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豊田市美術館のイマジナティヴなキュレーション――「枠と波」「吹けば風」展|透明ランナー

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 日本には素晴らしい美術館が全国各地に多数ありますが、その中でも企画展のたびに必ず遠征して観に行く、圧倒的信頼を置いている美術館がいくつかあります。そのひとつが愛知県・豊田市にある豊田市美術館です。美術館の建物は建築家・谷口たにぐち吉生よしお(1937-)の設計によるものです。

豊田市美術館 外観

 豊田市美術館は国内でも有数の規模の作品を所蔵しています。海外作品ではクリムトやシーレなどのウィーン分離派、シュルレアリスム、アルテ・ポーヴェラ、アーツ・アンド・クラフツ運動などなど。日本美術も日本画から現代アートまで幅広く購入しています。同時代の作品を継続的に収集している公立美術館はさほど多くありません。同じアーティストの作品を複数所蔵し、コレクションを中心としたミニ企画展を常に行っている(行えるほどしっかりと体系的に集めている)ことも特徴です。

 現在豊田市美術館ではみっつの企画展が行われています。企画展「吹けば風」、所蔵作品に基づいたミニ企画展「コレクション企画 枠と波」、通常のコレクション展「2023年度 第1期 コレクション展」です(いずれも2023年9月24日(日)まで)。「吹けば風」/「枠と波」という一見とらえどころのないタイトルを冠し、名前からして心惹かれます。豊田市美術館のユニークな展覧会を観ていくことにしましょう。(写真は透明ランナー)


「枠と波」

 「枠と波」というやや不思議な2単語をキーワードに、豊田市美術館が所蔵する作家の中から、1960~70年代の作品を現在と接続させつつ紹介する展覧会です。このタイトルは、文化人類学者・田中たなか雅一まさかず(1955-)の論文「〈格子〉と〈波〉とナショナリズム : 巨大な遺体安置所でLove Tripを聴きながら考えたこと」から取られているそうです。

 いずれもすごい作品が並んでいるのですが、まず注目すべきは櫃田ひつだ伸也のぶや(1941-)の作品だけを展示する部屋が設けられていることです。櫃田は愛知県立芸術大学などで長年教鞭をとり、奈良なら美智よしとも(1959-)の恩師としても知られています。2009年には愛知県美術館で「放課後のはらっぱー櫃田伸也とその教え子たちー」展が開かれ、奈良、杉戸すぎとひろし(1970-)、加藤かとう美佳みか(1975-)らの作品が展示されました。

 教育者としての側面が注目されがちですが、記憶の中の風景や身近なものを抽象的に再構成する絵画を描き続けています。今回は油彩だけでなく、絵葉書や新聞の切り抜きを青いマスキングテープで壁に貼り付けた作品が紹介されていました。櫃田の複数のタイプの作品を概観するのはなかなかない機会です。

 目をあけると、そこには風景があって、階段、ブロック壁、金網、てすり。からまっている蔦、針金、おちているタバコ、マッチ棒、つぶされた空罐。路上のセンターライン、矢印。全てのものが日常の中では多少のよごれと適当な美しさをもって、そこに在ります。どんなものでも在るということは、それなりのおちつきとたしかさをもっているようです。/風景をそのまゝ四角形でつかみとれば風景画がありそうなのに、在ることとキャンバスの中で描かれていることは限りなくちがっています。そこに描くことの行為・方法・考えが様々にくり返されます。

櫃田伸也「通り過ぎた風景」(西村画廊、1979)

 松澤まつざわゆたか(1922-2006)の作品も充実しています。パフォーマンス・アートは資料として展示できるものが少ないのですが、本展では記録映像やコラージュを記録したノートなどを組み合わせ、多角的に業績を眺めることができます。2022年に生まれ故郷である長野県の県立美術館で大規模な個展が開催され、今見てもまったく古びていない斬新な作品があらためて話題となりました。松澤のような複雑でコンセプチュアルなアーティストを、自館のコレクションを中心に紹介できるというのは、やはり豊田市美術館の強みです。

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