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イナダシュンスケ|チャーハンの退屈

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第30回
チャーハンの退屈


 あえて悔恨かいこんから始めます。僕はチャーハンという食べ物に対して、かつてあまりにも冷淡かつ非道でした。

 世の中には、推定1000万人を超えるチャーハン好きが存在するのではないかと思います。今だから言えますが、僕はその全員から一斉に憎まれかねないことを、ずっと心の中で思っていました。

「中華料理屋でチャーハンを頼むやつの気が知れねえ」

 これがその秘めたる思いです。おっと、ここだけ切り取って拡散するのはやめてください。そんなことをされたら、今の世の中、秒で炎上です。第一僕は、この思いを実際に口に出したことは(たぶん)ありません。心の中はいつだって自由です。


 ある日のランチタイム、僕は中華料理屋さんにいました。あくまで庶民的な、いわゆる町中華と言われるような店のカウンター席にひとり腰掛け、注文したものは五目あんかけ焼きそば。柔らかい麺と硬い揚げ麺が選べたのですが、今日は硬い方です。本当は柔らかい麺を円盤状にまとめ、じっくり時間をかけて両面こんがり焼いたタイプの焼きそばが好きなのですが、こういう店ではそんな悠長なものは出てきません。柔らかい麺は煙立つ中華鍋で一気に炒められ、油に塗れて熱々だけど柔らかいままで提供されます。もちろんそれはそれで悪くないものですが、今日のところはパリパリの硬い揚げ麺の方にしてみた、ということです。そこに焼き餃子も付けました。通常390円の餃子が、ランチタイムは300円です。ビールは断腸の思いで我慢しました。その後2時から仕事の打ち合わせがあったからです。

 そこに新たな一人客が入店します。そのガタイの良い兄ちゃんは、一席空けて僕の左側に座るやいなや、メニューを見ることもなく、

「チャーハン、大盛りで」

 と、店員さんにきっぱり告げました。お冷が到着するとそれを一気に飲み干し、卓上の水差しから水を注ぎ足すと、ようやく一息ついてスマホを覗き込み始めます。

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