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一穂ミチ「アフター・ユー」(*小説)

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ある日突然姿を消した恋人。彼女は自分の意志で消えたのか、それとも……。最悪の事態に怯えながら、残された青吾は手掛かりを求めて動き出す。愛を問う、大人のための恋愛小説
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一穂ミチが描く「愛」のかたち――〈はじまりのことば〉

 二年半ぶりに「はじまりのことば」を書くことになった。前作(『光のとこにいてね』)のスタ…

一穂ミチ「アフター・ユー」#007

「ほな、あの花束は……」  沙都子が言葉の続きを引き取った。 「浦さんが、ご自分のお父さま…

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一穂ミチ「アフター・ユー」#006

『もしもし』  多実の声だった。すこし掠れているが、間違いない。青吾は、自分でも意外なほ…

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一穂ミチ「アフター・ユー」#005

 涙の筋で、頰の一部分だけ突っ張る感じがした。先に口を開いたのは沙都子だった。 「とりあ…

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一穂ミチ「アフター・ユー」#004

 夢か、それとも、俺の頭がどないかなってしもたんやろか。夢やとしたら、どっからや。 『青…

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一穂ミチ「アフター・ユー」#003

 羽田空港の待ち合わせ場所で沙都子を見つけた瞬間、何より先に「一緒に歩きたくない」と思っ…

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【全文無料公開】一穂ミチ「アフター・ユー」#002

『もしもし? 大丈夫ですか?』  大丈夫って、この上なく漠然とした言葉だと思った。気遣いっぽく聞こえるだけで、中身は空っぽだ。何について訊いとんねん。この状況で大丈夫なわけがあるとでも思うんか。「大丈夫じゃありません」って言うたら、何かしてくれるんか。いちゃもんのような問いを溜め込んだまま、青吾は「はい」と答えた。 『中園多実さんという女性が、三日前に長崎県の五島列島で転覆した小型船に乗っていたかもしれません』 「え、あの、すいません、」  舌が前歯の裏に貼りついてうまく発音

【全文無料公開】直木賞受賞! 一穂ミチ 最新連載「アフター・ユー」#001

 『ツミデミック』で第171回直木賞を受賞した一穂ミチさんの最新連載「アフター・ユー」。受…