたらうまいのか。  誰にとっても、いついかなる場面でもおいしいものなんて、世の中にそうそうはありません。単純な嗜好の違いもありますが、それ以上に、おいし

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