イナダシュンスケ|ハンバーグ人生劇場③ 〜望郷編〜
第15回
ハンバーグ人生劇場③
〜望郷編〜
現代の日本において、ハンバーグにはいくつかの系統が存在します。
まずメインストリームにあるのが、ふわふわしてジューシーなハンバーグ。ファミレスを中心に生存しており、それ以外でも、単にハンバーグといえば基本的にはこのタイプです。バリエーションとして、中心部にチーズが埋め込まれた「チーズインハンバーグ」も人気です。冷静に考えると意味的に少しおかしいような気がしますが、その語感の良さにはそれを押し切る勢いがあります。突っ込んだら負けです。
それに対して、つなぎなしで牛ひき肉だけを押し固めて焼いたような、硬いハンバーグがあります。典型的な例がフランス式のステークアッシェやグルメバーガーのパテ、と言いたいところですが、実際はその兄弟分とも言える、中が半生のまま提供されるレアハンバーグの方が世間的にはむしろメジャーでしょう。卓上で鉄板や焼き石に押し付けて加熱が完成する、というトリッキー極まりない料理ですが、やはり日本人には、ガチガチになるまで完全に焼いたものよりもこっちの方が魅力的なのかもしれません。
これらとは別に、昔ながらのもっと庶民的なハンバーグもあります。かのロングセラー「マルシンハンバーグ」を思い浮かべていただくと良いでしょう。つなぎを増した、ねっちりとした練り物のような食感が特徴です。やや過去のものになりつつあるスタイルではありますが、ある種のノスタルジーに訴えかけるのか、一部ではまだまだ根強い人気です。その「つなぎ」による「カサ増し」の方針を、全力で突き詰めた突然変異体が、前々回で触れた学生食堂のハンバーグ、ということになるでしょう。どうせならあそこまで振り切ったものをまた食べてみたい、と密かに願望する自分もいます。
そして昨今、世間を最も騒がせているのが「肉汁ハンバーグ」です。テレビのグルメ番組では、もはやこの肉汁ハンバーグ以外のハンバーグは無視されていると言ってもいいでしょう。ナイフで切断したハンバーグの切れ目から渾々と湧き出る肉汁が、何秒経っても流れ続ける映像を、目にしたことのない日本人はいないのではないでしょうか。
「#別冊文藝春秋」まで、作品の感想・ご質問をお待ちしております!