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朝倉かすみ「よむよむかたる」(*小説)

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小樽の古民家カフェで開かれる〈坂の途中で本を読む会〉。本を読み、人生を語る、みんなの大切な時間。最年長九十一歳、最年少七十七歳、今日もにぎやかに全員集合!
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朝倉かすみ「よむよむかたる」 はじまりのことば

 わたしが物心ついたときには、母はもう「ちいさな集まり」の参加者だった。  近所の主婦た…

朝倉かすみ「よむよむかたる」#008

喫茶シトロンの窓から店内を覗き込む若い女性。 安田が見咎めると、彼女は開き直ったように口…

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朝倉かすみ「よむよむかたる」#007

 安田は、今、市立小樽文学館に向かって歩いている。ちょうど図書館の前を通り過ぎたところだ…

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朝倉かすみ「よむよむかたる」#006

「返事なんぞ期待しちゃいません」 会長の言葉に、安田はかつて〈ご返事ご無用〉の手紙を書い…

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朝倉かすみ「よむよむかたる」#005

戦時下の暮らし、息子の事故死――読書会で語られる 老人たちの思い出が、安田のある記憶を呼…

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朝倉かすみ「よむよむかたる」#004

老人たちの読書会で「読み」担当となった安田。 彼の音読に感極まったまちゃえさんは、亡き息…

朝倉かすみ「よむよむかたる」#003

一年ぶりに再開された〈坂の途中で本を読む会〉。 老人たちの熱心な姿を前にして、安田は……  坂の途中で本を読む会では、課題本をひとり二ページ見当で朗読し、その都度、皆で感想を述べ合う。そう美智留ノートに書いてあった。これが一ラウンドで、時間の許すかぎり何ラウンドでも繰り返すらしい。  課題本は「読む本」、朗読は「読み」と言い換えるのが定着していて、「読み」の順番は入会順。読む会では、オヤツ当番、読む本当番などさまざまな「当番」があるが、その持ち回り順はすべて入会順なのだそう

朝倉かすみ「よむよむかたる」#002

2 いつかの手紙 スッ。会長が腕時計へと視線を下げた。それで場が静まった。なぜなら、スッ…

朝倉かすみ「よむよむかたる」#001

小樽の古民家カフェで開かれる〈坂の途中で本を読む会〉。本を読み、人生を語る、みんなの大切…