第16回 今井真実|蔵元たちの熱い思いが飛び交う「醤油の日の集い」
秋にはいつも楽しみにしている行事がある。それはしょうゆ業界の関係者が集まり、開催される「醤油の日の集い」である。
10月1日は「醤油の日」。昔の日本では、冬に備えるために、秋口に農作物の貯蔵や加工を行なっていた。さらにしょうゆ造りのための「もろみ」も、10月に仕込んでいたのだそう。醸造に関するさまざまな由来が秋に縁深く、そのことから10月1日が「醤油の日」と定められたという。その日を記念して行われているのが、「醤油の日の集い」である。ひょんなことからご縁がありご招待をいただいて、私もここ数年お伺いしている。
私の心の中では密かに「秋」の季語になっているくらい待ち遠しい行事だ。
この会は都内のホテルで催されており、フロアのロビーに到着した瞬間、ずらりと並んだしょうゆ瓶のディスプレイにいつも圧倒される。ラベルも違えば、蔵元も違う。こんなにしょうゆの種類があったのかと驚くばかりだ。そして同じく会場に展示されているのが、しょうゆのラベルが日本地図上に配置されているタペストリーである。日本全国のあらゆるエリアに、小さな蔵元が存在していることが可視化されている。
しょうゆを作っている企業は現在全国で1035社。それらの企業がそれぞれ何種類もの商品を作っているだろうから、この世界には想像できないほどの、さまざまなしょうゆが存在することが容易に想像できる。
そしてしょうゆの会の目玉は、「全国醤油品評会」の授賞式。実はディスプレイに並べられているしょうゆはすべて、今年出品されたものなのだ。その数は、なんと288点。これだけの数のしょうゆが揃う様は、他では決して見ることができない。そして、今年もその中から、「農林水産大臣賞」5点、「農林水産省大臣官房長賞」10点、「優秀賞」35点が選出され、その授賞式が行われた。
授賞式では、農林水産大臣賞を受賞した醤油蔵を紹介するVTRがスクリーンで流される。各地の醤油蔵の人々の努力や土地の営み、そしてそのしょうゆの個性が、蔵の人たちのインタビューとともに伝わるように構成されている。
実は今回、私がふだんよく使うしょうゆのひとつ、イチビキ株式会社の「食品添加物無添加国産しょうゆ」が農林水産大臣賞に選ばれた。288点もの出品数から、いつも使っているしょうゆが選ばれたことに、まるで応援していたアイドルがブレイクしたような高揚感を覚える。彼らがどのようにしょうゆを作っているのかがVTRで流れはじめた。
イチビキは1772年創業、なんと250年の歴史を誇るしょうゆ蔵である。受賞作であるしょうゆはその商品名のとおり、国産丸大豆、国産小麦、国産塩だけを使い、その塩も高知県室戸の海洋深層水を加熱して蒸発させたものだそう。ミネラルを多く含み、塩の角がなくまろやかな味わいの塩は、きっとしょうゆの出来も左右するのだろう。実はスーパーで原材料を確認してからこのしょうゆを買うようになったのだけれど、イチビキのしょうゆはやはりその原材料の部分にこだわりを持って作られていたのだと納得した。
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