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透明ランナーのアート&シネマレビュー

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#映画

『ゴーストワールド』から見る《ティーン映画》の系譜――22年ぶりの再公開に寄せて|透明ランナー

『ゴーストワールド』から見る《ティーン映画》の系譜――22年ぶりの再公開に寄せて|透明ランナー

 《ティーン映画》というジャンルがあります。「10代の生きづらさ」というテーマはいつの時代も作品の主題となり、数多くの名作が生み出され、同世代の若者が「私たちの物語」として支持してきました。その一方で、こうしたジャンルの物語は、後から振り返ってみて「あの頃はこうだったなあ」と感じることはあるものの、時代が下るにつれ「私たちの物語」として受容されることは少なくなっていきます。

 《カルト映画》とい

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『オッペンハイマー』最速レビュー|クリストファー・ノーランは何に挑み、何を達成したのか【ネタバレなし】|透明ランナー

『オッペンハイマー』最速レビュー|クリストファー・ノーランは何に挑み、何を達成したのか【ネタバレなし】|透明ランナー

 観ました、観ましたよ、『オッペンハイマー』を!!

 この興奮と衝撃を一刻も早くお伝えしたいのですが、しかし日本公開日も決まっていない段階では何を書いてもネタバレになってしまいそうです。うーん難しい。でもネタバレなしでも書けることはあるはず!

 『オッペンハイマー』は初見ではすべてを理解することが難しい複雑な映画なので(まあノーランですし)、前提としていくつかのことを知っておくとより深く映画を

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『aftersun/アフターサン』――父と娘を映しだし、心揺さぶる特異なショット|透明ランナー

『aftersun/アフターサン』――父と娘を映しだし、心揺さぶる特異なショット|透明ランナー

 2023年5月26日(金)に日本公開された1本の映画が、公開から1ヶ月以上経っても口コミで多くの観客を集め、「エモい」「刺さった」と評判になっています。『aftersun/アフターサン』(2022)はスコットランド出身の監督シャーロット・ウェルズ(1987-)の長編第1作で、彼女の半自伝的な物語でもあります。

 11歳の夏休み、トルコのリゾート地にやってきたソフィ(フランキー・コリオ)と、離れ

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日本未公開映画を観る11の方法――アカデミー賞授賞式を100倍楽しむために|透明ランナー

日本未公開映画を観る11の方法――アカデミー賞授賞式を100倍楽しむために|透明ランナー

 いよいよ日本時間2023年3月13日(月)、第95回アカデミー賞授賞式が開催されます。全世界の映画ファンが楽しみにしている年に一度の祭典、いやが上にもボルテージが高まってきているところです。

 最初はアカデミー賞の受賞予想記事でも書こうかな……と思っていたのですが、私の予想を見ても仕方ないですし、当たったところで何かあるわけでもありません。というわけでもっと読者の皆様に役立つ記事を書こうと思い

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『別れる決心』――パク・チャヌクに流れる“猥雑さ”の源流をたどる|透明ランナー

『別れる決心』――パク・チャヌクに流れる“猥雑さ”の源流をたどる|透明ランナー

 パク・チャヌク(1963-)の6年ぶりの新作長編映画、『別れる決心』がついに公開されました。

 私はパク・チャヌクの「猥雑さ」が大好きです。脚本も撮影も到底想像の及ばない超絶技巧を駆使し、綱渡りのようにギリギリのタイミングでつなぎ合わせながら、奇跡的に1本の映画として結実しています。『別れる決心』も、一見クライムサスペンス映画のようでありながら、ラブロマンス映画でもあり、アクション映画でもあり

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『イニシェリン島の精霊』――美しい孤島に訪れる奇妙な仲違い|透明ランナー

『イニシェリン島の精霊』――美しい孤島に訪れる奇妙な仲違い|透明ランナー

 私はあらすじが書けません。

 冒頭であらすじを紹介し、監督や俳優の略歴に触れ、感想に入るというのがよくある映画評のパターンですが、本連載はそのような流れで書いたことはありません。映画は演出、撮影、音楽、編集など多種多様な要素の積み重ねであり、ストーリーを取り出してうまくまとめるのは非常に難しいことです。あらすじを書かないのではなく書けないのです。

 たとえば前回の記事「『ピンク・クラウド』―

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『ピンク・クラウド』――未来を予言してしまった映画が描く限界状況の人間関係|透明ランナー

『ピンク・クラウド』――未来を予言してしまった映画が描く限界状況の人間関係|透明ランナー

 世界中で突如発生した正体不明のピンク色の雲、その空気を吸い込むと10秒で死に至る。人々はある瞬間を境に家から出られなくなり、突然新たな生活様式が始まる――。そんな世界を描いた映画『ピンク・クラウド』が、2023年1月27日(金)から公開となりました。
 
 映画の冒頭で「2017年に脚本が書かれ、2019年に撮影された。現実との一致は偶然である」という文言が流れます。この映画は新型コロナウイルス

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マルチバースカンフー映画からパルム・ドール受賞作まで…今年映画館で見たい作品10選!|透明ランナー

マルチバースカンフー映画からパルム・ドール受賞作まで…今年映画館で見たい作品10選!|透明ランナー

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
 2022年6月に始まった本連載「透明ランナーのアート&シネマレビュー」では、映画と美術展のレビューをこれまで34本お届けしてきました。読んでくださった皆様のおかげでここまで続けることができました。2023年もよろしくお願いします。

 2022年の映画の振り返りとして、「2022年日本公開映画ベスト10」&「2022年日本未公開映画ベスト

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【2022年日本劇場未公開映画ベスト10】 ――日本公開が待ち遠しい10の作品|透明ランナー

【2022年日本劇場未公開映画ベスト10】 ――日本公開が待ち遠しい10の作品|透明ランナー

 2022年もさまざまな映画がスクリーンを賑わせましたが、劇場公開されなかった映画にも数多くの傑作がありました。昨日公開した「2022年日本公開映画ベスト10」に続き、この記事では私が2022年に映画祭や英語版配信で観た「日本未公開映画」(2023年以降の公開が決まっていない作品)から10作品を挙げたいと思います。今後日本公開が決まることを願って……。

2022年日本未公開映画ベスト10①『Sa

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『あのこと』――映画史に刻まれる衝撃的な映像体験|透明ランナー

『あのこと』――映画史に刻まれる衝撃的な映像体験|透明ランナー

 2021年9月のヴェネツィア国際映画祭。パブロ・ラライン『スペンサー ダイアナの決意』やジェーン・カンピオン『パワー・オブ・ザ・ドッグ』といった有力作が争う中、さほど有名でない監督の作品が審査員の満場一致で金獅子賞に選ばれたという結果は驚きをもって伝えられました。オードレイ・ディヴァン(1980-)の長編2作目『あのこと』です。

 舞台は1960年代のフランス。大学の寮に暮らす文学部生のアンヌ

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透明ランナー|東京国際映画祭――『1976』とチリ映画が辿った苦難の歴史

透明ランナー|東京国際映画祭――『1976』とチリ映画が辿った苦難の歴史

▼ 透明ランナーによるイベントはこちら

◎【11/30までアーカイブ動画公開中】 ローカル芸術祭・徹底ガイド|透明ランナー
◎ドラフト2022 最速レビュー!by透明ランナー

 本日11月2日(水)まで10日間にわたり、第35回東京国際映画祭が日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催されています。この記事が公開される数時間後には、コンペティション部門のグランプリや観客賞受賞作が発表されていること

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透明ランナー|『スペンサー ダイアナの決意』――天才たちが映画に仕掛けた美しい魔法

透明ランナー|『スペンサー ダイアナの決意』――天才たちが映画に仕掛けた美しい魔法

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◎ 【11/30までアーカイブ動画公開中】 ローカル芸術祭・徹底ガイド|透明ランナー
◎ ドラフト2022 最速レビュー!by透明ランナー

 36歳の若さでの事故死から四半世紀経ってもなお色褪せない人気を誇るダイアナ妃。彼女を描いた映画『スペンサー ダイアナの決意』が全国で公開されています。

 舞台は1991年のクリスマス・イヴ。英国ロイヤルファミリー

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透明ランナー|『秘密の森の、その向こう』――時空を超えた出会いによる女性同士の喪失と癒しの物語

透明ランナー|『秘密の森の、その向こう』――時空を超えた出会いによる女性同士の喪失と癒しの物語

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 今回紹介する映画は『秘密の森の、その向こう』(2021)。前作『燃ゆる女の肖像』(2019)で映画史に燦然と輝く金字塔を打ち立てた(というありきたりな表現では足りないほどの傑作ですね)、セリーヌ・シアマ(1978-)[1]の最新作です。

 主人公は8歳の少女ネリー。大好きだった祖母が亡くなり、整理のために森の中にぽつんとたたずむ祖母の

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