イナダシュンスケ|ハンバーグ人生劇場② 〜風雲編〜
第15回
ハンバーグ人生劇場②
〜風雲編〜
学生時代に発明した「ひき肉をフライパンに押し付けて焼いただけの、ハンバーグともステーキともつかない名も無き料理」は、「よそで言うたらアカン料理」として、その後の長きにわたり、ひっそりと世を忍ぶが如く作られ続けました。それが登場するのは主に、深夜近くにまで及ぶ仕事を終えて帰宅した後。それは晩酌のツマミないしは夜食として、家族の目からも逃れるが如く、こっそり作られていたのです。
これをハンバーグと呼ぶのは恥ずかしい。ステーキと呼ぶのは更に恥ずかしい。仮にも当時既にプロの料理人だった自分は、このような粗雑極まりない料理を満面の笑みで頬張っている様を、誰にも見せることができませんでした。駆け出しのプロの、ちっぽけなプライドです。
ところが、ある時期から潮目が変わってきました。
西暦2000年代初頭だったでしょうか。世の中に「グルメバーガーブーム」が到来しました。当時ファストフードでどうかすると100円やそこらで食べることもできたハンバーガーが、一気に1000円の壁を超えたのです。
「#別冊文藝春秋」まで、作品の感想・ご質問をお待ちしております!