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透明ランナーのアート&シネマレビュー

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「現代アーティストとしての坂本龍一」を振り返る――現代アートへの接近、そして越境|透明ランナー

「現代アーティストとしての坂本龍一」を振り返る――現代アートへの接近、そして越境|透明ランナー

 "教授"と呼ばれたアーティストが亡くなりました。

 坂本龍一(さかもと りゅういち、1952-2023)は2000年代以降、音楽家や社会運動家としての活動の一方で、大型のサウンド・インスタレーションを次々と手掛け、美術展や国際芸術祭へ精力的に参加し、現代アート界に接近していきました。

 2012年に東京都現代美術館で音楽と現代アートに関する展覧会をプロデュースし、2014年には札幌国際芸術祭

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下瀬美術館&広島市現代美術館――広島の新たな顔となるふたつのミュージアム|透明ランナー

下瀬美術館&広島市現代美術館――広島の新たな顔となるふたつのミュージアム|透明ランナー

 まずは写真を見てください!

 2023年3月、広島にふたつの美術館がオープン/リニューアルオープンしました。

 ひとつは2023年3月1日(水)に開館した下瀬美術館。広島市の建築資材メーカー・丸井産業の経営者のコレクションを展示する私立美術館です。美術館の設計を手掛けたのは、建築家の坂 茂(ばん しげる、1957-)。ひときわ目を引く色鮮やかな8つのキューブが水盤の上に並んでいます。

 も

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「VOCA展2023」――“平面”を拡張していく40歳以下のアーティストの展覧会|透明ランナー

「VOCA展2023」――“平面”を拡張していく40歳以下のアーティストの展覧会|透明ランナー

 さあVOCA展ですよVOCA展! 3月といえば桜とVOCA展です!

 VOCA展は「平面美術」の領域で国際的に通用する若い作家を支援する目的で1994年に始まり、2023年で30周年を迎える歴史ある展覧会です。全国の学芸員や研究者などの推薦委員約30~40人が、「40歳以下」の若手作家をそれぞれ推薦するという形で開催されます。こういう展覧会はなかなか珍しいです。

 選出条件はふたつだけ、「平

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「合田佐和子」展――美術の“正史”に挑んだ稀代の表現者の「眼」|透明ランナー

「合田佐和子」展――美術の“正史”に挑んだ稀代の表現者の「眼」|透明ランナー

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 私はずっとこの展覧会を楽しみにしていました。今回紹介するのは「合田佐和子展 帰る途(みち)もつもりもない」(三鷹市美術ギャラリー)。合田佐和子(ごうだ さわこ、1940-2016)の没後初にして過去最大規模となる個展です。

 本展は合田の初期から晩年までの作品が網羅的に紹介される、非常に充実した展覧会です。彼女は1965年の個展デビュ

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東京、京都、大阪……アートフェアを巡り日本のアート市場を考える|透明ランナー

東京、京都、大阪……アートフェアを巡り日本のアート市場を考える|透明ランナー

 3月! 春ですね! 春といえばそう、アートフェアです!

 アートフェアとは、複数のアーティストやギャラリーが一堂に会して作品の売買を行うアートの見本市です。アーティストやギャラリーにとっては自身をアピールする場、コレクターにとっては市場の動向を探る場となりますが、一般客にとっても気軽にアートを購入できる場として楽しむことができます。

 2023年3月10日(金)~3月12日(日)、日本最大級

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日本未公開映画を観る11の方法――アカデミー賞授賞式を100倍楽しむために|透明ランナー

日本未公開映画を観る11の方法――アカデミー賞授賞式を100倍楽しむために|透明ランナー

 いよいよ日本時間2023年3月13日(月)、第95回アカデミー賞授賞式が開催されます。全世界の映画ファンが楽しみにしている年に一度の祭典、いやが上にもボルテージが高まってきているところです。

 最初はアカデミー賞の受賞予想記事でも書こうかな……と思っていたのですが、私の予想を見ても仕方ないですし、当たったところで何かあるわけでもありません。というわけでもっと読者の皆様に役立つ記事を書こうと思い

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『別れる決心』――パク・チャヌクに流れる“猥雑さ”の源流をたどる|透明ランナー

『別れる決心』――パク・チャヌクに流れる“猥雑さ”の源流をたどる|透明ランナー

 パク・チャヌク(1963-)の6年ぶりの新作長編映画、『別れる決心』がついに公開されました。

 私はパク・チャヌクの「猥雑さ」が大好きです。脚本も撮影も到底想像の及ばない超絶技巧を駆使し、綱渡りのようにギリギリのタイミングでつなぎ合わせながら、奇跡的に1本の映画として結実しています。『別れる決心』も、一見クライムサスペンス映画のようでありながら、ラブロマンス映画でもあり、アクション映画でもあり

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「恵比寿映像祭2023」――映像表現の拡張可能性を問い続けるフェスティバル|透明ランナー

「恵比寿映像祭2023」――映像表現の拡張可能性を問い続けるフェスティバル|透明ランナー

 私は毎年個人的に「美術展ベスト10」を作っていますが、普通に挙げると必ずランクインしてしまうので“殿堂入り”にしている展覧会があります。そのくらい大好きなのが「恵比寿映像祭」です。

 「恵比寿映像祭」は2009年の第1回以来、毎年東京都写真美術館を中心に開催されている映像の祭典です。2023年で15回目を迎えます。展示、上映、ライヴ・パフォーマンス、トーク・セッションなど複数のイベントが行われ

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「六本木クロッシング2022展」――日本の現代アートシーンを俯瞰するシリーズ展|透明ランナー

「六本木クロッシング2022展」――日本の現代アートシーンを俯瞰するシリーズ展|透明ランナー

 ついに! 書きます! 六本木クロッシング展を!

 六本木クロッシング展は、東京・六本木の森美術館で2004年から3年に一度開催されている現代アートのグループ展です。7回目となる「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(~2023年3月26日(日))では、4人のキュレーターがアーティストをそれぞれ推薦し、議論を交わしながら出展アーティストを決定していきました。今回は1940年代生まれから

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『イニシェリン島の精霊』――美しい孤島に訪れる奇妙な仲違い|透明ランナー

『イニシェリン島の精霊』――美しい孤島に訪れる奇妙な仲違い|透明ランナー

 私はあらすじが書けません。

 冒頭であらすじを紹介し、監督や俳優の略歴に触れ、感想に入るというのがよくある映画評のパターンですが、本連載はそのような流れで書いたことはありません。映画は演出、撮影、音楽、編集など多種多様な要素の積み重ねであり、ストーリーを取り出してうまくまとめるのは非常に難しいことです。あらすじを書かないのではなく書けないのです。

 たとえば前回の記事「『ピンク・クラウド』―

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『ピンク・クラウド』――未来を予言してしまった映画が描く限界状況の人間関係|透明ランナー

『ピンク・クラウド』――未来を予言してしまった映画が描く限界状況の人間関係|透明ランナー

 世界中で突如発生した正体不明のピンク色の雲、その空気を吸い込むと10秒で死に至る。人々はある瞬間を境に家から出られなくなり、突然新たな生活様式が始まる――。そんな世界を描いた映画『ピンク・クラウド』が、2023年1月27日(金)から公開となりました。
 
 映画の冒頭で「2017年に脚本が書かれ、2019年に撮影された。現実との一致は偶然である」という文言が流れます。この映画は新型コロナウイルス

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「DOMANI・明日展 2022-23」――2年ぶりの開催となった文化庁・在外研修の成果展|透明ランナー

「DOMANI・明日展 2022-23」――2年ぶりの開催となった文化庁・在外研修の成果展|透明ランナー

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 今回紹介するのは、六本木・国立新美術館で2023年1月29日(日)まで開かれている「DOMANI・明日展 2022-23」です。

 文化庁は若手芸術家の海外研修を支援する「新進芸術家海外研修制度」(略称:在研)を1967年度から実施しており、美術分野ではこれまでに1,400人を超える人材を送り出してきました。この研修の成果を発表する機

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2022年の美術展&ギャラリー展示ベスト10|透明ランナー

2022年の美術展&ギャラリー展示ベスト10|透明ランナー

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 私が美術展・ギャラリー巡りを本格的に始めたのは高校生のとき。それ以来毎年さまざまなジャンルの展覧会を訪れました。地方の美術館や芸術祭にも、時間を見つけては夜行バスや青春18きっぷで足を運んできました(その様子を「限界旅行」と称し、WEB別冊文藝春秋でオンライントークイベントをする機会を与えていただきました)。

 2022年は美術館とギ

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マルチバースカンフー映画からパルム・ドール受賞作まで…今年映画館で見たい作品10選!|透明ランナー

マルチバースカンフー映画からパルム・ドール受賞作まで…今年映画館で見たい作品10選!|透明ランナー

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
 2022年6月に始まった本連載「透明ランナーのアート&シネマレビュー」では、映画と美術展のレビューをこれまで34本お届けしてきました。読んでくださった皆様のおかげでここまで続けることができました。2023年もよろしくお願いします。

 2022年の映画の振り返りとして、「2022年日本公開映画ベスト10」&「2022年日本未公開映画ベスト

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