今井真実|韓国の朝ごはんで心も身体もぽかぽかに
娘が起きない。窓の外は花曇りの春の朝。あいにくの曇り空だけれども、時折日が差し込み、寒さは和らいでいるように見える。
かれこれ、7時30分頃から娘に声をかけて、もう9時をまわってしまった。かくいう私もうっかり二度寝をしてしまったのだけれど。
娘と初めての二人旅でやってきたのはソウル。娘は無論、私も人生初の韓国旅行だった。昨日のお昼に到着して、今朝は初めての朝ごはん。旅行中は一食たりとも無駄にしたくないから、早く朝食を食べに行きたいというのに、いっこうに娘は起きない。「ねえーねえー、お母さんお腹すいたよ。そろそろ朝ごはん行かない?」とベッドの娘に声をかける。「うーん私、お母さんが寝てる間に昨日の夜テイクアウトしたチキンの残りを食べたからいいよ。お母さん1人で行って来なよ」。なんと! 私が二度寝している間にきっちり娘はお腹を満たしていたのだった。あ、そう? じゃあまあ1人で行こうかしら。
頭に浮かんだのは、韓国通の友人が送ってくれたリストに載っていたお店。もらっていたメールを開く。あったあった、これだ。
「『武橋洞プゴグッチッ』疲れた胃に優しい『干し鱈のスープ』のお店です。メニューはこの一品だけなので座ったらすぐ出てきます」
なんでもプゴグッは干しスケトウダラのスープで、韓国料理の中でも全く辛くなく優しい味わいのようだ。魚のスープだったら肉食の娘から「食べたかったのにー!」と後から言われることもないだろう。メニューが一品だけというのも良い。ひとりで行っても食べ切れる量だろうし、韓国語が話せない私でも焦らずに済みそうだ。
韓国ではGoogleマップが使えないので、NAVERマップで住所を検索する。ホテルのある明洞から歩いて15分。朝のお散歩に良い時間だ。
ベッドで眠りこけている娘の耳元で「本当にいいの? いいのね?」と何度も確認。しつこい私に「だいじょぶ、だいじょぶ……いってらっしゃーい」とお布団の中からの娘の返事。まあ旅先だからって無理やり起こすことはないか。もったいないって少し思ったけど、旅先で睡眠を貪るのなんて贅沢な気がする。マイペースな娘に頼もしささえ覚えて、ひとりで出かけることにした。ホテルのエントランスを出て、私は今ひとりで外国を歩いているんだと実感する。行く前から、周りの人に「韓国は近い」「何にも困ることがないよ」と言われていたので、海外という感覚がなかった。しかし、私にとって初めての韓国はやはり外国であり、日本と近しいようで違う文化があった。路面の飲食店はとても多く、ポップな雰囲気のお店が多い。カラフルでおしゃれで可愛らしく、看板のフォントや内装も洗練されている。特に嬉しく思ったのがコーヒーショップの多さ。大きなカフェも、さっとコーヒーをテイクアウトできるお店もそこらじゅうにある。ふだん出かけると、いつもコーヒーのお店を見つけるために彷徨い、挙句コンビニで買う私にとっては天国のようだ。
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