WEB別冊文藝春秋

WEB別冊文藝春秋

《読んで楽しむ、つながる》小説好きのためのコミュニティ! 月額800円で、人気作家の作品&インタビューや対談、エッセイが読み放題。作家の素顔や創作秘話に触れられるオンラインイベントのほか、お題企画や投稿イベントなど参加型企画も盛りだくさんでお届けしていきます。

リンク

マガジン

  • WEB別冊文藝春秋

    《読んで楽しむ、つながる》小説好きのためのコミュニティ! 月額800円で、人気作家の作品&インタビューや対談、エッセイが読み放題。作家の素顔や創作秘話に触れられるオンラインイベントのほか、お題企画や投稿イベントなど参加型企画も盛りだくさんでお届けしていきます。

  • 一穂ミチ「アフター・ユー」(*小説)

    ある日突然姿を消した恋人。彼女は自分の意志で消えたのか、それとも……。最悪の事態に怯えながら、残された青吾は手掛かりを求めて動き出す。愛を問う、大人のための恋愛小説

  • 高田大介『エディシオン・クリティーク』(*小説)

    失われたテクストの復元に勤しむ文献学者・嵯峨野修理。紙切れ一枚も彼の手にかかれば謎の宝箱に早変わり。『図書館の魔女』著者が奏でる知的探索ミステリー、開幕!

  • 朝倉かすみ「よむよむかたる」(*小説)

    小樽の古民家カフェで開かれる〈坂の途中で本を読む会〉。本を読み、人生を語る、みんなの大切な時間。最年長九十一歳、最年少七十七歳、今日もにぎやかに全員集合!

  • ピアニスト・藤田真央「指先から旅をする」

    24歳の若き天才ピアニスト・藤田真央氏によるエッセイ

ウィジェット

WEB別冊文藝春秋

《読んで楽しむ、つながる》小説好きのためのコミュニティ! 月額800円で、人気作家の作品&インタビューや対談、エッセイが読み放題。作家の素顔や創作秘話に触れられるオンラインイベントのほか、お題企画や投稿イベントなど参加型企画も盛りだくさんでお届けしていきます。

  • 固定された記事

【㊗発売即重版!】ピアニスト・藤田真央さん初著作『指先から旅をする』

 ピアニスト・藤田真央さんによるエッセイ&語り下ろし連載「指先から旅をする」がこのたび本になりました。 弱冠24歳にして「世界のMAO」に 2019年、20歳で世界3大ピアノコンクールのひとつ、チャイコフスキー国際コンクールで第2位入賞。以降、世界のマエストロからラブコールを受け、数々の名門オーケストラとの共演を実現させてきた藤田さん。 現在はベルリンに拠点を移し、ヴェルビエ音楽祭、ルツェルン音楽祭といった欧州最高峰の舞台で観客を熱狂させています。 エッセイ&語り下ろし

    • 一穂ミチ「アフター・ユー」#004

       夢か、それとも、俺の頭がどないかなってしもたんやろか。夢やとしたら、どっからや。 『青さん?』  受話器の向こうからは、確かに多実の声がする。ありえない。 『どうしたの? 何かあった?』 「多実」  そろりと口にした。通話相手が多実であると認めてしまった瞬間に、夢から覚めるとか、電話ボックスが消え失せて受話器を握ったままのポーズで青吾だけが間抜けに取り残されてしまうとか、何かが起こるのではないかと思いながら。 『うん?』  いつもと、今は戻れなくなった「いつも」と変わらない

      • 一穂ミチ「アフター・ユー」#003

         羽田空港の待ち合わせ場所で沙都子を見つけた瞬間、何より先に「一緒に歩きたくない」と思った。 「太陽の塔」という金色のモニュメントの下にいた彼女のいでたちは、白いつば広の帽子、大きなサングラスにふくらはぎと足首の中間くらいまでの丈の白いワンピース、華奢なストラップのサンダルも白。キャリーバッグを家来のように従え、クリーム色のカーディガンを肩に羽織った姿はどこぞの女優がバカンスにでも出かけるところかと思うほどさまになっていて、だからこそこっちはいたたまれない。エーゲ海とかに行く

        • YouTuber・コウイチ「金曜日のミッドナイト」

          金曜日のミッドナイト ・52歳 男性  こんにちは。あ、テレビの取材ですか。事件でもありましたか? あ、バラエティ番組の取材ですか。何もないなら良かったです。いやぁこんな町にも来るんですね。ちなみになんて番組ですか? 金曜日のミッドナイト? それは朝にやってる番組なの? あ、ミッドナイトだから夜ね。俺は朝しかテレビ見ないからちょっとわからんね。朝はアレだよ、ニュースやってるから見るのよ。今日もニュース見てたよ。え、今日やってたニュース? あんまり覚えてないね。なんか台風が近

          • 高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#003

            3章 もって「市井」と言うが如し 昨晩の夜半にトゥレーヌ地方を撫でていった軽めの嵐のせいで、まだ湿った様子の農道には濡れ落ち葉が散り敷かれ、セリアの運転するディーゼル四駆のステーションワゴンはたびたび落ちた小枝を踏み折っていた。  濃いめの霧が行く手を遮り、視界は50mぐらい先までしか利かない。そんな霧の農道を結構なスピードで車は切り裂いていく。くねくねとうねるような農道だが巡航速度はともすれば80㎞/hにもおよび、修理としては少し恐怖を感じていた。セリアの助手席に着いたレテ

            • 高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#004

               中西部の隣町同士の関係ってどういうものなのか——修理の抱いた素朴な疑問についてギィは実地調査を提案していた。データや文献を離れて「とりあえず現場に行ってみよう」という発想は、なるほど地理学徒、史学徒ならではの実地検証重視主義からくるのかもしれないし、そもそもバイクを一跨ぎ、どこにでもすぐに駆けつけるというギィの昨今のライフスタイルの所産だったのかもしれない。ともかくフットワークの軽さが彼の目下の身上だった。  しかし修理自身はほんらい出不精な質で、一ヶ所に留まって考え込んで

              • 高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#002

                2章 18世紀のテレグラフ 苦難に満ちた来仏初日から一晩あけて、修理はあてがわれた客用寝室から寝ぼけ眼を擦って階下のサロンに降りていった。そちらではコーヒーの香りが馥郁と漂っていた。修理の実家では母が紅茶党だったので、コーヒーで始まる朝という感覚そのものが新鮮だ。ドアノー家の女性陣御三方が遅めの朝食をとっていたのである。 「おはよう、シュリ」日本語の挨拶はマルゴからのものだ。「疲れはとれた?」  マルゴは修理の父、算哲の先妻で、当然ながら少なからず日本語で意思疎通が出来た。も

                • 高田大介新連載!「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#001

                  「図書館の魔女」シリーズの高田大介さんによる待望の新連載がスタート! フランスの古都トゥールを訪れた 20歳の悩める数学徒・嵯峨野修理。 史学科の大学院生・ギィを相棒に、 ルネッサンス期の謎を解き明かす旅へ。 ハーレーに跨り、いざ出発! 1章 トゥール郊外に座礁する この手紙が投函されるのはもう少し後のこととなる。  嵯峨野修理はその夜フランス中部のトゥール郊外の県道で、実際「遭難」していた。  遭難の道連れは今日の夕方に初めて会ったばかりの青年、ギィ・ドリュイエだった。ギ

                  • 感涙のフィナーレ! 朝倉かすみ「よむよむかたる」#012(最終回)

                    ついに公開読書会当日。亡きマンマへの想いを胸に、読む会の面々は晴れ舞台で言葉を紡ぐ。感涙のフィナーレ! ▼第1話を無料公開中! 7 おぅい、おぅい 奇跡だな。なんと全員集合だ。安田はマスクの内側でつぶやいた。前にも言ったような気がするのだが、思い出せない。でもそんなことはどうでもよくて、とセットアップのジャケットの裾を後方に撥ね上げ腰に手をあてる。いつもより口数の少ない読む会メンバーを見渡し、改めてほっとした。ここ一か月バタバタしていて集合時間の最終確認を忘れたのだ。よか

                    • 【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#011

                      ついに完成した記念冊子に胸をときめかせる一同。そんな中、読書会を急遽欠席したマンマの息子から電話がかかってきた。 ▼第1話を無料公開中! 6 一瞬、微かに さもありなん。安田の頭にひょいと浮かんだフレーズだ。さもありなん、さもありなん。それが繰り返されている。手持ちの語彙のひとつではあったが、使ったことは一度もなかった。なのにさっきから脳内にバーゲンセールの販促ポップみたいにべたべたと貼られていく。  九月二日金曜日。例会の最中である。ふた月振りというのに空気が重い。まる

                      • 【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#010

                        まちゃえさん夫妻の息子・明典に、かつて何が起きたのか。美智留は彼と過ごした青春時代について語り始めた。 ▼第1話を無料公開中!  マンマがそうしたように、安田は拳を突き上げてみせた。口角を思い切り上げて拍手する美智留と視線を合わせたまま、その手を下ろし、胸にあてがう。「控えめに言って」と前置きし、 「こころが震えた」  と目を細めた。同じ目をしてうなずく美智留に浅い笑いを返して言う。 「六月に読んだ課題本の文章がパワポみたいに浮き上がってきた。ぼくはこぼしさまの国の番人を

                        • 今井真実|韓国の朝ごはんで心も身体もぽかぽかに

                           娘が起きない。窓の外は花曇りの春の朝。あいにくの曇り空だけれども、時折日が差し込み、寒さは和らいでいるように見える。  かれこれ、7時30分頃から娘に声をかけて、もう9時をまわってしまった。かくいう私もうっかり二度寝をしてしまったのだけれど。    娘と初めての二人旅でやってきたのはソウル。娘は無論、私も人生初の韓国旅行だった。昨日のお昼に到着して、今朝は初めての朝ごはん。旅行中は一食たりとも無駄にしたくないから、早く朝食を食べに行きたいというのに、いっこうに娘は起きない。

                          • 【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#009

                            ▼第1話を無料公開中! 5 冷麦の赤いの 夕方から立て込んで、店を閉めたのは夜八時すぎだった。  夏休み旅行がピークに差しかかる八月最初の金曜日。  客はツーリストがほとんどで、喫茶シトロンの店内ではちょっとしたお国訛りの競演となった。きっかけはサッちゃん。最初は関西弁の二人連れに「おおきに」と言ってみるくらいだったのだが、テーブルごとに「ありがとない」だの「だんだん」だのと教えられて広がった。「シェーシェ」の家族連れもいて、サッちゃんはそこん家の五、六歳の息子のツーブロッ

                            • 命を賭けて、この大乱を終わらせる――胸熱の歴史エンターテインメントが誕生|千葉ともこロングインタビュー

                              作家の書き出し vol.30 〈取材・構成:瀧井朝世〉 ◆唐を舞台にするから描けること——千葉さんはこれまで発表した三作品(『震雷の人』『戴天』『火輪の翼』)とも中国史を扱われていますが、中国史に関しては独学なんだそうですね。 千葉 はい。大学で中国史を専攻していたわけではなく、漢文も専門的に勉強していたわけではありません。でも好きが嵩じて、無謀でもなんでも勉強しながら書いてみようと思いきりました。 ——中国や中国史、中華物に興味を持ったきっかけは何ですか。 千葉 最

                              • ピアニスト・藤田真央エッセイ #52〈奇跡的なピアニシモ――ゲヴァントハウス管〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  オーケストラと奏でる協奏曲は、まさに一期一会だ。〈作品の性格×オーケストラの個性×指揮者・ピアニストの音楽性〉がかけ合わさり、生まれる演奏は種々様々、千差万別といった具合である。また、世界には沢山の楽団があり、縁があっても再オファーは数年先の約束、短いスパンで同じオーケストラと二度共演できる機会はそう多くはない。そんな中、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とは幸運なことに

                              • 固定された記事

                              【㊗発売即重版!】ピアニスト・藤田真央さん初著作『指先から旅をする』

                              マガジン

                              • WEB別冊文藝春秋
                                ¥800 / 月
                              • 一穂ミチ「アフター・ユー」(*小説)
                                5本
                              • 高田大介『エディシオン・クリティーク』(*小説)
                                15本
                              • 朝倉かすみ「よむよむかたる」(*小説)
                                13本
                              • ピアニスト・藤田真央「指先から旅をする」
                                52本
                              • 岩井圭也「われは熊楠」(*小説)
                                7本

                              記事

                                一穂ミチ「アフター・ユー」#004

                                 夢か、それとも、俺の頭がどないかなってしもたんやろか。夢やとしたら、どっからや。 『青さん?』  受話器の向こうからは、確かに多実の声がする。ありえない。 『どうしたの? 何かあった?』 「多実」  そろりと口にした。通話相手が多実であると認めてしまった瞬間に、夢から覚めるとか、電話ボックスが消え失せて受話器を握ったままのポーズで青吾だけが間抜けに取り残されてしまうとか、何かが起こるのではないかと思いながら。 『うん?』  いつもと、今は戻れなくなった「いつも」と変わらない

                                一穂ミチ「アフター・ユー」#004

                                一穂ミチ「アフター・ユー」#003

                                 羽田空港の待ち合わせ場所で沙都子を見つけた瞬間、何より先に「一緒に歩きたくない」と思った。 「太陽の塔」という金色のモニュメントの下にいた彼女のいでたちは、白いつば広の帽子、大きなサングラスにふくらはぎと足首の中間くらいまでの丈の白いワンピース、華奢なストラップのサンダルも白。キャリーバッグを家来のように従え、クリーム色のカーディガンを肩に羽織った姿はどこぞの女優がバカンスにでも出かけるところかと思うほどさまになっていて、だからこそこっちはいたたまれない。エーゲ海とかに行く

                                一穂ミチ「アフター・ユー」#003

                                YouTuber・コウイチ「金曜日のミッドナイト」

                                金曜日のミッドナイト ・52歳 男性  こんにちは。あ、テレビの取材ですか。事件でもありましたか? あ、バラエティ番組の取材ですか。何もないなら良かったです。いやぁこんな町にも来るんですね。ちなみになんて番組ですか? 金曜日のミッドナイト? それは朝にやってる番組なの? あ、ミッドナイトだから夜ね。俺は朝しかテレビ見ないからちょっとわからんね。朝はアレだよ、ニュースやってるから見るのよ。今日もニュース見てたよ。え、今日やってたニュース? あんまり覚えてないね。なんか台風が近

                                YouTuber・コウイチ「金曜日のミッドナイト」

                                高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#004

                                 中西部の隣町同士の関係ってどういうものなのか——修理の抱いた素朴な疑問についてギィは実地調査を提案していた。データや文献を離れて「とりあえず現場に行ってみよう」という発想は、なるほど地理学徒、史学徒ならではの実地検証重視主義からくるのかもしれないし、そもそもバイクを一跨ぎ、どこにでもすぐに駆けつけるというギィの昨今のライフスタイルの所産だったのかもしれない。ともかくフットワークの軽さが彼の目下の身上だった。  しかし修理自身はほんらい出不精な質で、一ヶ所に留まって考え込んで

                                高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#004

                                高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#003

                                3章 もって「市井」と言うが如し 昨晩の夜半にトゥレーヌ地方を撫でていった軽めの嵐のせいで、まだ湿った様子の農道には濡れ落ち葉が散り敷かれ、セリアの運転するディーゼル四駆のステーションワゴンはたびたび落ちた小枝を踏み折っていた。  濃いめの霧が行く手を遮り、視界は50mぐらい先までしか利かない。そんな霧の農道を結構なスピードで車は切り裂いていく。くねくねとうねるような農道だが巡航速度はともすれば80㎞/hにもおよび、修理としては少し恐怖を感じていた。セリアの助手席に着いたレテ

                                高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#003

                                高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#002

                                2章 18世紀のテレグラフ 苦難に満ちた来仏初日から一晩あけて、修理はあてがわれた客用寝室から寝ぼけ眼を擦って階下のサロンに降りていった。そちらではコーヒーの香りが馥郁と漂っていた。修理の実家では母が紅茶党だったので、コーヒーで始まる朝という感覚そのものが新鮮だ。ドアノー家の女性陣御三方が遅めの朝食をとっていたのである。 「おはよう、シュリ」日本語の挨拶はマルゴからのものだ。「疲れはとれた?」  マルゴは修理の父、算哲の先妻で、当然ながら少なからず日本語で意思疎通が出来た。も

                                高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#002

                                高田大介新連載!「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#001

                                「図書館の魔女」シリーズの高田大介さんによる待望の新連載がスタート! フランスの古都トゥールを訪れた 20歳の悩める数学徒・嵯峨野修理。 史学科の大学院生・ギィを相棒に、 ルネッサンス期の謎を解き明かす旅へ。 ハーレーに跨り、いざ出発! 1章 トゥール郊外に座礁する この手紙が投函されるのはもう少し後のこととなる。  嵯峨野修理はその夜フランス中部のトゥール郊外の県道で、実際「遭難」していた。  遭難の道連れは今日の夕方に初めて会ったばかりの青年、ギィ・ドリュイエだった。ギ

                                高田大介新連載!「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#001

                                感涙のフィナーレ! 朝倉かすみ「よむよむかたる」#012(最終回)

                                ついに公開読書会当日。亡きマンマへの想いを胸に、読む会の面々は晴れ舞台で言葉を紡ぐ。感涙のフィナーレ! ▼第1話を無料公開中! 7 おぅい、おぅい 奇跡だな。なんと全員集合だ。安田はマスクの内側でつぶやいた。前にも言ったような気がするのだが、思い出せない。でもそんなことはどうでもよくて、とセットアップのジャケットの裾を後方に撥ね上げ腰に手をあてる。いつもより口数の少ない読む会メンバーを見渡し、改めてほっとした。ここ一か月バタバタしていて集合時間の最終確認を忘れたのだ。よか

                                感涙のフィナーレ! 朝倉かすみ「よむよむかたる」#012(最終回)

                                【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#011

                                ついに完成した記念冊子に胸をときめかせる一同。そんな中、読書会を急遽欠席したマンマの息子から電話がかかってきた。 ▼第1話を無料公開中! 6 一瞬、微かに さもありなん。安田の頭にひょいと浮かんだフレーズだ。さもありなん、さもありなん。それが繰り返されている。手持ちの語彙のひとつではあったが、使ったことは一度もなかった。なのにさっきから脳内にバーゲンセールの販促ポップみたいにべたべたと貼られていく。  九月二日金曜日。例会の最中である。ふた月振りというのに空気が重い。まる

                                【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#011

                                【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#010

                                まちゃえさん夫妻の息子・明典に、かつて何が起きたのか。美智留は彼と過ごした青春時代について語り始めた。 ▼第1話を無料公開中!  マンマがそうしたように、安田は拳を突き上げてみせた。口角を思い切り上げて拍手する美智留と視線を合わせたまま、その手を下ろし、胸にあてがう。「控えめに言って」と前置きし、 「こころが震えた」  と目を細めた。同じ目をしてうなずく美智留に浅い笑いを返して言う。 「六月に読んだ課題本の文章がパワポみたいに浮き上がってきた。ぼくはこぼしさまの国の番人を

                                【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#010

                                今井真実|韓国の朝ごはんで心も身体もぽかぽかに

                                 娘が起きない。窓の外は花曇りの春の朝。あいにくの曇り空だけれども、時折日が差し込み、寒さは和らいでいるように見える。  かれこれ、7時30分頃から娘に声をかけて、もう9時をまわってしまった。かくいう私もうっかり二度寝をしてしまったのだけれど。    娘と初めての二人旅でやってきたのはソウル。娘は無論、私も人生初の韓国旅行だった。昨日のお昼に到着して、今朝は初めての朝ごはん。旅行中は一食たりとも無駄にしたくないから、早く朝食を食べに行きたいというのに、いっこうに娘は起きない。

                                今井真実|韓国の朝ごはんで心も身体もぽかぽかに

                                【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#009

                                ▼第1話を無料公開中! 5 冷麦の赤いの 夕方から立て込んで、店を閉めたのは夜八時すぎだった。  夏休み旅行がピークに差しかかる八月最初の金曜日。  客はツーリストがほとんどで、喫茶シトロンの店内ではちょっとしたお国訛りの競演となった。きっかけはサッちゃん。最初は関西弁の二人連れに「おおきに」と言ってみるくらいだったのだが、テーブルごとに「ありがとない」だの「だんだん」だのと教えられて広がった。「シェーシェ」の家族連れもいて、サッちゃんはそこん家の五、六歳の息子のツーブロッ

                                【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#009

                                命を賭けて、この大乱を終わらせる――胸熱の歴史エンターテインメントが誕生|千葉ともこロングインタビュー

                                作家の書き出し vol.30 〈取材・構成:瀧井朝世〉 ◆唐を舞台にするから描けること——千葉さんはこれまで発表した三作品(『震雷の人』『戴天』『火輪の翼』)とも中国史を扱われていますが、中国史に関しては独学なんだそうですね。 千葉 はい。大学で中国史を専攻していたわけではなく、漢文も専門的に勉強していたわけではありません。でも好きが嵩じて、無謀でもなんでも勉強しながら書いてみようと思いきりました。 ——中国や中国史、中華物に興味を持ったきっかけは何ですか。 千葉 最

                                命を賭けて、この大乱を終わらせる――胸熱の歴史エンターテインメントが誕生|千葉ともこロングインタビュー

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #52〈奇跡的なピアニシモ――ゲヴァントハウス管〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  オーケストラと奏でる協奏曲は、まさに一期一会だ。〈作品の性格×オーケストラの個性×指揮者・ピアニストの音楽性〉がかけ合わさり、生まれる演奏は種々様々、千差万別といった具合である。また、世界には沢山の楽団があり、縁があっても再オファーは数年先の約束、短いスパンで同じオーケストラと二度共演できる機会はそう多くはない。そんな中、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とは幸運なことに

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #52〈奇跡的なピアニシモ――ゲヴァントハウス管〉

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #51〈ストイックなリハーサルの先に――ハーゲン・カルテット〉

                                『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  チェコフィルとの全4つのコンサートを盛況に終えたのも束の間、次の日からまた新しいリハーサルが始まった。伝説の弦楽四重奏団、ハーゲン・カルテットとのリハーサルだ。この弦楽四重奏団は1981年に結成された。結成当初のメンバーは全員が兄弟(ルーカス・ハーゲン、アンゲリカ・ハーゲン、ヴェロニカ・ハーゲン、クレメンス・ハーゲン)だったが、第二ヴァイオリンを務めていた長女アンゲリカがソロ

                                ピアニスト・藤田真央エッセイ #51〈ストイックなリハーサルの先に――ハーゲン・カルテット〉

                                岩井圭也「われは熊楠」:第六章〈紫花〉——終幕、そして

                                第六章 紫花 中屋敷町の邸宅の上には、今にも降り出しそうな分厚い雲がかかっていた。  湿気た空気が漂う庭には、楠や安藤蜜柑の木が植えられ、地面には一面枯葉が敷き詰められている。栴檀が藤色の花を咲かせていた。一九四一(昭和十六)年六月のことだった。  戸を開け放した八畳の離れに、男女の人影があった。女のほうは、横たえたテングタケを肉眼で観察しながら、紙の上に絵筆を走らせている。その傍らで、老いた男は顕微鏡を覗きこんでいた。  老人——齢七十四の南方熊楠は、地衣類の検鏡に集中して

                                岩井圭也「われは熊楠」:第六章〈紫花〉——終幕、そして