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#エッセイ

【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~

〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と…… 4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします! これを読めば5月病も怖くない……はずです。 『令和元年の人生ゲーム』 第1話 平成28年  2016年の春。徳島の公立高校を卒業し、上京して慶応義塾大学商学部に通い始めた僕は、ビジコン運営サークル「イ

間宮改衣|ルンバがきた

 うちにルンバがきた。うつでうごけなくなった私のためにきた。  私は夫と二人ぐらしなんだけど、今までずっとへやのそうじは私の仕ごとでした。2LDKのへやをひとりでそうじするのはそれなりに大へんなんだけど、でもプレイリストにすきな曲いれてききながらへやをきれいにしていくのはけっこうたのしくて、おわるとへやも私もすっきり、だいたい一しゅうかんにいちど、そうやってそうじしてそれなりにちゃんとくらせてました。  けどうつになった今はまずベッドからおき上がれない。小説家デビューしてから

〝心の中〟の文学少女が息を吹き返したのは|株式会社水星代表・ホテルプロデューサー・龍崎翔子の愛読書

 私が文学少女だったのは、中学を卒業するまでだった。  ホテル経営者として日々忙殺されながらスマホを眺め続けている今はもはや見る影もないが、かつては実に心から読書を愛する少女だったのである。 「史記」を原文で読みこなすような母のもとに生まれ、幼少期は古典文学の英才教育を受け、保育園ではおままごとに誘われるたびに「お姉ちゃん役」を買って出て、「受験生だから勉強してくるわ」といっては隣の教室にかけこんで、ずっとひとりで図鑑をめくっているような子どもだった。  小学生の頃は、

桃野雑派|お守り代わりのペンネーム

 フランク・ザッパの噂はギターを始めた頃から聞いていた。  いわく、天才、奇才、二十世紀最大の芸術家、ザッパの前にも後にもザッパなし。  そう称賛する声がある一方、奇人、変態、気難しい芸術家、不協和音にしか聞こえない音楽―などなど、くさす言葉も同じぐらい見聞きした。  でも僕が興味をひかれた一番の理由は、あのスティーヴ・ヴァイが尊敬する音楽家だったからだ。  ヴァイは今でも僕のアイドルだ。強烈な個性を持ったギタリストで、浮遊感のあるメロディ、複雑なリズム、凝りに凝った楽曲、

第11回 北海道で酔いしれた、絶品お寿司 ひとりでまんぷく 今井真実

 次の出張は北海道と聞いてから、暇さえあれば「寿司 ウニ 札幌」でネット検索をしていた。だって北海道といえば、ウニではないか! 豊富な魚介類があるのは承知の上だが、なんせ夏だし、普段は滅多に食べることのないウニを食べたいのだ。口いっぱいに頬張り、あのとろける甘みを、磯の香りを、なめらかな喉越しを味わいたい。その瞬間を、想像するだけで鼻息が荒くなってしまう。ホテルを予約することさえもすっかり忘れて、ここ最近の私の趣味はもはや「札幌のウニのおいしいお店を探すこと」になっていた。

自意識を素直に認めよう――日テレディレクター・安島隆の愛読書

 何の気なしにグッズのスタジャンを羽織って外出するほどには、余韻がぷんぷん残っている。約2ヶ月前の2024年2月18日に開催された「オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム」。ドームの5万3千人に、ライブビューイング、配信で見てくれたお客さんまで合わせると計16万人。ラジオモンスターならではのモンスター級エンタメは、ニッポン放送の人気ラジオ番組がもとになったイベント。僕は現在テレビ局の局員ですが、縁あって総合演出を務めました。こんな感じのテレビと関係のない仕事が多いので

ロングコートダディ・堂前透のお散歩エッセイ!「俺はシロガネーゼ。君は?」

俺はシロガネーゼ。君は?  お散歩が好きなんです私。大阪は散歩し尽くしてしまったのでこの度東京に引っ越してまいりました。今回はマダムたちがたくさん住むと言われている『白金』を散歩してみることに。  白金まではタクシーで行きました。足が疲れるからです。散歩するためにタクシーに乗るなんて馬鹿野郎だと思われるかもしれないですが、こちらは文句があるならかかってこいという所存です。  白金に到着しタクシーから降りた瞬間、もうすでに漂う上品感。これが白金か。タメ口で偉そうに喋ってき

手放される覚悟、そして手放す覚悟を――「あいの里」の60歳・みな姉が綴る人生哲学

 え、ちょっと待って……。そこには娘のような年齢の魅力的な女性たちの姿があった。聞けば30代ひとりと40代ふたり。わたしは60代だ。これ、どうしたらいいの。そもそも40代のふたりは到底40代に見えない若々しくかわいらしい人たちだし、30代の女性なんて20代に見える学生みたいな人。勝ち目、ないじゃん……。 「あいの里」の初日。  オーディションを通過し、収録が開始されるまで「きっと熟年紳士たちに愛されるわたしでいてみせるわ」と息巻いていた。しかし、そんな甘い幻想は、無残にも打

ハイツ友の会・清水香奈芽、初エッセイ!〈笑けるパターン〉

笑けるパターン 日々生きていると色んな感情になるかと思います。色んな感情にはなりますが、対人関係において外に出す機会が多いのはポジティブな感情です。ネガティブな感情を出し過ぎる人はややこしいと思われるからです。実際ややこしい気がします。だからといってポジティブこそ正義みたいな雰囲気を出されるとそれはそれでややこしいです。  それは無理やろみたいなこともポジティブに持っていこうとする人がいます。あれは私が小学1年生のときでした。登校して朝の会が行われている最中、クラスメイトの

「野暮でいこう」種村季弘が教えてくれたこと――ゲームさんぽ・いいだの愛読書

「ゲームさんぽ」というYouTubeの動画をご存じだろうか。さまざまな分野の専門家と一緒にゲームで遊びながら対話していく“教養系”の番組で、私は一連の動画の企画・制作をしている編集者だ。新卒の社会人としては美術の教科書編集者になったが、その後ウェブ記事の編集者を経て、動画の制作をするようになった。今回は私の愛読書ということで「編集者として持つべき基本姿勢を教えてくれた一冊」をご紹介したい。 編集者という肩書き  ところで、編集者というのは便利な肩書きだ。なんとなくのイメー

今井真実|願掛けは、辛くて痺れる明太子スパゲッティ

第3回 願掛けは、辛くて痺れる明太子スパゲッティ  窓から陽が差し込んでいる。強い光のせいで、ほこりが薄く舞っているのが見えてしまった。  ソファに寝そべり、部屋をぼんやり眺める。いいかげん掃除機をかけて、洗い終わっている洗濯ものを干さなくては。でも、もう少しだけ。あと10分、このままぼんやりと静けさを味わいたい。  ああ、やっと家にひとりきり。この日が来るまで本当に長かった。  今朝、久しぶりに子どもたちがふたり揃って元気に登校していった。  いつもぴょんぴょんと跳ねて

『淀川八景』(藤野恵美・著)の装画が完成するまで【テーマソングリスト付き!】

大阪生まれ・大阪育ちの小説家が 大阪人の悲喜こもごもを描いた短篇集『淀川八景』。 『別冊文藝春秋』からうまれた八本の作品が、このたび 美しい文庫になりました。 装画家・草野碧さんに、文庫装画の制作プロセスを 教えていただきました!  大阪弁でこう言われたら、なんだか肩の力がぬけて妙に納得させられてしまいます。  日々いろんな経験をしていると、うっかり自分だけが大変だと思いがちですが、「みんなそれぞれにドラマがあって頑張っているんだなぁ……」と、読み終わったとき、以前より少

【目次】おすすめラインナップ

ピックアップ短篇・中篇小説連載小説朝倉かすみ「よむよむかたる」 伊岡瞬「追跡」 一穂ミチ「アフター・ユー」 今村翔吾「海を破る者」 岩井圭也「われは熊楠」 大木亜希子「マイ・ディア・キッチン」 門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」 高田大介「エディシオン・クリティーク」

浅倉秋成|お茶が「りん」と鳴る

 佐賀県・嬉野温泉にある和多屋別荘で〈ライター・インレジデンス〉を体験中の作家 浅倉秋成さんが、現地での体験をもとに書き下ろされたエッセイをお届け!    11/3(木・祝)の浅倉さんの講座・生配信をご覧の方はぜひこちらもお読みください。 《配信の詳細はこちら》 *** 「香りを『聞く』んです」  はて、と宙を仰いだのはほんの一瞬で、気づけば妙な納得感に包まれていた。香りを「嗅ぐ」と表現してみるとどうだろう。一般的な表現であるには違いないが、これでは漂ってくる匂いをひ