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発売即重版! 彼を見殺しにした男達を許さない――どんでん返しミステリ|くわがきあゆ『復讐の泥沼』インタビュー

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 とうの展開、次から次に予想が裏切られる……そんな一冊が誕生した。くわがきあゆさんの最新刊『ふくしゆうどろぬま』(宝島社文庫)だ。くわがきさんは2022年に『レモンとさつじん』で第21回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリを受賞、同作は現在30万部超のベストセラーとなり、大きな話題となった。
「いつか復讐を動機とするミステリを書いてみたいなと思っていました。私は本格ミステリよりも、どちらかというと社会派ミステリが好きなんです。ささもとりようへいさん、やくまるがくさん、あいひでさん、しもむらあつさん、やまじんさんといった方々の作品を読んできました。トリックそのものよりも、人々の動機、つまりホワイダニットに惹かれます」
『復讐の泥沼』も、まさに「なぜ?」を追ううちに、あっという間に作品世界に没入し、一気読みしてしまう作品だ。
 主人公のひかりは、もりおかそういちとともに古民家カフェを訪れるが、建物の老朽化による崩落事故に巻き込まれる。居合わせた客の中には、医療従事者らしき二人の男がいた。光は、じろぎしない颯一を何とか救い出そうと、男二人に懸命に助けを求めるが、彼らは「だめだ」と言い残し去ってしまう。なぜ最愛の人は死ななければならなかったのか。颯一をうしなった光は、その理由を追い求めて行動を続ける。しかし、目的に向かって脇目も振らずに進んでいく姿は、次第に周囲を混乱させていく。
「光は、自分の気持ちにとても正直で、目的に向かって猛進できる人です。彼女のように、自分の立場や世間の目を考えずに生きられたら、どんなにいいだろう……そんな憧れのようなものを込めて書きました。途中からどんどん過激化していくので、〝憧れ〟と言うと少し語弊があるかもしれませんが(笑)。『光、もっとやれやれー!』と思いながら書いていました。小説でしか描けない人間を描くのはとても楽しいですね」
 光は、男の一人の身許を特定し接触を図るが、目の前で彼は何者かに銃殺されてしまう。一方、もう一人の男・やくわたるは、光の行方を追っていた。その驚くべき目的も、本書の読みどころだ。
「光と薬師に共通しているのは、〝極端なピュアさ〟だと思います。極端なキャラクターを書くようになったのは、ある新人賞の選評がきっかけでした。普通とは言い難い、おかしな人間を書くのが上手だと仰っていただいて。それまで自分では意識していなかったのですが、せっかくそこが長所なら伸ばしていきたいなと」
 颯一が死んだ理由を知りたい——その動機は当たり前のことのように感じるが、その執着を前に、読者はページをめくる手がとまらないだろう。そしてラストに向かって二重、三重と訪れる〝どんでん返し〟も本書の魅力だ。
「私は関西人だからか、物語にオチを求めるんです。しかも一回ではなく、何度もオチを作りたくなってしまう(笑)。高校生のとき、おついちさんの作品と出会ったのが、私の〝元祖びっくり体験〟で、強い衝撃を受けたことをよく覚えています」
 日常生活のなかで抱いたちょっとした疑問をもとに、物語を立ち上げていくことが多いという。
「読売新聞の人生相談欄が大好きで、『この人はどうしてこういう行動をとるんだろう?』とか、つい色々と妄想しながら読んでしまいます。普段の生活の中で感じたちょっとした違和感が出発点になることもありますね。『復讐の泥沼』のプロットを考えている頃に、スーパーで買物をしていたら、突然おばあさんがぶつかってきたんです。私の近くにあった商品をとるために走ってきたようで、目的のものが手に入ったら満足したのか、謝ることもなく去って行って……。どうしてこの人は、自分の目的だけに向かって突進できるんだろう、と考えてしまいました。そういう体験も、登場人物の造型に繫がっているかもしれません」
 小学生の頃から小説家になりたかったというくわがきさん。現在は国語教師として高校に勤めながら、執筆を続けている。
「小説を書くことが大好きなので、新人賞に何度落ちてもめげずに書き続けてきました。今は次作の準備を進めています。人間の倫理観を問うようなミステリになる予定です。今後はこれまでの作風にとらわれずに、色々なタイプの作品に挑戦していけたらと思っています」

写真:深野未季

◆プロフィール
くわがきあゆ(くわがき・あゆ)

 1987年生まれ。京都府出身。京都府立大学卒業。第8回「暮らしの小説大賞」を受賞し、『焼けた釘』(産業編集センター)で2021年デビュー。22年、『レモンと殺人鬼』で第21回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリを受賞。24年8月『復讐の泥沼』を刊行。

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