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名作だらけ!“映画”との距離が近い多幸空間――山形国際ドキュメンタリー映画祭|透明ランナー

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 山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)2023に行ってきました!

 YIDFFは1989年に始まった、山形市内でドキュメンタリー映画を中心に上映する映画祭です。2年に一度開催され、2023年(10月5日(木)~12日(木))で第18回を迎えます。上映作品のクオリティもさることながら、毎回世界中から集まる豪華なゲスト、制作者と観客との距離が近い独特の雰囲気も含め、世界有数のドキュメンタリー映画祭としてその名を知られています。

 私は以前からどうしてもYIDFFに行きたかったのですが、2017年は直前で予定が合わず、2019年は大型台風で新幹線が止まってそもそも山形に入れず、2021年は新型コロナウィルスでリアル開催が中止になり……。そして今年、ついに、ついに来ました、YIDFF!


映画一色の山形は熱かった!

 3日間の滞在期間で長編短編あわせて23本のドキュメンタリーを観ることができました。その中から印象に残った作品を紹介していこうと思うのですが、その前にYIDFF全体の感想をひとこと言わせてください。もうめちゃくちゃ楽しかったです!

 事前にチェックしていた有名監督の作品も、前情報を入れずにふらっと飛び込んだ作品も、観た映画全部面白かったです。こんなに当たり率が高い映画祭は今まで経験がありません。ドキュメンタリーという未開拓の広大な原野を舞台に、いろいろな国・地域の作家がさまざまな手法を駆使し、そんな映画を朝から晩まで観られる……これほどエキサイティングな体験はありません。

 そして観客の熱量の高さ! 特に驚いたのは、アジアのまだそれほど有名でない作家の作品を上映する「アジア千波万波」部門です(今回は67の国・地域から1002作品の応募があり、19作品が選ばれました)。この部門は多数の作品が満席で、開場15分前には並ばないと座れず、立ち見も制限されて入場規制がかかることもありました。

 立ち見もいっぱいで入場規制となった韓国映画『私はトンボ』

 戦後日本で実験映画や前衛的なドキュメンタリーに取り組んだ野田のだ真吉しんきち(1913-1993)の特集上映もそうです。どの回も入場待ちの列が長く伸びており、シニアの映画ファンだけでなく若い人の姿もかなり多かったです。こんなに注目度が高いとは!

野田真吉特集、「最後尾」の札を持った人の姿が見えないくらい長蛇の列ができていました

 初めてYIDFFに行った私にとってこれは本当にびっくりしました。こんなに満席が続出する映画祭なんてそうそうありません。コロナ禍を経て4年ぶりのリアル開催ということもあり、全国から集まったドキュメンタリー好きだけでなく、地元・山形の方と思われる観客も多く来ており、皆さんとても熱心にご覧になっていました。

 そしてYIDFFの最大の魅力はゲストと観客との距離の近さです。「新・香味庵クラブ」という誰でも入れる交流の場が午後9時から午後12時まで開かれています。初対面の人とも、国外の人とも、誰とでも気軽に映画の話ができる場所です。

 この会場はゲストが宿泊しているホテルの2階にあり(1階が大浴場)、浴衣でふらっと訪れる海外の映画関係者やジャーナリストもいました。いたるところで入れ代わり立ち代わり映画の話が繰り広げられる、夢のような空間でした。

 距離の近さといえば、入場口に背の高い人がいるな~と思ったらダミアン・マニヴェル監督がもぎりをやっていました。ファンからサインを求められると気さくに応じていました。映画を観終わって出てくると今度はアンケートの回収箱を持って立っていました。さらに次の作品と次の次の作品のもぎりもやっていました(??)。監督がもぎりをやっている映画祭なんて聞いたことがありません。カンヌやヴェネツィアやロカルノに出た監督ですよ! サービス精神旺盛すぎますね。

※2023年10月19日追記
ダミアン・マニヴェル監督だと思っていたのですが、見間違いだったようです。映画祭関係者の方からご指摘いただきました。たいへん失礼いたしました。訂正いたします。

 10月の山形は映画一色で、見知った監督や映画関係者がたくさんいるのもよかったです。映画を観ていると隣の席に山戸やまと結希ゆうき監督、後ろには吉開よしがい菜央なお監督が! お昼ごはんを食べていると四方田よもた犬彦いぬひこさんが! 街を歩いていると飯岡いいおか幸子ゆきこさん(『偶然と想像』(2021)などの撮影監督)が! こんなにゲストや関係者との距離が近い映画祭は他にありません。毎日楽しかったです。2025年も絶対来ます!

【DAY1】ニッツ・アイランド(仏)

 着いたぞ山形!

 1本目に観るのは『ニッツ・アイランド』(2023)。ゾンビで溢れた世界をサヴァイヴするオンラインゲーム「DayZ」を舞台に、監督とクルーが963時間にわたって潜入取材したドキュメンタリーです(画面には潜入後何時間経ったかが表示されます)。

 ゲームの中でコミュニティを築くさまざまな人々に話を聴き、その生き様を探っていきます。全編がオンラインゲームの映像と音声のみで構成された映画です。この文章だけだと理解が追いつかないので、まずは予告編を観てみてください。

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