透明ランナー|「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」展――広がり続ける写真芸術の自由な可能性
こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
今回紹介するのは、東京都写真美術館で開かれている「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」展です。「日本の新進作家」展は2002年から東京都写真美術館で定期的に行われている企画展で、新たな写真・映像表現に挑戦している若手作家の作品をピックアップして紹介するものです。私は2008年の「vol.7」以降毎回訪れ、どんな作品と出会えるのかいつも楽しみにしています。
写真は比較的最近まで美術館に飾られるような芸術作品とはみなされていませんでした。複製可能な写真が一点ものの油彩と並んでアートの一分野として認知されるようになるまでにはかなりの抵抗がありました。それを覆したのは、1962年ニューヨーク近代美術館(MoMA)のディレクターに就任したジョン・シャーカフスキー(1925-2007)の功績に依るところが大きいです。シャーカフスキーが企画した「The Photographer's Eye」展(1964)や「New Documents」展(1967)は、写真の芸術的価値を示し、人々に「写真は美術館に飾られるべきものだ」との考えを浸透させることに成功しました。
それはそれでいいことなのですが、写真が「美術館に飾られるべき絵画」の似姿とされてしまうと、紙かパネルにプリントして綺麗に額装し、壁面に整然と並べるのが本来のあり方であるように規範化されてしまいます。しかし写真はもっと自由でイマジナティブな媒体であるはずです。
本展の出品作家のひとりである永田康祐は、自身の論考の中でこのように述べています。写真は本来的に「内部に様々な複数性を抱えたもの」であり、常にその領域がダイナミックに拡張され続けている芸術様式なのです。
今回の「日本の新進作家」展で作品が展示されるのは、多和田有希、水木塁、澤田華、永田康祐、岩井優の5人。いずれも40代以下の作家です。5人の作家はさまざまな手法を用い、従来のイメージにとらわれない写真のあり方を提示しています。(写真:透明ランナー)
「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」展
多和田有希
多和田有希(たわだ ゆき、1978-)の作品を評するキーワードは「治癒」です。民間信仰やアートセラピーについて学び、「人は傷ついたときどのように回復するのか」「そこに芸術はどう介入できるのか」を追求し続けています。彼女の東京藝術大学の博士論文のタイトルは「マジックリアリズムの今日的意味について」。その論文要旨には「マジックリアリズムを精神的治癒のプロセスと定義」すると書かれています。
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