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2022年の美術展&ギャラリー展示ベスト10|透明ランナー

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「2022年日本公開映画ベスト10」
「2022年日本未公開映画ベスト10」
「2023年日本劇場公開予定映画ベスト10」

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。

 私が美術展・ギャラリー巡りを本格的に始めたのは高校生のとき。それ以来毎年さまざまなジャンルの展覧会を訪れました。地方の美術館や芸術祭にも、時間を見つけては夜行バスや青春18きっぷで足を運んできました(その様子を「限界旅行」と称し、WEB別冊文藝春秋でオンライントークイベントをする機会を与えていただきました)。

 2022年は美術館とギャラリーあわせて186の展示に行くことができました。この記事ではその中からそれぞれ10の展示を振り返ってみたいと思います。ちなみに記録の管理にはTokyo Art Beatアプリがおすすめです。

 この連載では美術館で行われる一定以上の規模の美術展の紹介が多く、ギャラリーで開かれている展示を紹介することができなかったのですが、この記事ではギャラリーの展示もたくさん紹介します(むしろこっちがメインです)!


2022年の美術展ベスト10

オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動(3331 Arts Chiyoda)

 私が美術展を観るときに考えていることは「企画者はその展覧会を観て何を持ち帰ってほしいか」、そして「自分はその展覧会から何を持ち帰れたか」です。企画側の熱量と自分の熱量、そのふたつを総合的に考えると、2022年のワンツースリーはもうこの3つしかありませんでした! 

 小池一子(こいけ かずこ、1936-)はコピーライター、編集者、クリエイティブ・ディレクターとして、1960年代以降の日本のアート・広告業界を牽引してきました。美術館でもギャラリーでもない独自の活動をする場所として、日本初のオルタナティブ・スペース「佐賀町エキジビット・スペース」を創設したことでも知られています。

 本展はふたつのエリアで構成され、前半は小池のアーティストとしての一面を紹介します。彼女がブランド発足に携わった「無印良品」の初期ポスター、三宅一生(みやけ いっせい、1938-2022)とのコラボレーションなど、現代でも通用するクールなデザインの創作物が並びます。かっこよすぎる!

 後半では「佐賀町エキジビット・スペース」の1983年から2000年までの活動と、そこから巣立ったアーティストを紹介しています。内藤礼(ないとう れい、1961-)や大竹伸朗(おおたけ しんろう、1955-)などそうそうたる面々! 私は2020年に『佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 現代美術の定点観測』(小池一子ほか、HeHe)という書籍が話題になって初めて知ったのですが、彼女が現代アートに果たした役割の大きさをあらためて実感しました。

田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」(福岡市美術館)

 観た人が口を揃えて「すごい!」「行かなかったら絶対後悔する!」と称賛していたので、居ても立ってもいられず“キングオブ夜行バス”「はかた号」で行ってきました。本当にすごかった!

 田部光子(たべ みつこ、1933-)は1974年に女性画家グループ「九州女流画家展」を主宰するなど、フェミニズム・アートの先駆けとして九州で活動した作家です。「表現したいものが先行しているので、そのための方法はあまり意識していなかった」と語るように、キャリアを通じて一言ではまとめられない多様な活動をしていますが、その作品はどれも強烈なメッセージ性を帯びています。こんなにパワフルな作家が1950年代から活動していたなんて!

Viva Video! 久保田成子展(東京都現代美術館)

 これもよかったですね~。久保田成子(くぼた しげこ、1937-2015)はヴィデオ・アートの先駆者で、前衛芸術家集団「フルクサス」にも参加していました。ナム・ジュン・パイク(1932-2006)のパートナーとしても知られています。豊富な資料と作品で久保田の全容がわかる盛りだくさんの展示でした。

 このような故人の回顧展は作品を年代順に並べて概観するだけのものが多いのですが、本展はそうではありません。久保田が誰から影響を受け、後世にどのような影響を与えたのか、作品がある時代にどのような意味を有しているのか、彼女について知りたいことのすべてが提示されています。企画者の熱量が感じられる素晴らしい展示でした。

装いの力―異性装の日本史(渋谷区立松濤美術館)

 タイトルが告知された瞬間から「これは絶対行かなきゃ!」と思っていたのですが、あまりに楽しすぎて4回も行ってしまいました。日本の古代から現代までの異性装(クロスドレッサー)の歴史を、絵画や衣装、写真、映像、漫画などを通して紹介しています。

 圧巻なのはその資料の幅広さ! 出品リストを見ながら「えっこれこんなところから借りてきたの!?」「よくこれだけ集められたな~」と感嘆することしきりでした。こんな展覧会が実現できたら一生自慢できるだろうな……(?)となぜか涙ぐんでしまいました。

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