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#別冊エッセイ

【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~

〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と…… 4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします! これを読めば5月病も怖くない……はずです。 『令和元年の人生ゲーム』 第1話 平成28年  2016年の春。徳島の公立高校を卒業し、上京して慶応義塾大学商学部に通い始めた僕は、ビジコン運営サークル「イ

ピアニスト・藤田真央エッセイ #69〈ロンドンを熱狂の渦に――BBCプロムス・デビュー!〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  日本食を愛する私にとって、ロンドンは欧州で最愛の場所と言っても過言ではない。一風堂、丸亀製麺、CoCo壱番屋などなど、道を歩けば右に左にたくさんの日本食レストランが目に入る。これはベルリンではあり得ない光景だ。この日の私は半ば吸い込まれるように一店のラーメン屋さんに入ってしまい、気づいたら替え玉まで頼んでいた。恍惚、夢見心地……ああ、ロンドンに来て良かった! 日本特有の”DA

ピアニスト・藤田真央エッセイ #68〈熱い夏はつづく――ルツェルン音楽祭〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。     ヴェルビエ音楽祭、そしてバイロイト音楽祭の連載に続き、またしても8月に行われた二つの音楽祭——ルツェルン音楽祭、BBCプロムス——の模様を綴りたい。この夏はそれだけ内容の濃い日々を送っていたのだ。  8月中旬のこの時期は、例年抱えているレパートリーが多い。今年も23/24年シーズンのリサイタル・プログラムが佳境を迎える一方で、9月から始まる24/25年シーズンの新し

ピアニスト・藤田真央エッセイ #67〈祝・優勝!――ベイスターズと私〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。   2024年11月3日。私は今、猛烈に感動しています。この感動をどうしても未来に残したいと思い、エッセイの冒頭に寄せさせて頂く次第です。音楽からは遠ざかってしまう話題ですが、どうぞお付き合いください。  皆さまご存じの通り、私の生活の大部分はピアノの練習と音楽の勉強に費やされているのですが、そのわずかな隙間時間に欠かさず続けていることがあります。それは愛する横浜DeNAベイ

イナダシュンスケ|叱咤激励タコライス

第31回 叱咤激励タコライス  タコライスはお好きですか? 僕はあれはものすごくおいしい食べ物だと思っています。  おいしいにもいろいろあります。多くの人がおいしいと思っていて嫌いな人はあまりいない「キャッチーなおいしさ」や、ちょっと伝わりづらいけどしみじみおいしい「渋いおいしさ」、そして好き嫌いがはっきり分かれる「マニアックなおいしさ」、などなど。それで言うと、タコライスのおいしさは、概ね最初の「キャッチーなおいしさ」にあたるのではないでしょうか。例えば給食で出てきたら

間宮改衣|ルンバがきた

 うちにルンバがきた。うつでうごけなくなった私のためにきた。  私は夫と二人ぐらしなんだけど、今までずっとへやのそうじは私の仕ごとでした。2LDKのへやをひとりでそうじするのはそれなりに大へんなんだけど、でもプレイリストにすきな曲いれてききながらへやをきれいにしていくのはけっこうたのしくて、おわるとへやも私もすっきり、だいたい一しゅうかんにいちど、そうやってそうじしてそれなりにちゃんとくらせてました。  けどうつになった今はまずベッドからおき上がれない。小説家デビューしてから

第15回 今井真実|日比谷でちょっと早めのお昼ご飯。お腹も心も満たされるお粥と焼売

 「料理家」という仕事をしていると、ふだんはめったに家から出ることがない。打ち合わせのときも撮影のロケハンを兼ねて、編集者が自宅にやってくることが多いし、その後の撮影ももちろん我が家。撮影後のレシピをまとめるときも、原稿を書くときも、自宅で行う。基本的に、家でぼんやり過ごすのが一番リラックスできる私にとって、不満はない。むしろちょっと作業しては寝転んだりと、いわばもってこいの労働環境なのである。  そんな日常を送る私にとって、めずらしい日があった。  午前中に、オフィス街に

ピアニスト・藤田真央エッセイ #66〈人生を揺るがす鑑賞体験ーートリスタンとイゾルデ〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  ついに開演のベルが鳴り、客席のドアが閉まると、オーケストラがチューニングを始めた。客席の照明が完全に消え、灯が微かに灯るのは幕の下りたステージだけ。やがてチューニングが終わるとそこは完全に無音状態だった。いつ、どのタイミングでビシュコフがピットにやってきたかも判らないので、開演前の拍手もない。静寂がどのくらいの時間続いただろうか。徐々に五感が研ぎ澄まされていく。  不意に地

イナダシュンスケ|チャーハンの退屈

第30回 チャーハンの退屈  あえて悔恨から始めます。僕はチャーハンという食べ物に対して、かつてあまりにも冷淡かつ非道でした。  世の中には、推定1000万人を超えるチャーハン好きが存在するのではないかと思います。今だから言えますが、僕はその全員から一斉に憎まれかねないことを、ずっと心の中で思っていました。 「中華料理屋でチャーハンを頼むやつの気が知れねえ」  これがその秘めたる思いです。おっと、ここだけ切り取って拡散するのはやめてください。そんなことをされたら、今の

ピアニスト・藤田真央エッセイ #65〈世界一取りづらいチケットーーバイロイト音楽祭鑑賞〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  世界には数多の音楽祭がある。特に夏のシーズンは大小様々なフェスティバルが各地を彩る。私もピアニストとして沢山の音楽祭に出演し、それぞれの特色を味わってきた。しかし、私がどんなに切望しようとも絶対に出演できない音楽祭が存在する——バイロイト音楽祭だ。  バイロイト音楽祭は、ドイツの小都市・バイロイトで毎年7月から約1ヶ月間開催される。驚くべきことに、このフェスティバルで演奏さ

宮島未奈『婚活マエストロ』刊行に寄せて

『婚活マエストロ』第一話の原稿を担当編集者に送ったのは去年の10月31日のことでした。それから一年で単行本になろうとは、まったく想像していませんでした。 「はじまりのことば」でも書いたとおり、『婚活マエストロ』は担当編集者のオーダーからはじまった話です。 「宮島さんの書く婚活の話が読みたいです!」  と言われたとき、わたしは「○○さんとかに書いてもらったほうがいいんじゃないですか」と別の作家さんの名前を挙げたぐらいで、婚活に対する興味も関心もありませんでした。それが今や……

鈴木忠平『ビハインド・ゲーム』 はじまりのことば

 なぜ、この人物を書こうと思ったのですか?  新刊を書くと、インタビュアーの人からこう質問していただく。その度、的確な表現の見つからない私は「翳があるから」だとか、「逆風を浴びているから」だとか口にしながら、なにか言い足りてないな……と感じてきた。先だってはついに、「言葉で表現できない人だからです」などと答えてしまった。書き手としてアリなのか? 帰り道に落ち込んだが、本当にそうとしか言えなかったのだから仕方がない。  言葉ではうまく説明できないが、感覚としては分かっている。例

太田愛『ヨハネたちの冠』 はじまりのことば

 編集者のKさんとAさんに初めてお目にかかったのは『彼らは世界にはなればなれに立っている』を上梓した四年前の秋だった。それ以前の三つの長編、『犯罪者』『幻夏』『天上の亜』が現代社会を舞台にしたいわゆるクライムサスペンスであったのに対して、『彼らは世界に~』はまったく趣が異なり、いつの時代ともわからない〈塔の地・始まりの町〉で繰り広げられる物語だ。期待されている世界観でないことはわかっていた。案の定、上梓直後の読者の評は真っ二つに分かれた。  よりによってその『彼らは世界に~』

ピアニスト・藤田真央エッセイ #64〈夏の終わり――デュトワとの共演〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 8月3日 「ミルクバー」でブランチ。  今年のスケジュールは自由時間が限りなく少なかったが、それでもお気に入りのこのお店に2回も訪れることができた。ヴェルビエ滞在のラストに好物のオレオミルクシェイクを飲むことができて嬉しい。  17時からはサン=サーンス《ピアノ協奏曲第2番》のリハーサルがあった。あまり弾かれる機会の少ない作品のため、私もオーケストラの団員も感触を掴むのに苦