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イナダシュンスケ|同情の手羽先弁当

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第24回
同情の手羽先弁当


 高校生の頃、たまたま隣の席になったFくんとちょっと仲良くなりました。僕も彼も音楽が好きで、当時ギターを練習し始めていたという共通項があったからだったと思います。もっとも音楽の趣味は全く嚙み合いませんでした。Fくんが好きなのはヘヴィメタルであり、僕の好みはイギリスのニューウェーブでした。それはともかく僕たちは、どちらもちょっとぼうっとしたタイプだったこともあり、熱く語り合う親友同士、みたいないかにもセイシュンっぽい間柄になるでもなしに、極めて淡々とした付き合いがのんびり続いていました。

 僕が通っていた高校は鹿児島市の南の端にありました。僕自身は自宅から通っていましたが、全体では関西を中心に県外からの生徒が半分以上を占め、彼もその中のひとりでした。学校指定のまかない付き下宿から通う彼は、毎日そこから弁当を持たされていました。僕たちは隣り合った席で、ギターのピックは三角形がいいか涙形がいいか、などの他愛ない会話をしながら弁当を食べました。

 彼の弁当の中身をチラ見して、僕はその度に少し同情していました。その中身があまりおいしそうでなく、しかも内容が毎日同じだったからです。ミニハンバーグ、コロッケ、エビフライ、揚げ焼売、卵焼き、赤ウインナーと野菜炒め、以上。こうやって書き出すと豪華にも思えるかもしれませんが、卵焼きと野菜炒めはともかくそれ以外のものが全て冷凍食品などの既製品であろうことは見ればすぐにわかりました。ちなみに時は1980年代。当時の冷凍食品は今のようにおいしくはありませんでした。

 県外から来ている下宿生や寮生は、基本的にボンボンばかりでした。中でも医者の息子はやたら多く、Fくんもそのひとり。色白でふくよかでおっとりした彼は、いかにも良家のご子息という雰囲気で、僕は心中「お公家くげさんみたいだな」と思っていました。スウェーデン出身のギタリスト、イングウェイ・マルムスティーンに憧れ、時にちょっとぎこちなくワルぶってみせたりすることもある彼に、そんなことはとても面と向かっては言えませんでしたが。ともあれ、当時のおいしくない既製品ばかりで構成されたその弁当で、Fくんが満足しているとは到底思えなかったのです。しかもそれは毎日続きます。下宿生活に嫌気がさし、ホームシックにでもなっていやしまいかと心配していました。

 ところがある日、いつものように弁当を食べていると、思いもよらない出来事が起こりました。僕が食べている弁当をチラ見した彼は、少し躊躇ためらった後、こんなことを言ったのです。

「イナダお前……もしかして、親と仲悪いん?」

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