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ルームシェアで〝一生最強〞を目指す!自由な未来の選択肢を示した傑作――小林早代子『たぶん私たち一生最強』インタビュー

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「もうさー女友達と一生暮らしたいんだよね最近は!」

 そんな叫びから始まる『たぶん私たち一生最強』。みお——高校時代からの女友達である4人が、ルームシェアを通じて大マジメに〝一生最強〟の人生を目指す物語だ。

 著者のばやしさんは2015年に「くたばれ地下アイドル」で第14回「女による女のためのR―18文学賞」読者賞を受賞し同作でデビュー、本作は2作目となる。出発点は、『小説新潮』の官能小説特集に掲載された短篇「よくある話をやめよう」だった。

「海外ドラマの『フレンズ』が大好きで、友達同士で近くに住んで、わいわいと楽しく過ごす暮らしに憧れがあったんです。私も女性たちが一つ屋根の下で生きる物語を書きたいなと思ったとき、『よくある話をやめよう』で描いた花乃子を含む女4人を主人公に据え、ルームシェアものに舵を切ったのが第1話『あわよくば一生最強』でした。この話を書き終えた後、『私もやってみるか』というノリで、親友とシェアハウスを始めたのですが、これがもうめちゃくちゃ楽しくて! とても快適で、なにひとつ不自由がなかったんです。女性同士で実現できないことって、子どもを作ることだけなのでは? とすら思いました。同時に、当時は私も友人も20代後半で仕事も忙しく、『この生活に子育てが加わったら大変すぎるな』とも感じました。実際、周囲で子育てしていた友人たちも、とても疲れていたし、余裕のある人が一人もいなくて……。女性同士の和気あいあいとした楽しい生活を守りながら、何かを大きく犠牲にすることなく子育てするにはどうしたらいいんだろう? と考えたとき、じゃあ4人の女性が一緒に暮らして、皆で子育てしたらいいんじゃないか! と発想が膨らみ、執筆に繫がっていきました」

 4人は、それぞれ悩みを抱えながらも、たくましく自由に生きることを諦めず、エネルギーに満ちている。一方で、恋人や夫婦、家族とは違う、適度な距離感を保った関係性も興味深い。

「何かすれ違いが起きたとき、いわゆる家族だと『血が繫がっているから分かり合えるはず』と正面から向き合おうとしなかったり、恋人同士だとなんとなくセックスして仲直りできちゃったり、互いの間に横たわる問題をおざなりにしてしまうことが多い気がするんです。でも、女友達同士なら、そういう甘えが生まれにくいというか、お互いが快適に暮らせるように適度に気を遣えると思って。私が親友とシェアハウスをしていた時も、友人同士だからこそ、程よい距離感がありました。作中の4人も、一心同体というわけではなく、みんな自立していて一人でも生きていける。でも4人で一緒にいるともっと楽しいから、共に暮らしているんですよね。『女性同士ってマウンティングとか大変だよね』というイメージを持っている人もいますが、むしろ私は、世の女性たちはすごく気遣い合いながら生きているなと思います。結婚、妊娠、出産、子育てと人によってライフステージが異なるからこそ、『これってマウントにならないよね?』と想像力を働かせて会話する人が多い気がしますね」

 互いに踏み込みすぎず、一定の線を引きながらも、テンポ良く進む会話劇も読みどころだ。

「私自身、高校時代からの友達4人と、社会人になっても毎週のように会っていた時期があったんです。ベロベロになるまで飲んで、くだらない話で朝まで盛り上がって、この時間がずっと続けばいいのにと思うくらい楽しかった。その温度感や、交わされた会話がインスピレーションの元になりましたね」

 プロットは細かく作らなかったが、執筆中にひとつ決めていたことがあったという。

「シェアハウスをテーマにした作品はたくさんありますが、多くは期間限定の同居で、最終的に解散するんですよ。せっかく私が書くなら、そういう結末はやめようと思っていました。どうしたらこの生活が続けられるのか模索し続けたことによって、スタンダードな家族の在り方よりも少し自由な未来の選択肢を最後の一篇で提示できたと思います」

 現在、アメリカに住みながら執筆活動を続けている小林さん。本作を通じて、同年代のアラサー女性については一旦書き切ったという手応えがある。
「次は青春小説に挑戦したいですね。私は、中学生くらいからインターネットが当たり前にある世代ですし、今の中高生はもっと身近なはず。オフラインとオンライン、両方の友情を描けたらいいなと考えています。新しいチャレンジを続けていきたいです」

写真:新潮社

◆プロフィール
小林早代子(こばやし・さよこ)
 1992年、埼玉県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2015年、「くたばれ地下アイドル」で第14回「女による女のためのR―18文学賞」読者賞を受賞し、同作にてデビュー。24年7月、最新刊『たぶん私たち一生最強』を刊行。

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