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透明ランナー|『秘密の森の、その向こう』――時空を超えた出会いによる女性同士の喪失と癒しの物語

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 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 今回紹介する映画は『秘密の森の、その向こう』(2021)。前作『燃ゆる女の肖像』(2019)で映画史に燦然と輝く金字塔を打ち立てた(というありきたりな表現では足りないほどの傑作ですね)、セリーヌ・シアマ(1978-)[1]の最新作です。

 主人公は8歳の少女ネリー。大好きだった祖母が亡くなり、整理のために森の中にぽつんとたたずむ祖母の家を両親とともに訪れます。ネリーの母マリオンは、自身が少女時代を過ごしたこの家の思い出に胸を締め付けられ、何も言わずにどこかへ出ていってしまいます。父とともに家に残されたネリーは、森の中を散策するうちに自分と同じ8歳の少女と出会います。彼女の名はマリオン。どうやらネリーは時空を超え、森の中で少女時代の母と出会ってしまったようです。ネリーとマリオンはすぐに友情で結ばれますが、親密な時間を過ごすふたりには思わぬ冒険が待ち受けていました。

 本作の上映時間は73分と長編映画としては短く、そのぶん脚本もミニマムでシンプルなものとなっています。まさに珠玉という言葉がぴったりの美しい小品です。


ローポジションとローアングル

 前回「『LOVE LIFE』――人と人との分かりあえなさ、深田晃司が描き続ける“孤独”」という記事でも書いたように、映画を映画たらしめるもの、その魅力は、ショットとショットの関連性にあると私は考えています。
 最初から最後まで8歳の少女ネリーの視点で物語が進む『秘密の森の、その向こう』では、カメラが非常に低い位置(ローポジション)にセッティングされ、私たち大人が普段目にするのとは違った新鮮な世界を映し出します。

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