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透明ランナーのアート&シネマレビュー

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記事一覧

透明ランナー|『秘密の森の、その向こう』――時空を超えた出会いによる女性同士の喪失と癒しの物語

透明ランナー|『秘密の森の、その向こう』――時空を超えた出会いによる女性同士の喪失と癒しの物語

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 今回紹介する映画は『秘密の森の、その向こう』(2021)。前作『燃ゆる女の肖像』(2019)で映画史に燦然と輝く金字塔を打ち立てた(というありきたりな表現では足りないほどの傑作ですね)、セリーヌ・シアマ(1978-)[1]の最新作です。

 主人公は8歳の少女ネリー。大好きだった祖母が亡くなり、整理のために森の中にぽつんとたたずむ祖母の

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透明ランナー|「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」展――広がり続ける写真芸術の自由な可能性

透明ランナー|「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」展――広がり続ける写真芸術の自由な可能性

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 今回紹介するのは、東京都写真美術館で開かれている「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」展です。「日本の新進作家」展は2002年から東京都写真美術館で定期的に行われている企画展で、新たな写真・映像表現に挑戦している若手作家の作品をピックアップして紹介するものです。私は2008年の「vol.7」以降毎回訪れ、どんな作品と出会えるのか

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透明ランナー|第25回文化庁メディア芸術祭――今年で最後のメディア芸術の祭典を振り返る

透明ランナー|第25回文化庁メディア芸術祭――今年で最後のメディア芸術の祭典を振り返る

 文化庁が主催し、メディア芸術の振興を目的として作品を選出する「文化庁メディア芸術祭」(メ芸)。①アート部門、②エンターテインメント部門、③アニメーション部門、④マンガ部門の4部門について、大賞、優秀賞、新人賞などが選出されます。1997年度から毎年行われ、日本のメディア芸術の発展に大きな役割を果たしてきました。

 その第25回受賞作品展が9月26日(月)まで、お台場の日本科学未来館で開催されて

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透明ランナー|『LOVE LIFE』――人と人との分かりあえなさ、深田晃司が描き続ける“孤独”

透明ランナー|『LOVE LIFE』――人と人との分かりあえなさ、深田晃司が描き続ける“孤独”

 映画『LOVE LIFE』が2022年9月9日(金)から公開されています。本作の深田晃司(ふかだ こうじ、1980-)監督は、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した『淵に立つ』(2016)をはじめ、人間の心に根ざす孤独を見つめる映画を作り続けてきました。

 本作の主人公は30代の女性、妙子(木村文乃)。再婚した夫・二郎(永山絢斗)、息子の敬太(嶋田鉄太)と3人で暮らしていま

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透明ランナー|「李禹煥」展――代表作から新作まで、現代美術界の巨匠の絵画と彫刻の“変遷”を楽しむ

透明ランナー|「李禹煥」展――代表作から新作まで、現代美術界の巨匠の絵画と彫刻の“変遷”を楽しむ

 1960年代から現在に至るまで、絵画と彫刻の両面で戦後日本の現代美術を牽引し続けてきた巨匠、李禹煥(リ・ウファン、1936-)。国立新美術館の開館15周年記念展として、彼の業績を振り返る大規模個展「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」が開催されています。

 李は韓国で生まれ、日本で文学や哲学を学んだ後、1960年代後半から本格的に絵画・彫刻作品の制作を始めます。初期には物質にほとんど手を加え

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透明ランナー|国際芸術祭「あいち2022」――現代アートから土地の歴史・文化・産業を想起する

透明ランナー|国際芸術祭「あいち2022」――現代アートから土地の歴史・文化・産業を想起する

 名古屋市をはじめとした愛知県内各所で、国際芸術祭「あいち2022」が10月10日(月・祝)まで開催されています。2010年から2019年まで3年ごとに開催されていた「あいちトリエンナーレ」を引き継ぐ形で、運営体制を一新して新たな芸術祭として再スタートを切りました。
 現代美術展には32の国と地域から82組のアーティストが参加しています。同時に開催されるパフォーミングアーツ(演劇やダンスなどの舞台

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透明ランナー|ウォン・カーウァイの映画をふたりの小説家から読み解く――村上春樹、そしてマヌエル・プイグ

透明ランナー|ウォン・カーウァイの映画をふたりの小説家から読み解く――村上春樹、そしてマヌエル・プイグ

 香港の映画監督ウォン・カーウァイ(1958-)の作品を4Kレストアバージョンで上映する特集「WKW4K ウォン・カーウァイ 4K」が、8月19日(金)から始まりました。上映されるのは『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』の5本。彼のキャリアを代表する作品が自らの手によりレストアされ、映画館のスクリーンで鮮やかに蘇ります。札幌から那覇まで全国約40の映画館で順次公開

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透明ランナー|瀬戸内国際芸術祭2022夏会期 Vol.2【小豆島・男木島・女木島・大島・高松篇】

透明ランナー|瀬戸内国際芸術祭2022夏会期 Vol.2【小豆島・男木島・女木島・大島・高松篇】

 前回の記事「瀬戸内国際芸術祭2022夏会期 Vol.1」に続き、今回は小豆島、男木島、女木島、大島、高松の作品を紹介します。

小豆島 2万5000人ほどが住む小豆島は、船でしか行けない(橋や空港がない)島として国内最大の人口を有し、フェリーの発着本数は日本一です。広い島内の各地に作品が点在し、事前に計画を立てないとなかなか観たい作品を回りきれないエリアでもあります。

 小豆島で今回最も良かっ

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透明ランナー|瀬戸内国際芸術祭2022夏会期 Vol.1【直島・宇野港・豊島・犬島篇】

透明ランナー|瀬戸内国際芸術祭2022夏会期 Vol.1【直島・宇野港・豊島・犬島篇】

 3年に1度開かれる日本最大級のアートイベント、瀬戸内国際芸術祭2022 夏会期がついに始まりました! 瀬戸内海に広がる美しい島や港を舞台に、今回で5回目となるこの芸術祭。33の国・地域から184組のアーティストが参加し、彫刻、写真、映像、演劇、さまざまなジャンルの作品を楽しむことができます。
 今年7月にはTIME誌の“The World's Greatest Places of 2022”で紹

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透明ランナー|『異端の鳥』&『マルケータ・ラザロヴァー』――無限の想像力に酔いしれる3時間

透明ランナー|『異端の鳥』&『マルケータ・ラザロヴァー』――無限の想像力に酔いしれる3時間

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
 先日このツイートが目に入った瞬間、私は嬉しくて叫び声を上げてしまいました。ヴァーツラフ・マルホウル監督の映画『異端の鳥』(2019、チェコ、スロヴァキア、ウクライナ合作)が、2022年8月5日(金)からAmazonプライムビデオ見放題となりました。私が近年観た映画の中で最も忘れがたく、強烈に心に残った作品のひとつです。

 映画化不可能と

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透明ランナー|浅間国際フォトフェスティバル――雄大な自然に囲まれて観る現代写真のダイナミックな表現

透明ランナー|浅間国際フォトフェスティバル――雄大な自然に囲まれて観る現代写真のダイナミックな表現

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
 今回行ってきたのは、7月16日(土)から9月4日(日)まで開催されている「浅間国際フォトフェスティバル」です。会場は浅間山のふもと、長野県北佐久郡御代田町(みよたまち)にあるMMoP(御代田写真美術館)。避暑地として知られる軽井沢のすぐ近くに位置しています。日本を代表する写真家である石内都(いしうち みやこ、1947-)や森山大道(もりや

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透明ランナー|『戦争と女の顔』――私たちの戦争は終わらない

透明ランナー|『戦争と女の顔』――私たちの戦争は終わらない

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
 この映画を紹介できること、それは私にとって何よりの喜びです。初めて本作を観たのは2019年。私はあまりの素晴らしさに言葉を失い、「こんなにすごい映画がある!」「絶対日本でも公開されるべき!」と周囲に言い続けてきましたが、2022年7月15日(金)ついに劇場公開されることとなりました。
 何も言わずにとにかく観てほしい。その一言に尽きます。

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透明ランナー|「ルートヴィヒ美術館」展――ドイツ表現主義から現代美術まで、“市民が創った”豪華なコレクション

透明ランナー|「ルートヴィヒ美術館」展――ドイツ表現主義から現代美術まで、“市民が創った”豪華なコレクション

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
 あれは2010年10月のこと。東西ドイツ統一20周年を記念して各地で行われる式典にあわせて私はジャーマンレイルパスでドイツ全土を旅行していました。フランクフルトからハンブルクに向かう途中ケルン中央駅で3時間の乗換時間があり、駅から目と鼻の先にある美術館に寄る計画を立てていました。コレクションや美術館の歴史などを調べてウキウキでその日を待っ

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透明ランナー│『わたしは最悪。』――何者にもなれずもがく30歳のリアル

透明ランナー│『わたしは最悪。』――何者にもなれずもがく30歳のリアル

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
 7月1日(金)に公開されるやいなや大きな話題を呼び、平日でも多くの回で満席となってミニシアターを沸かせている映画があります。ノルウェーからやってきた『わたしは最悪。』(2021年、ヨアキム・トリアー監督)です。

 主人公は30歳の女性ユリヤ。医学部で学んでいたものの突然心理学、そして写真家へと転向しますが、節目の年齢を迎えてもまだ自分の

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