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《読んで楽しむ、つながる》小説好きのためのコミュニティ! 月額800円で、人気作家の作品&インタビューや対談、エッセイが読み放題。作家の素顔や創作秘話に触れられるオンラインイベントのほか、お題企画や投稿イベントなど参加型企画も盛りだくさんでお届けしていきます。

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    《読んで楽しむ、つながる》小説好きのためのコミュニティ! 月額800円で、人気作家の作品&インタビューや対談、エッセイが読み放題。作家の素顔や創作秘話に触れられるオンラインイベントのほか、お題企画や投稿イベントなど参加型企画も盛りだくさんでお届けしていきます。

  • 高田大介『エディシオン・クリティーク』(*小説)

    失われたテクストの復元に勤しむ文献学者・嵯峨野修理。紙切れ一枚も彼の手にかかれば謎の宝箱に早変わり。『図書館の魔女』著者が奏でる知的探索ミステリー、開幕!

  • 朝倉かすみ「よむよむかたる」(*小説)

    小樽の古民家カフェで開かれる〈坂の途中で本を読む会〉。本を読み、人生を語る、みんなの大切な時間。最年長九十一歳、最年少七十七歳、今日もにぎやかに全員集合!

  • ピアニスト・藤田真央「指先から旅をする」

    24歳の若き天才ピアニスト・藤田真央氏によるエッセイ

  • 岩井圭也「われは熊楠」(*小説)

    奇人・才人、南方熊楠を語る言葉はたくさんある。しかし果たして、彼が生涯を賭して追い求めたものとは一体何だったのか⁉ 新鋭・岩井圭也が渾身の力で挑む、博物学者・南方熊楠のすべて。

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YouTuber・コウイチ「金曜日のミッドナイト」

金曜日のミッドナイト ・52歳 男性  こんにちは。あ、テレビの取材ですか。事件でもありましたか? あ、バラエティ番組の取材ですか。何もないなら良かったです。いやぁこんな町にも来るんですね。ちなみになんて番組ですか? 金曜日のミッドナイト? それは朝にやってる番組なの? あ、ミッドナイトだから夜ね。俺は朝しかテレビ見ないからちょっとわからんね。朝はアレだよ、ニュースやってるから見るのよ。今日もニュース見てたよ。え、今日やってたニュース? あんまり覚えてないね。なんか台風が近

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高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#003

3章 もって「市井」と言うが如し 昨晩の夜半にトゥレーヌ地方を撫でていった軽めの嵐のせいで、まだ湿った様子の農道には濡れ落ち葉が散り敷かれ、セリアの運転するディーゼル四駆のステーションワゴンはたびたび落ちた小枝を踏み折っていた。  濃いめの霧が行く手を遮り、視界は50mぐらい先までしか利かない。そんな霧の農道を結構なスピードで車は切り裂いていく。くねくねとうねるような農道だが巡航速度はともすれば80㎞/hにもおよび、修理としては少し恐怖を感じていた。セリアの助手席に着いたレテ

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3

高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#004

 中西部の隣町同士の関係ってどういうものなのか——修理の抱いた素朴な疑問についてギィは実地調査を提案していた。データや文献を離れて「とりあえず現場に行ってみよう」という発想は、なるほど地理学徒、史学徒ならではの実地検証重視主義からくるのかもしれないし、そもそもバイクを一跨ぎ、どこにでもすぐに駆けつけるというギィの昨今のライフスタイルの所産だったのかもしれない。ともかくフットワークの軽さが彼の目下の身上だった。  しかし修理自身はほんらい出不精な質で、一ヶ所に留まって考え込んで

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3

高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#002

2章 18世紀のテレグラフ 苦難に満ちた来仏初日から一晩あけて、修理はあてがわれた客用寝室から寝ぼけ眼を擦って階下のサロンに降りていった。そちらではコーヒーの香りが馥郁と漂っていた。修理の実家では母が紅茶党だったので、コーヒーで始まる朝という感覚そのものが新鮮だ。ドアノー家の女性陣御三方が遅めの朝食をとっていたのである。 「おはよう、シュリ」日本語の挨拶はマルゴからのものだ。「疲れはとれた?」  マルゴは修理の父、算哲の先妻で、当然ながら少なからず日本語で意思疎通が出来た。も

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高田大介『エディシオン・クリティーク』(*小説)

失われたテクストの復元に勤しむ文献学者・嵯峨野修理。紙切れ一枚も彼の手にかかれば謎の宝箱に早変わり。『図書館の魔女』著者が奏でる知的探索ミステリー、開幕!

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  • 15本

高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#003

3章 もって「市井」と言うが如し 昨晩の夜半にトゥレーヌ地方を撫でていった軽めの嵐のせいで、まだ湿った様子の農道には濡れ落ち葉が散り敷かれ、セリアの運転するディーゼル四駆のステーションワゴンはたびたび落ちた小枝を踏み折っていた。  濃いめの霧が行く手を遮り、視界は50mぐらい先までしか利かない。そんな霧の農道を結構なスピードで車は切り裂いていく。くねくねとうねるような農道だが巡航速度はともすれば80㎞/hにもおよび、修理としては少し恐怖を感じていた。セリアの助手席に着いたレテ

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高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#004

 中西部の隣町同士の関係ってどういうものなのか——修理の抱いた素朴な疑問についてギィは実地調査を提案していた。データや文献を離れて「とりあえず現場に行ってみよう」という発想は、なるほど地理学徒、史学徒ならではの実地検証重視主義からくるのかもしれないし、そもそもバイクを一跨ぎ、どこにでもすぐに駆けつけるというギィの昨今のライフスタイルの所産だったのかもしれない。ともかくフットワークの軽さが彼の目下の身上だった。  しかし修理自身はほんらい出不精な質で、一ヶ所に留まって考え込んで

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高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#002

2章 18世紀のテレグラフ 苦難に満ちた来仏初日から一晩あけて、修理はあてがわれた客用寝室から寝ぼけ眼を擦って階下のサロンに降りていった。そちらではコーヒーの香りが馥郁と漂っていた。修理の実家では母が紅茶党だったので、コーヒーで始まる朝という感覚そのものが新鮮だ。ドアノー家の女性陣御三方が遅めの朝食をとっていたのである。 「おはよう、シュリ」日本語の挨拶はマルゴからのものだ。「疲れはとれた?」  マルゴは修理の父、算哲の先妻で、当然ながら少なからず日本語で意思疎通が出来た。も

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高田大介新連載!「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#001

「図書館の魔女」シリーズの高田大介さんによる待望の新連載がスタート! フランスの古都トゥールを訪れた 20歳の悩める数学徒・嵯峨野修理。 史学科の大学院生・ギィを相棒に、 ルネッサンス期の謎を解き明かす旅へ。 ハーレーに跨り、いざ出発! 1章 トゥール郊外に座礁する この手紙が投函されるのはもう少し後のこととなる。  嵯峨野修理はその夜フランス中部のトゥール郊外の県道で、実際「遭難」していた。  遭難の道連れは今日の夕方に初めて会ったばかりの青年、ギィ・ドリュイエだった。ギ

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朝倉かすみ「よむよむかたる」(*小説)

小樽の古民家カフェで開かれる〈坂の途中で本を読む会〉。本を読み、人生を語る、みんなの大切な時間。最年長九十一歳、最年少七十七歳、今日もにぎやかに全員集合!

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  • 13本

感涙のフィナーレ! 朝倉かすみ「よむよむかたる」#012(最終回)

ついに公開読書会当日。亡きマンマへの想いを胸に、読む会の面々は晴れ舞台で言葉を紡ぐ。感涙のフィナーレ! ▼第1話を無料公開中! 7 おぅい、おぅい 奇跡だな。なんと全員集合だ。安田はマスクの内側でつぶやいた。前にも言ったような気がするのだが、思い出せない。でもそんなことはどうでもよくて、とセットアップのジャケットの裾を後方に撥ね上げ腰に手をあてる。いつもより口数の少ない読む会メンバーを見渡し、改めてほっとした。ここ一か月バタバタしていて集合時間の最終確認を忘れたのだ。よか

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【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#011

ついに完成した記念冊子に胸をときめかせる一同。そんな中、読書会を急遽欠席したマンマの息子から電話がかかってきた。 ▼第1話を無料公開中! 6 一瞬、微かに さもありなん。安田の頭にひょいと浮かんだフレーズだ。さもありなん、さもありなん。それが繰り返されている。手持ちの語彙のひとつではあったが、使ったことは一度もなかった。なのにさっきから脳内にバーゲンセールの販促ポップみたいにべたべたと貼られていく。  九月二日金曜日。例会の最中である。ふた月振りというのに空気が重い。まる

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【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#010

まちゃえさん夫妻の息子・明典に、かつて何が起きたのか。美智留は彼と過ごした青春時代について語り始めた。 ▼第1話を無料公開中!  マンマがそうしたように、安田は拳を突き上げてみせた。口角を思い切り上げて拍手する美智留と視線を合わせたまま、その手を下ろし、胸にあてがう。「控えめに言って」と前置きし、 「こころが震えた」  と目を細めた。同じ目をしてうなずく美智留に浅い笑いを返して言う。 「六月に読んだ課題本の文章がパワポみたいに浮き上がってきた。ぼくはこぼしさまの国の番人を

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【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#009

▼第1話を無料公開中! 5 冷麦の赤いの 夕方から立て込んで、店を閉めたのは夜八時すぎだった。  夏休み旅行がピークに差しかかる八月最初の金曜日。  客はツーリストがほとんどで、喫茶シトロンの店内ではちょっとしたお国訛りの競演となった。きっかけはサッちゃん。最初は関西弁の二人連れに「おおきに」と言ってみるくらいだったのだが、テーブルごとに「ありがとない」だの「だんだん」だのと教えられて広がった。「シェーシェ」の家族連れもいて、サッちゃんはそこん家の五、六歳の息子のツーブロッ

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ピアニスト・藤田真央「指先から旅をする」

24歳の若き天才ピアニスト・藤田真央氏によるエッセイ

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  • 52本

ピアニスト・藤田真央エッセイ #52〈奇跡的なピアニシモ――ゲヴァントハウス管〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  オーケストラと奏でる協奏曲は、まさに一期一会だ。〈作品の性格×オーケストラの個性×指揮者・ピアニストの音楽性〉がかけ合わさり、生まれる演奏は種々様々、千差万別といった具合である。また、世界には沢山の楽団があり、縁があっても再オファーは数年先の約束、短いスパンで同じオーケストラと二度共演できる機会はそう多くはない。そんな中、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とは幸運なことに

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ピアニスト・藤田真央エッセイ #51〈ストイックなリハーサルの先に――ハーゲン・カルテット〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  チェコフィルとの全4つのコンサートを盛況に終えたのも束の間、次の日からまた新しいリハーサルが始まった。伝説の弦楽四重奏団、ハーゲン・カルテットとのリハーサルだ。この弦楽四重奏団は1981年に結成された。結成当初のメンバーは全員が兄弟(ルーカス・ハーゲン、アンゲリカ・ハーゲン、ヴェロニカ・ハーゲン、クレメンス・ハーゲン)だったが、第二ヴァイオリンを務めていた長女アンゲリカがソロ

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ピアニスト・藤田真央エッセイ #50〈ビシュコフとの最強タッグ――チェコ・フィル日韓ツアー〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 「夢は口に出せば叶う」  ありがちなフレーズではあるが、私もこの言葉には大いに頷きたい。もっとも「横浜DeNAベイスターズの監督になりたい」や「チャーハン専門店を出したい」といったような無理難題、欲深な願いは叶うはずないが、ここ数年、「あの指揮者・あのオーケストラといつか共演したい」という憧憬は徐々に実現しつつある。  2023年10月にアジアツアーで共演した楽団——チェコ・フ

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ピアニスト・藤田真央エッセイ #49〈演奏中に喧嘩が始まり――中国ツアー・後篇〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  9月27日、3公演目は上海で行われた。この日は、ツアー中で唯一YAMAHAのピアノを使用した。以前、日本でお世話になっていたヤマハの調律師さんが上海に赴任していたのだ。彼女は素晴らしい才能とほとばしる情熱を持つ方で、上海公演では是非ヤマハのピアノを使ってくれないかと熱心に打診してくれた。  嬉しいことに、このように日本人調律師の方に海外で出会う機会が度々ある。特にヤマハの元

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岩井圭也「われは熊楠」(*小説)

奇人・才人、南方熊楠を語る言葉はたくさんある。しかし果たして、彼が生涯を賭して追い求めたものとは一体何だったのか⁉ 新鋭・岩井圭也が渾身の力で挑む、博物学者・南方熊楠のすべて。

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  • 7本

岩井圭也「われは熊楠」:第六章〈紫花〉——終幕、そして

第六章 紫花 中屋敷町の邸宅の上には、今にも降り出しそうな分厚い雲がかかっていた。  湿気た空気が漂う庭には、楠や安藤蜜柑の木が植えられ、地面には一面枯葉が敷き詰められている。栴檀が藤色の花を咲かせていた。一九四一(昭和十六)年六月のことだった。  戸を開け放した八畳の離れに、男女の人影があった。女のほうは、横たえたテングタケを肉眼で観察しながら、紙の上に絵筆を走らせている。その傍らで、老いた男は顕微鏡を覗きこんでいた。  老人——齢七十四の南方熊楠は、地衣類の検鏡に集中して

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岩井圭也「われは熊楠」:第五章〈風雪〉——天皇への御進講

第五章 風雪 和歌山の町の空を、黒灰色の雲が塞いでいる。一昨日から降りはじめた雨は昨日の朝に止んだものの、依然、分厚い雨雲は居座っていた。漂う空気は存分に湿り気を帯びており、いつまた降り出すかわからぬ気配である。  一九二五(大正一四)年一月。  和歌山城からほど近い湊紺屋町の屋敷の一室では、差し向かいに座した兄弟が互いに沈黙を守っていた。障子と襖は閉ざされ、外から他者が様子を窺うことはできない。  兄は南方熊楠五十七歳、弟は南方常楠五十四歳であった。  熊楠も常楠も、土色の

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岩井圭也「われは熊楠」:第四章〈烈日〉——熊楠、父に

第四章 烈日 一九〇九(明治四十二)年の真夏。  田辺湾にある扇ヶ浜には、烈しい日差しが降り注いでいた。炎天から射られる陽光は、砂浜に色濃い木陰を生み出してもいる。光が熱を帯びるほどに、明暗の対比は際立っていく。  浜辺から歩いて十分ばかりの距離に、中屋敷町中丁の借家はあった。潮まじりの風がそよぐ縁側で、一人の男が顕微鏡を覗いている。広袖の白襦袢を着て、下半身には腰巻をまとっている。  紙巻き煙草の「朝日」を吸いながら、熱心に顕微鏡を覗いているのは、齢四十二の南方熊楠である。

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岩井圭也「われは熊楠」:第三章〈幽谷〉――那智の深山へ

第三章 幽谷 那智山の麓、大門坂の入口近くに大阪屋という宿があった。宿のすぐ傍にそびえる鳥居をくぐり、振ヶ瀬橋を渡れば、そこから先は神域である。  大阪屋の母屋には、細い廊下でつながった離れがある。広縁付きの八畳二間の和室には、書物やブリキの衣装箱の他、蔓羊歯や藪蘇鉄、立忍などの標本が目一杯広げられていた。風通しのよい場所で乾燥させるためであり、それらはすべてこの那智山で採集された代物であった。  開け放たれた広縁に三月なかばの風が吹きこんでくる。いまだ厳冬の気配が残る風を、

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