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高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#004
中西部の隣町同士の関係ってどういうものなのか——修理の抱いた素朴な疑問についてギィは実地調査を提案していた。データや文献を離れて「とりあえず現場に行ってみよう」という発想は、なるほど地理学徒、史学徒ならではの実地検証重視主義からくるのかもしれないし、そもそもバイクを一跨ぎ、どこにでもすぐに駆けつけるというギィの昨今のライフスタイルの所産だったのかもしれない。ともかくフットワークの軽さが彼の目下の
もっとみる高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#003
3章 もって「市井」と言うが如し 昨晩の夜半にトゥレーヌ地方を撫でていった軽めの嵐のせいで、まだ湿った様子の農道には濡れ落ち葉が散り敷かれ、セリアの運転するディーゼル四駆のステーションワゴンはたびたび落ちた小枝を踏み折っていた。
濃いめの霧が行く手を遮り、視界は50mぐらい先までしか利かない。そんな霧の農道を結構なスピードで車は切り裂いていく。くねくねとうねるような農道だが巡航速度はともすれば8
高田大介「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#002
2章 18世紀のテレグラフ 苦難に満ちた来仏初日から一晩あけて、修理はあてがわれた客用寝室から寝ぼけ眼を擦って階下のサロンに降りていった。そちらではコーヒーの香りが馥郁と漂っていた。修理の実家では母が紅茶党だったので、コーヒーで始まる朝という感覚そのものが新鮮だ。ドアノー家の女性陣御三方が遅めの朝食をとっていたのである。
「おはよう、シュリ」日本語の挨拶はマルゴからのものだ。「疲れはとれた?」
高田大介新連載!「星見たちの密書 エディシオン・クリティーク」#001
「図書館の魔女」シリーズの高田大介さんによる待望の新連載がスタート!
フランスの古都トゥールを訪れた
20歳の悩める数学徒・嵯峨野修理。
史学科の大学院生・ギィを相棒に、
ルネッサンス期の謎を解き明かす旅へ。
ハーレーに跨り、いざ出発!
1章 トゥール郊外に座礁する この手紙が投函されるのはもう少し後のこととなる。
嵯峨野修理はその夜フランス中部のトゥール郊外の県道で、実際「遭難」していた。
感涙のフィナーレ! 朝倉かすみ「よむよむかたる」#012(最終回)
ついに公開読書会当日。亡きマンマへの想いを胸に、読む会の面々は晴れ舞台で言葉を紡ぐ。感涙のフィナーレ!
▼第1話を無料公開中!
7 おぅい、おぅい 奇跡だな。なんと全員集合だ。安田はマスクの内側でつぶやいた。前にも言ったような気がするのだが、思い出せない。でもそんなことはどうでもよくて、とセットアップのジャケットの裾を後方に撥ね上げ腰に手をあてる。いつもより口数の少ない読む会メンバーを見渡し、
【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#011
ついに完成した記念冊子に胸をときめかせる一同。そんな中、読書会を急遽欠席したマンマの息子から電話がかかってきた。
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6 一瞬、微かに さもありなん。安田の頭にひょいと浮かんだフレーズだ。さもありなん、さもありなん。それが繰り返されている。手持ちの語彙のひとつではあったが、使ったことは一度もなかった。なのにさっきから脳内にバーゲンセールの販促ポップみたいにべたべたと貼られて
【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#010
まちゃえさん夫妻の息子・明典に、かつて何が起きたのか。美智留は彼と過ごした青春時代について語り始めた。
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マンマがそうしたように、安田は拳を突き上げてみせた。口角を思い切り上げて拍手する美智留と視線を合わせたまま、その手を下ろし、胸にあてがう。「控えめに言って」と前置きし、
「こころが震えた」
と目を細めた。同じ目をしてうなずく美智留に浅い笑いを返して言う。
「六月に
【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#009
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5 冷麦の赤いの 夕方から立て込んで、店を閉めたのは夜八時すぎだった。
夏休み旅行がピークに差しかかる八月最初の金曜日。
客はツーリストがほとんどで、喫茶シトロンの店内ではちょっとしたお国訛りの競演となった。きっかけはサッちゃん。最初は関西弁の二人連れに「おおきに」と言ってみるくらいだったのだが、テーブルごとに「ありがとない」だの「だんだん」だのと教えられて広がった。
ピアニスト・藤田真央エッセイ #52〈奇跡的なピアニシモ――ゲヴァントハウス管〉
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オーケストラと奏でる協奏曲は、まさに一期一会だ。〈作品の性格×オーケストラの個性×指揮者・ピアニストの音楽性〉がかけ合わさり、生まれる演奏は種々様々、千差万別といった具合である。また、世界には沢山の楽団があり、縁があっても再オファーは数年先の約束、短いスパンで同じオーケストラと二度共演できる機会は
ピアニスト・藤田真央エッセイ #51〈ストイックなリハーサルの先に――ハーゲン・カルテット〉
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チェコフィルとの全4つのコンサートを盛況に終えたのも束の間、次の日からまた新しいリハーサルが始まった。伝説の弦楽四重奏団、ハーゲン・カルテットとのリハーサルだ。この弦楽四重奏団は1981年に結成された。結成当初のメンバーは全員が兄弟(ルーカス・ハーゲン、アンゲリカ・ハーゲン、ヴェロニカ・ハーゲン、
岩井圭也「われは熊楠」:第六章〈紫花〉——終幕、そして
第六章 紫花 中屋敷町の邸宅の上には、今にも降り出しそうな分厚い雲がかかっていた。
湿気た空気が漂う庭には、楠や安藤蜜柑の木が植えられ、地面には一面枯葉が敷き詰められている。栴檀が藤色の花を咲かせていた。一九四一(昭和十六)年六月のことだった。
戸を開け放した八畳の離れに、男女の人影があった。女のほうは、横たえたテングタケを肉眼で観察しながら、紙の上に絵筆を走らせている。その傍らで、老いた男は
ピアニスト・藤田真央エッセイ #50〈ビシュコフとの最強タッグ――チェコ・フィル日韓ツアー〉
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「夢は口に出せば叶う」
ありがちなフレーズではあるが、私もこの言葉には大いに頷きたい。もっとも「横浜DeNAベイスターズの監督になりたい」や「チャーハン専門店を出したい」といったような無理難題、欲深な願いは叶うはずないが、ここ数年、「あの指揮者・あのオーケストラといつか共演したい」という憧憬は徐々
【新入生応援! 無料公開中】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~
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これを読めば5月病も怖くない……はずです。
『令和元年の人生ゲーム』
第1話 平成31年
2016年の春。徳島の公立高