透明ランナー|瀬戸内国際芸術祭2022夏会期 Vol.2【小豆島・男木島・女木島・大島・高松篇】
前回の記事「瀬戸内国際芸術祭2022夏会期 Vol.1」に続き、今回は小豆島、男木島、女木島、大島、高松の作品を紹介します。
小豆島
2万5000人ほどが住む小豆島は、船でしか行けない(橋や空港がない)島として国内最大の人口を有し、フェリーの発着本数は日本一です。広い島内の各地に作品が点在し、事前に計画を立てないとなかなか観たい作品を回りきれないエリアでもあります。
小豆島で今回最も良かったのが、北東部の福田エリアで行われている「アジア・アート・プラットフォーム AAP共同展2022 『Spirits』」です。香港、インドネシア、台湾、カンボジア、タイの5組のアーティストからなる展覧会で、集落の空き家を幻想的な展示空間に変えてインスタレーションや映像作品を展示しています。それぞれのアーティストが独創性溢れる展示をしており、私は脳がスパークするほど興奮しました。
公式ガイドブックには内容と場所の詳細な記載がなく(おそらくギリギリまで調整を続けていたのでしょう)、ともすればスルーしてしまいかねません。現地で配布されているパンフレットにも正確な場所は記載されておらず、マップを頼りに静かな集落を歩いて作品を巡ってもらうという趣向です。
バンコク生まれのコラクリット・アルナーノンチャイ&シカゴ生まれのアレックス・グヴォジックによる「Songs for living」(2021)は、魔術的なイメージと歌声をコラージュのように組み合わせた映像作品です。上映される空き家の窓ガラスには青いシートが貼られ、会場内から外を眺めると街並みの雰囲気が一変して現実のものとは思えない雰囲気を醸し出します。
カンボジア出身のクヴァイ・サムナンは、大規模な水力発電ダムの開発による環境破壊に晒されている先住民族チョン族のコミュニティで共に暮らしてリサーチを行い、振付家・ダンサーのNget Radyとともに映像作品を制作しました。
香港アートスクールの講師と卒業生たちによるプロジェクト「香港カラーズ」は、香港のさまざまな場所で採取された土の色を並べ、その微妙な違いを感じることで土地を再発見することを目的とするプロジェクトです。土を採取する過程を通して、土地に根ざす記憶、コミュニティ、地域の文化との関係を見直すことを目指しています。今回は「小豆島カラーズ」ともいえる小豆島版を新たに発表し、共に展示しています。
私が観たくて観たくて楽しみにしていたのが、青木野枝(あおき のえ)の新作「空の玉/寒霞渓(かんかけい)」(2022)です。小豆島に広がる大渓谷と瀬戸内海を一望できる四国有数の景勝地・寒霞渓にあり、見下ろすと絶景が広がっています。
「空の玉/寒霞渓」を観るには、福武ハウスから1日5本のバスに乗るか寒霞渓ロープウェイで登るしかありません。私はどうしてもこの作品が観たかったので、ここに向かうバスの時間をまず決め、それにあわせて他の地域を巡るスケジュールを立てました。
春に公開制作が行われ、今年4月に完成したばかりの作品です。制作途中の様子も追っていたのでとても楽しみでした。
小豆島で最も多くのフェリーが発着する海の玄関口・土庄(とのしょう)港周辺には、スタシス・エイドリゲヴィチウスの「いっしょに/ともだち」(2022)がたたずんでいます。
周囲の状況を含めて作品だと思うので引きで撮っていますが、どうですかこの絶妙な存在感! エイドリゲヴィチウスはリトアニア出身のアーティストで、彫刻、舞台芸術、絵画、絵本、仮面などさまざまな分野で「顔」をテーマにした制作を続けています。私は3年前武蔵野美術大学美術館で開かれたエイドリゲヴィチウスの個展で彼の魅力にハマってしまい、「2019年下半期の展覧会ベスト10」という記事でも紹介しました。
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