ピアニスト・藤田真央エッセイ #32〈帰国コンサート――先生の形見の燕尾服〉
次の公演は東京芸術劇場だ。初めてこのホールで演奏したのは高校生のときのことだ。私が在籍していた東京音楽大学附属高等学校は年に一度、チャリティーコンサートをこの東京芸術劇場で行っている。オーケストラはもちろん、吹奏楽や室内楽、そして合唱などの演目があった。私はソロで《リスト:ハンガリー狂詩曲第2番》を弾いたり、《ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲》をオーケストラと一緒に演奏したりした。合唱の授業も取っていたため、数少ないテノールのパートの一員として歌ったりもしたのだ。