見出し画像

第11回 北海道で酔いしれた、絶品お寿司 ひとりでまんぷく 今井真実

第10回へ / 第1回へ / TOPページへ

 次の出張は北海道と聞いてから、暇さえあれば「寿司 ウニ 札幌」でネット検索をしていた。だって北海道といえば、ウニではないか! 豊富な魚介類があるのは承知の上だが、なんせ夏だし、普段は滅多に食べることのないウニを食べたいのだ。口いっぱいに頬張り、あのとろける甘みを、磯の香りを、なめらかな喉越しを味わいたい。その瞬間を、想像するだけで鼻息が荒くなってしまう。ホテルを予約することさえもすっかり忘れて、ここ最近の私の趣味はもはや「札幌のウニのおいしいお店を探すこと」になっていた。

 しかし、これもまた「沼」である。調べれば調べるほど、わからない。混乱する。当たり前だがどこのお店にも一長一短があるようで、口コミを見る限り、個人の価値観とはこれほどまでに違うものなのか、これぞ多様性というのではと感心するのである。味という感覚的なものについては多数決では決められない。みんなちがって、みんないい。わかってはいるけれど決められない。

 はて、困り果てた私は、北海道出身の美食家の友人に相談することにした。本当は最初からそうすれば良かったのだけれども、これには事情がある。予算の問題だ。だって相手は食べ物が好きな人だから、北海道まで来て「え? その金額でお寿司食べるつもり?」と思うかもしれない、というつまらない見栄が邪魔をしていたのだ。しかし、どう考えても自力でお店を見つけるよりはるかにいい結果を生み出すことは目に見えている。ぎりぎりまで迷っていた私は、新千歳空港からホテルに向かうバスの中から、意を決してメッセージを送った。

ここから先は

2,693字

《読んで楽しむ、つながる》小説好きのためのコミュニティ! 月額800円で、人気作家の作品&インタビューや対談、エッセイが読み放題。作家の素…

「#別冊文藝春秋」まで、作品の感想・ご質問をお待ちしております!