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経営危機に翻弄される私立美術館の現在――ヴァンジ彫刻庭園美術館&クレマチスの丘|透明ランナー

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 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 東京都心から車で約2時間の静岡県長泉町。駿河湾を望む富士山麓の広大な丘陵地に位置するのが、複合文化施設「クレマチスの丘」です。緑豊かな庭園、地場食材を使ったレストラン、花に囲まれたカフェに加え、4つの個性豊かなミュージアムが点在しています(①ヴァンジ彫刻庭園美術館、②IZU PHOTO MUSEUM、③ベルナール・ビュフェ美術館、④井上靖文学館)。ちょうどこの時期は庭園を彩る美しい紅葉を目にすることができます。

 この丘陵地は静岡県沼津市に本店を置く地銀・スルガ銀行が開発した地区で、「静岡のビバリーヒルズ」と呼ばれる高級住宅街・スルガ平に隣接しています。4つのミュージアムは美術収集家として知られるスルガ銀行3代目頭取・岡野喜一郎(おかの きいちろう、1917-1995)のコレクションなどを基に、いずれもスルガ銀行グループが設立したものです。

 2022年11月、ヴァンジ彫刻庭園美術館が12月25日(日)を最後に長期休館に入ることが発表されました。「大規模修繕のため休館」と告知されていますが、再開時期は未定です。

ヴァンジ彫刻庭園美術館の外観。

 遡ること4年前、IZU PHOTO MUSEUMが2018年10月から休館に入りました。当初は「改修工事のため2019年春まで」とされていましたが、一向に再開の知らせはなく、2022年現在も何のアナウンスもないまま休館状態が続いています。

現在のIZU PHOTO MUSEUMの状況。建物の設計を手掛けたのは杉本博司(すぎもと ひろし、1948-)らによる「新素材研究所」です。

 クレマチスの丘の4つのミュージアムは現在いずれも危機的状況に陥っています。スルガ銀行が不正融資問題で苦境に立たされているのに加え、コロナ禍による来場者数の減少が追い討ちをかけているためです。このような私立美術館は運営母体の経営の影響をダイレクトに受けるため、公立美術館とは違った難しい状況にあります。

 ヴァンジ彫刻庭園美術館の開館20周年を記念し、「Flower of Life 生命の花」展が12月25日(日)まで開かれています。長期休館前最後の展覧会をレビューすると共に、クレマチスの丘の歴史と現状を見ていきたいと思います。

館内では存続に向けたアンケートが実施されていました。Webフォームから回答することもできます。

「Flower of Life 生命の花」展

 ヴァンジ彫刻庭園美術館はイタリアの現代具象彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジ(1931-)の個人美術館です。本展では、これまで同館やIZU PHOTO MUSEUMで展示を行ったアーティスト、クレマチスの丘で写真を撮影した作家など、ゆかりのある39作家の作品が紹介されています。

 「川内倫子展&野口里佳展――カメラを通じて世界の“偶然”に出会う力」で紹介した2人の写真家、野口里佳(のぐち りか、1971-)と川内倫子(かわうち りんこ、1972-)の作品がいずれも展示されています。

 今や日本を代表する写真家となった川内ですが、彼女の国内初個展「Cui Cui」(2008)が行われたのはここヴァンジ彫刻庭園美術館でした。

川内倫子 無題 2020

 IZU PHOTO MUSEUMでは2011~2012年に野口の大規模個展「光は未来に届く」が開かれました。「水をつかむ」は2001年頃制作され、現在開催中の「野口里佳 不思議な力」展(東京都写真美術館)には出品されていないシリーズです。巨大な鉄のバケットが水をすくっていますが、一瞬を捉えることのできる写真の中ではたしかに水を「つかんで」います。2004年の「飛ぶ夢を見た 野口里佳展」(原美術館)以来久々に観ることができました。

野口里佳 水をつかむ#5 2001

 長島有里枝(ながしま ゆりえ、1973-)は2012年の「開館10周年記念展 庭をめぐれば」展にあわせ、クレマチスガーデンの花々を1年間、四季にわたり撮り下ろしました。作品は『クレマチスガーデン』(NOHARA、2013)として出版されています。

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