マガジンのカバー画像

WEB別冊文藝春秋

《読んで楽しむ、つながる》小説好きのためのコミュニティ! 月額800円で、人気作家の作品&インタビューや対談、エッセイが読み放題。作家の素顔や創作秘話に触れられるオンラインイベン… もっと読む
¥800 / 月
運営しているクリエイター

#別冊エッセイ

【㊗発売即重版!】ピアニスト・藤田真央さん初著作『指先から旅をする』

 ピアニスト・藤田真央さんによるエッセイ&語り下ろし連載「指先から旅をする」がこのたび本になりました。 弱冠24歳にして「世界のMAO」に 2019年、20歳で世界3大ピアノコンクールのひとつ、チャイコフスキー国際コンクールで第2位入賞。以降、世界のマエストロからラブコールを受け、数々の名門オーケストラとの共演を実現させてきた藤田さん。 現在はベルリンに拠点を移し、ヴェルビエ音楽祭、ルツェルン音楽祭といった欧州最高峰の舞台で観客を熱狂させています。 エッセイ&語り下ろし

ピアニスト・藤田真央エッセイ #52〈奇跡的なピアニシモ――ゲヴァントハウス管〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  オーケストラと奏でる協奏曲は、まさに一期一会だ。〈作品の性格×オーケストラの個性×指揮者・ピアニストの音楽性〉がかけ合わさり、生まれる演奏は種々様々、千差万別といった具合である。また、世界には沢山の楽団があり、縁があっても再オファーは数年先の約束、短いスパンで同じオーケストラと二度共演できる機会はそう多くはない。そんな中、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とは幸運なことに

ピアニスト・藤田真央エッセイ #51〈ストイックなリハーサルの先に――ハーゲン・カルテット〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  チェコフィルとの全4つのコンサートを盛況に終えたのも束の間、次の日からまた新しいリハーサルが始まった。伝説の弦楽四重奏団、ハーゲン・カルテットとのリハーサルだ。この弦楽四重奏団は1981年に結成された。結成当初のメンバーは全員が兄弟(ルーカス・ハーゲン、アンゲリカ・ハーゲン、ヴェロニカ・ハーゲン、クレメンス・ハーゲン)だったが、第二ヴァイオリンを務めていた長女アンゲリカがソロ

ピアニスト・藤田真央エッセイ #50〈ビシュコフとの最強タッグ――チェコ・フィル日韓ツアー〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。 「夢は口に出せば叶う」  ありがちなフレーズではあるが、私もこの言葉には大いに頷きたい。もっとも「横浜DeNAベイスターズの監督になりたい」や「チャーハン専門店を出したい」といったような無理難題、欲深な願いは叶うはずないが、ここ数年、「あの指揮者・あのオーケストラといつか共演したい」という憧憬は徐々に実現しつつある。  2023年10月にアジアツアーで共演した楽団——チェコ・フ

イナダシュンスケ|哀愁のサニーレタス

第23回 哀愁のサニーレタス  サニーレタスはよく、何かの下に敷かれて登場します。コロッケ、から揚げ、春巻きなどの揚げ物が多いですが、お弁当だとハンバーグの下に敷かれたりもします。  サニーレタスのもしゃもしゃとした立体的な形状や赤褐色から緑のグラデーションは、確かに茶一色の料理をもググッと引き立ててくれます。そして主役に覆い隠されて見えない部分は、実は配膳の際に、料理の滑り止めとしても機能しています。まさに名脇役。特に居酒屋のテーブルでは、見目も麗しく、実に頼もしいバイ

ピアニスト・藤田真央エッセイ #49〈演奏中に喧嘩が始まり――中国ツアー・後篇〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  9月27日、3公演目は上海で行われた。この日は、ツアー中で唯一YAMAHAのピアノを使用した。以前、日本でお世話になっていたヤマハの調律師さんが上海に赴任していたのだ。彼女は素晴らしい才能とほとばしる情熱を持つ方で、上海公演では是非ヤマハのピアノを使ってくれないかと熱心に打診してくれた。  嬉しいことに、このように日本人調律師の方に海外で出会う機会が度々ある。特にヤマハの元

ピアニスト・藤田真央エッセイ #48〈いちばん楽しんでほしかったひとは――初の中国ツアー〉

限定発売の締切間近です! 『指先から旅をする〈愛蔵版〉』 完全受注生産のスペシャルエディション版です。 函入りのリッチな装丁&豪華3大特典付きでお届けします。 さらに、ご購入いただいた方から抽選で、 藤田さんのトークショー&サイン会にご招待いたします♬ 〈豪華特典〉 ①スペシャルDVD「ヴェルビエ音楽祭の休日」80分 ②世界中で撮影された写真100点を収めた写真集 ③モーツァルト・ソナタ全曲ツィクリスについての2万字エッセイ ▼通常版はこちら  指先から旅をする、とい

イナダシュンスケ|羊肉期の終り

第22回 羊肉期の終り 「羊肉はお好きですか?」  この質問にイエスと答える人の中には、まず、多くの北海道民が含まれているのではないかと思います。北海道は日本で最も日常的に羊肉が食べられている地域。人々は子供の頃から当たり前のようにジンギスカンで羊肉に触れ、自然とそれに慣れ親しみ、そして一生それを愛し続けます。言うなれば、幼馴染と自然に恋に落ち、そのまま一生を仲睦まじく添い遂げるようなもの。しかし道民以外の多くの人々にとって、羊肉との出会いとはそういうものではありません。

前川ほまれ|一緒に映画を観たい人

 私は元々、趣味が少ない。強いて挙げるとするなら、映画鑑賞だろうか。特に好きな映画のジャンルはないので、いつも直感で観る作品を選んでいる。  小説の執筆においても、映画鑑賞後に新作のイメージが閃くことが多々あった。たとえば私の既刊『セゾン・サンカンシオン』は、ジェームズ・マンゴールド監督の『17歳のカルテ』に強く影響を受けている。それに、作家として活動するようになってから、映画は心理的な避難場所としても機能していた。執筆がどうしても行き詰まった時は、一旦全てを投げ出して映画の

ピアニスト・藤田真央エッセイ #47〈異次元の演奏――ルツェルン音楽祭〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  翌9月2日。ゆっくり起床し、朝10時過ぎに会場入りするとすぐさまステージへ向かう。ここで私を待ち受けていたのは、有難いサプライズだった。なんと、KKLのスタッフが去年の公演時に使用したピアノの機種を覚えてくれていたのだ。私はきらきらと音の飛びやすい新しいピアノより、味のある古いピアノを好む。彼らは前回私がセレクトしたものと同じピアノを既に会場にセッティングし、笑顔で迎えてくれ

ピアニスト・藤田真央エッセイ #46〈憧れの大舞台が‶ホーム”に――ルツェルン音楽祭〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  まだヨーロッパでのキャリアの浅い私は、生まれて初めて訪れる土地で公演を行うことが多い。常に異邦人として旅する心細い日々の中、稀に「ただいま」と見知った場所を訪れると、オアシスの恵みを見つけたように感じる。  2023年9月2日、100年近い歴史を誇る、伝統あるルツェルン音楽祭で2度目の公演を行うこととなった。昨年は協奏曲のコンサートだったが、今年はリサイタルでの登場となる。

イナダシュンスケ|とんこつ遺伝子

第21回 とんこつ遺伝子 僕が高校生時代までを過ごした鹿児島は、昔から知る人ぞ知るラーメン王国です。ただし鹿児島ラーメンには、博多ラーメンのようなある程度統一的なスタイルはありません。言うなれば各店がてんでバラバラに、勝手に独特なラーメンを作っている、という感じでしょうか。  もっとも、てんでバラバラではありつつ、そこにはどこかうっすらとした共通点も感じます。おそらくですが、それは主に豚骨や豚肉によってもたらされるフレーバーだと思います。ただ僕の料理人としての経験も踏まえて

ピアニスト・藤田真央エッセイ #45〈23000人の観客を前にして――チャイコフスキー第1番〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  8月19日のコンサート当日、私は午前中のうちに会場であるブロッサム・ミュージック・センターに向かった。ここは野外舞台で収容人数は23000人と桁外れの規模だ。関係者によるとチェロ界の英雄、ヨーヨー・マはバッハ《無伴奏チェロ組曲》公演にて、一人で5万人もの観客を会場に呼び寄せたという。しかし駆け出しのピアニスト・藤田真央は23000人収容の会場なぞ埋められないだろうと思っていた

ピアニスト・藤田真央エッセイ #44〈トラブルつづきの旅――アメリカ・クリーブランドへ〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  ソロ、協奏曲、室内楽と多岐に亘る様々な作品の中で、一際異質だと思うのは協奏曲というジャンルだ。なぜならリサイタルにおいては自ら取り上げたい作品を選択出来るが、協奏曲は基本、オーケストラ側からの要望で演目が決定されるからだ。稀に私に選択が委ねられる場合もあるが、マニアックな作品は敬遠されがちだし、演奏時間や前後のプログラムとの調整で却下されることもしばしば(例えばラヴェル《ピア