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2024年2月の記事一覧

ピアニスト・藤田真央エッセイ #47〈異次元の演奏――ルツェルン音楽祭〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  翌9月2日。ゆっくり起床し、朝10時過ぎに会場入りするとすぐさまステージへ向かう。ここで私を待ち受けていたのは、有難いサプライズだった。なんと、KKLのスタッフが去年の公演時に使用したピアノの機種を覚えてくれていたのだ。私はきらきらと音の飛びやすい新しいピアノより、味のある古いピアノを好む。彼らは前回私がセレクトしたものと同じピアノを既に会場にセッティングし、笑顔で迎えてくれ

大木亜希子「マイ・ディア・キッチン」第3話 料理監修:今井真実

第三話 この街に来て、あっという間に二ヶ月半が過ぎた。  その間に季節は冬を迎え、夜の商店街ではクリスマスのイルミネーションが光輝いている。花屋や雑貨屋の軒先にはクリスマスのオーナメントが飾られ、居酒屋ひしめく一帯からはおでんの香りが漂う。そのアンバランスさを、真っ直ぐに伸びるアーケードが包み込んでいた。  もう二十時だというのに人通りは多い。どこからともなく流れる『ジングルベル』のBGMを聴きながら私は今、人々からの好奇の目に晒されていた。  天堂さんに那津さん、そして私。

ピアニスト・藤田真央エッセイ #46〈憧れの大舞台が‶ホーム”に――ルツェルン音楽祭〉

『指先から旅をする』が書籍化しました! 世界中で撮影された公演&オフショット満載でお届けします。  まだヨーロッパでのキャリアの浅い私は、生まれて初めて訪れる土地で公演を行うことが多い。常に異邦人として旅する心細い日々の中、稀に「ただいま」と見知った場所を訪れると、オアシスの恵みを見つけたように感じる。  2023年9月2日、100年近い歴史を誇る、伝統あるルツェルン音楽祭で2度目の公演を行うこととなった。昨年は協奏曲のコンサートだったが、今年はリサイタルでの登場となる。

三宅香帆の「フェチ小説が読みたい!」| 第1回 綿矢りさの〝アパレル小説〟

第1回 綿矢りさの〝アパレル小説〟 恋愛小説、ミステリ小説、SF小説、ホラー小説、ファンタジー小説、青春小説。この世の小説はさまざまなジャンルに分類されている。  しかし小説を読んでいると、思うのだ。もっと作者のフェチを感じるジャンル分けがあってもいいのではないか!?  小説を読んでいるとき、作者のフェティシズムが漏れ出る文章が現れると、読者としてこのうえない快楽を覚える。映像と違って文章のみで構成される小説は、同じ風景を描くにしても、どのように描写するか、どれくらい書き

衝撃のラストが待ち受ける、恋愛リアリティーショー×孤島ミステリ!|中村あき『好きです、死んでください』インタビュー

 無人島での恋愛リアリティーショーの撮影中、人気女優が殺された。しかも密室で——。 『好きです、死んでください』というインパクトのあるタイトルと、儚げな女性の装画が目を引く本書は、孤島で起きた連続殺人の謎を追うミステリ小説だ。  著者の中村あきさんは、2013年に星海社FICTIONS新人賞を受賞しデビュー。21年に『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』で第3回双葉文庫ルーキー大賞を受賞し、本作が初の単行本となる。 「デビュー当時は、自分と同じような本格ミステリファンに刺さる

麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第2話 ~大手町のキラキラメガベンチャー・新入社員篇~

新入生応援キャンペーン!  第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を全文無料公開中です 『令和元年の人生ゲーム』 第2話 平成31年  2019年4月、私は早稲田大学政治経済学部を卒業して、大手町にある人材系最大手企業、パーソンズエージェントに新卒入社した。  就活生の間で「パーソンズ」の人気は非常に高かった。「実力主義が徹底していて年次に関係なくマネージャーや子会社社長に抜擢される」とか「30歳で年収1000万超えはザラ」とか、そんな景気の良い宣伝文句に煽られて、総

小田雅久仁 「夢魔と少女」〈前篇〉

一 亡霊のほとんどは場所に憑くもので、ひとところに執着して来る日も来る日も道端に立ちつくしたり、打ち捨てられた屋敷のなかを果てもなく歩きまわったりする。人や物に憑く亡霊もいて、そういう連中はその人や物の行く先ざきにどこまでもついてゆく。いずれにしても、亡霊というやつは、自らの意思で自由に歩きまわることがない。言葉が通じるやつもいるが、空気が読めず、自分のことばかり話したがり、ろくに人の話を聞かない。かと思うと、ただただぼうっとしてひと言も口を利かないのがいたり、猛犬さながらに

【祝・本屋大賞! 宮島未奈最新作・期間限定で全文無料公開中】「婚活マエストロ」第二話

第二話 一人暮らしには快適な六畳一間も、他人が来ると狭すぎて酸素が薄く感じられる。大学生なら大勢でワイワイやっても許されるだろうが、四十路のおっさんは三人で定員オーバーだ。 「この部屋に来ると、タイムスリップしたみたいな気持ちになるよ」  桑原はそう言って床に寝っ転がった。杉田も「そうだよなー」と同意する。 「いやいや、テレビとか変わってるから」  俺は大学入学から二十年以上、レジデンス田中の同じ部屋に住んでいる。今使っているテレビは三代目だし、カーテンやラグなどマイナーチェ

秋谷りんこ「ナースの卯月に視えるもの」 #001 #002

1 深い眠りについたとしても  夜の長期療養型病棟は、静かだ。四十床あるこの病棟は、ほとんどいつも満床だというのに。深夜二時、私は見回りをするためにナースステーションを出て、白衣の上に羽織ったカーディガンの前を合わせる。東京の桜が満開になったとニュースで見たけれど、廊下はまだひんやりしている。一緒に夜勤に入っている先輩の透子さんは休憩に行った。  足音に気を付けながら個室の冷たいドアハンドルに触れる。ゆっくり引き戸を開けると、シュコーシュコーと人工呼吸器の音だけが響いていた

「思わず一気読み」「心からおすすめしたい」など激推しの声多数! 大前粟生さん『チワワ・シンドローム』のレビューをご紹介します

 大前粟生さんの最新刊『チワワ・シンドローム』が2024年1月26日に発売になりました。早くも届いた読者の方々からの〝激推し〟の声の数々、ご紹介いたします! *** 書評も続々公開されています! 一部引用してご紹介します ▼「Forbes JAPAN」三橋曉さん評 ▼「本の雑誌WEB」高頭佐和子さん評 ▼「ダ・ヴィンチWEB」立花ももさん評  『チワワ・シンドローム』の冒頭はこちらで試し読みができます。たっぷり45ページ分! 先読み書店員さんのご感想とともにお楽し

今井真実|沖縄で「台湾素食」のやさしさを噛みしめる

第7回 沖縄で「台湾素食」のやさしさを噛みしめる  空港に降り立ったとたん、暑くてセーターにじっとりと汗がにじむ。12月でもやっぱりこんなに暑いんだ……東京は凍えるほど寒かったのに。トイレに駆け込み、急いでヒートテックの下着とデニムの下に穿いていたレギンスを脱いだ。ふう、さっぱり。よーしこれで良し。  脱いだ服をスーツケースに突っ込んで、がらがらと引きながら空港の外に出る。空が青い、広い。私、本当にひとりで沖縄に来ちゃったんだ。出張とはいえ、こんなことが私の人生に起こるなん

佐野徹夜さんが辿り着いた、自分にとっての『人間失格』——『透明になれなかった僕たちのために』インタビュー

 中学時代に双子の弟・ユリオを自殺で失った大学生の樋渡アリオは、「人を殺したい欲望」を隠しながら、日々を空虚に生きていた。しかし、かつての初恋相手である深雪と再会を果たし、また容姿端麗な蒼、アリオと瓜二つの市堰とも出会うことでアリオの生活は変わり始める。  それと並行して、SNSでは現実に起きた殺人事件の〝真犯人〟だと自称するアカウント「ジョーカー」が話題になりはじめていた。そしてジョーカーが殺害の証拠としてアップロードしていた写真、そこに写っていたのは、見覚えのあるマーク

【アーカイブ動画公開!】祝・華文ミステリ15周年、歴代の傑作&新刊一挙ご紹介スペシャル

2024年2月末に行われた配信イベントの アーカイブを公開しました ※  歴代「華文ミステリ」の最高傑作はどの作品か? そして2024年に翻訳刊行される新作の魅力とは?  島田荘司さんが命名した「華文ミステリ(中国語で書かれたミステリ小説)」の嚆矢は、アジア各地の傑作本格ミステリを紹介した「島田荘司選 アジア本格リーグ」(講談社)の『錯誤配置』藍霄(台湾)と『蝶の夢 乱神館記』水天一色(中国)の2作品で、ともに2009年に刊行されました。  それから15年、台湾からは

『解散ノート』に綴った本当の気持ち|モモコグミカンパニーインタビュー

――BiSH解散から約7カ月が経ちました。現在はモモコグミカンパニーさん個人として、テレビ出演をはじめ幅広くご活躍されています。 モモコグミカンパニー(以下、モモコ) 『解散ノート』を読み返してみて、「BiSHでなくなった後、私は人々にどう思われるんだろう」という恐れが滲んでいるなと思いました。実際、解散後は世間からの見られ方が厳しくなったと感じることが多いですね。これまでもBiSHというグループ、BiSHのメンバーとしての私に対して、嫌いだとか、ネガティブなことを言われる