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ピアニスト・藤田真央#13「ルツェルン音楽祭――シャイーと奏でた”歌うフォルテッシモ"」

毎月語り下ろしでお届け! 連載「指先から旅をする」

★今後の更新予定★
#14   11月5日(土)18時
#15  
11月25日(金)
→11月末公開予定

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 ヴェルビエ音楽祭を終えたわたしを待っていたのは、毎年8〜9月にスイスで行われるルツェルン音楽祭です。

 1938年から続くルツェルン音楽祭は、ザルツブルク音楽祭と双璧を成すヨーロッパ随一の格式と伝統を誇ります。出演者が錚々たるメンバーなのはもちろんのこと、批評家や有識者が世界中から集まるので、オーディエンスの厳しさもまた有名なのです。
 ルツェルンに到着してすぐ足を運んだ演奏会で、わたしはその洗礼を受けました。ある大御所演奏家のパッセージが乱れた瞬間、客席のあちらこちらからため息が聞こえたのです。たった一つの小さいミス、しかもさほどメジャーでない演奏曲の乱れも見逃されないものかと、わたしは震えあがってしまいました。ルツェルン音楽祭の凄みを、身をもって感じましたね。

 わたしのルツェルン・デビューは8月13日(土)。敬愛する指揮者、リッカルド・シャイーとのラフマニノフ《ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18》です。シャイーとは今年3月、ミラノ・スカラ座での《ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30》を演奏して以来の再会となります。

 今回ご一緒したオーケストラは、なんとあのルツェルン祝祭管弦楽団(LFO)でした。LFOはクラウディオ・アバドの呼びかけでルツェルン音楽祭のために特別に組織されたオーケストラで、世界各地の名門オケから主席クラスの演奏家が集結します。LFOとの共演はソリストにとって生涯の目標のひとつですから、わたしもまさか20代で実現するとは夢にも思っていませんでした。舞台上に並ぶレジェンドたちに、「あの方もいる、この方もいる!」と思わずはしゃいでしまいました。

 超一流のメンバーが生み出す音楽は、まさに極上。《ピアノ協奏曲第2番》第一楽章は、ピアノソロから始まり、オーケストラが追いかける構成なのですが、オーケストラの第一音「ド」が放たれた瞬間に息をのみました。これまで聴いたことのないほどキメの細かい、そしてみっちりと濃密な音の重なりだったのです。ひとりひとりがコンサートマスターのように演奏されますから、プレイスタイルも華やかで目にも楽しい。
 呼応するように、わたしの歌いまわしもどんどん雄弁に、力強くなっていきました。これはシャイーが求めていたものともマッチしたようです。

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