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『ゴーストワールド』から見る《ティーン映画》の系譜――22年ぶりの再公開に寄せて|透明ランナー

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 《ティーン映画》というジャンルがあります。「10代の生きづらさ」というテーマはいつの時代も作品の主題となり、数多くの名作が生み出され、同世代の若者が「私たちの物語」として支持してきました。その一方で、こうしたジャンルの物語は、後から振り返ってみて「あの頃はこうだったなあ」と感じることはあるものの、時代が下るにつれ「私たちの物語」として受容されることは少なくなっていきます。

 《カルト映画》という言葉があります。公開時よりも公開後に熱心なファンを獲得し、長期にわたって繰り返し鑑賞されるようになる作品です。『イレイザーヘッド』(1977、デヴィッド・リンチ[1])や『ピンク・フラミンゴ』(1972、ジョン・ウォーターズ)などがよく挙げられますが、個人的嗜好が前面に出た趣味性の高い作品だったり、早すぎて時代が追いつかなかった前衛的なSFだったりします。

 《ティーン映画》と《カルト映画》は時代性の点からして相容れないものであるはずです。ところが、公開時は《ティーン映画》としてヒットし、その後《カルト映画》となって現在も観続けられている奇跡のような作品があります。それが『ゴーストワールド』(2001、テリー・ツワイゴフ)です。

 公開から16年後、2017年にロサンゼルス近郊で行われた屋外上映(シネスピア)では、公開当時生まれていなかったような10代の若者が登場人物のコスプレをして参加するという驚くべき光景も見られました。

 そんな『ゴーストワールド』が、公開から22年ぶり、2023年11月23日(木・祝)に日本で再公開されます。こんなことあるんだ!

 《ティーン映画》として世に放たれた『ゴーストワールド』がなぜ《カルト映画》となり、20年以上経った今でも「私たちの物語」として受容され続けているのでしょうか。この記事では1990~2000年代の《ティーン映画》を振り返ると共に、『ゴーストワールド』がいま再公開される意義について見ていきたいと思います。


『ゴーストワールド』

 『ゴーストワールド』の主人公は、大都市郊外の名もなき町に住む幼馴染のイーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)。社会に対してどこか馴染めないふたりは、高校を卒業した後も進路を決めないままフラフラと日々を過ごしていました。

 そんなある日、ふたりはひょんなことから中年男性シーモア(スティーヴ・ブシェミ)と出会います。レコードコレクターのシーモアはぱっとしない人生を歩んでいますが、イーニドはなぜかそんなシーモアの生き方に興味を持つようになります。単調な日々の中で、レベッカはコーヒーショップで働き始め、イーニドは置いていかれたような気持ちになります。そしてイーニド、レベッカ、シーモアの3人の関係性は徐々に変化していきます。

 『ゴーストワールド』は1997年に書籍化された同名のグラフィックノベルを原作としています。原作者ダニエル・クロウズは「これが映画化されるなんて100万年経っても思わなかった」と振り返りますが、監督のテリー・ツワイゴフはこの作品に感銘を受け、クロウズと共同で3年かけて脚本を完成させました[2]。

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