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透明ランナー|瀬戸内国際芸術祭2022秋会期――“西の島”に広がる表情豊かな世界【本島・高見島・粟島】

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 3年に1度開かれる日本最大級のアートイベント、瀬戸内国際芸術祭。2022年度秋会期が9月29日(木)から11月6日(日)まで39日間にわたって開催されています。

 瀬戸芸は春・夏・秋の3会期に分かれ、春会期のみ会場となる島、秋会期のみ会場となる島がそれぞれあり、何度も訪れたくなる芸術祭です。瀬戸大橋の西側に位置する「西の島」と呼ばれる島々は、現在開催中の秋会期のみの会場となっています。
 西の島は本島(丸亀市)、高見島(多度津町)、粟島(三豊市)、伊吹島(観音寺市)の4島からなります。2010年の第1回瀬戸芸は直島や豊島を中心とした東の島々のみが会場でしたが、2013年の第2回から西の島が加わり、設置されるアート作品の規模も徐々に拡大していきました。

 西の島は秋会期のみということもあり、直島や豊島といった東の島々に比べ訪れる人が少ない印象がありますが、島ごとに豊かな歴史と文化を持ち、それぞれまったく異なる世界を見せてくれます。

【瀬戸芸2022夏会期のレビューはこちら】

 瀬戸芸への旅から戻ってきた翌日の10月7日(金)、Web別冊文藝春秋で「ローカル芸術祭・徹底ガイド」と題したオンライントークイベントを行いました。地方で開催される芸術祭の歴史と魅力、多くの芸術祭に足を運ぶためのテクニックなどについて話しています。11月30日(水)までアーカイブ動画が公開されています。
 来週10月19日(水)には、瀬戸芸秋会期と同じタイミングで岡山市で開催されている「岡山芸術交流」のレビューを公開する予定です。こちらもあわせて訪れてみてください。


本島

 香川県丸亀市の本島は、大小合わせて28の島々から成る塩飽(しわく)諸島の中心となる、人口約300人の島です。高い操船・造船技術を有する船方(ふなかた)が集まり、幕末に太平洋を横断した咸臨丸の乗組員の大半は塩飽諸島出身だったと言われるほどです。

 実は私は瀬戸芸が始まる前、2005年に本島を訪れたことがあります。15歳の少年が四国に行く村上春樹『海辺のカフカ』を15歳で読んで衝撃を受け、「これは何かの導きに違いない!」と私も衝動的に四国に向かいました。予定を決めず3週間ほど放浪し、その道中で丸亀市に立ち寄り、偶然本島行きの船に乗ったのです。

 西の島への出発地点となるのは、夏会期の本拠地である高松港や宇野港ではなく、倉敷市にある児島観光港です。児島はジーンズの街として知られ、JR児島駅には駅舎一面にジーンズの画像がプリントされた光景が広がっています。

 児島から本島に向かう船は途中で瀬戸大橋の下をくぐります。壮観です。

 私が本島でどうしても観たかったのは、ロシア出身のアレクサンドル・ポノマリョフの作品「水の下の空」です。ポノマリョフはロシア宇宙主義の流れを汲むアーティストで、画期的な展覧会であった「夢みる力 未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」展(2019年、市原湖畔美術館)に出品していました。

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