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透明ランナー|第25回文化庁メディア芸術祭――今年で最後のメディア芸術の祭典を振り返る

WEB別冊文藝春秋

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 文化庁が主催し、メディア芸術の振興を目的として作品を選出する「文化庁メディア芸術祭」(メ芸)。①アート部門②エンターテインメント部門③アニメーション部門④マンガ部門の4部門について、大賞、優秀賞、新人賞などが選出されます。1997年度から毎年行われ、日本のメディア芸術の発展に大きな役割を果たしてきました。

 その第25回受賞作品展が9月26日(月)まで、お台場の日本科学未来館で開催されています。今回のメ芸には95の国と地域から3,537作品の応募がありました。私は中学生のときから欠かさずメ芸を訪れており、毎年とても楽しみにしているイベントです。応募作・受賞作・選考委員のクオリティが高く、一定のブランドも確立しており、国内の公的なアートイベントとしては最も成功を収めた部類だと言えるでしょう。

 8月24日(水)、わずか2行のプレスリリースが公開されました。文化庁がメ芸について2022年度の募集を行わないと発表したのです。

第25回の受賞作品展は9月16日(金)~9月26日(月)に日本科学未来館他で開催します。
なお、令和4年度については、作品の募集は行わないこととなりました。

https://j-mediaarts.jp/news/r4/

 たったこれだけ。募集を行わない理由は何なのか、今後メ芸に代わるプロジェクトが行われるのか、何の説明もありませんでした。

 その日の夜に出た朝日新聞の記事によれば、文化庁の担当者は「当時に比べてメディア芸術の振興は進み、国内外から公募して顕彰するという現在の方法は一定の役割を終えたのでは。今後は国際的な発信により力を入れていく局面ではないか」と説明したとのことです。これでは何がなんだかわかりません。文化庁はメ芸の予算を別のメディア芸術のためのプロジェクトに回すようですが、今後どうなっていくか不安なところです。

 私はメ芸のカタログを全年度ぶん持っていますし、毎年2月に開かれていたときにはメ芸で季節の移ろいを感じていたほどでした。会場が六本木からお台場へと移り、時期が2月から9月へと移り、それでも毎年楽しみにしていました。「メディア芸術に対する公的なお墨付き」という役割はたしかに薄れているかもしれませんが、ひとつの歴史あるプロジェクトが終わるのは悲しいことです。

 この記事では今回で最後となる第25回メ芸をレポートするとともに、私にとって思い入れがある過去の受賞作品を紹介していきたいと思います。


①アート部門

 今回のアート部門の受賞作品の中で印象に残ったのは「四角が行く」です。台の上に置かれた白い四角形が、次々とやってくるさまざまな形の穴が開いた物理的なゲートを、独特な動きをしながらすり抜けていきます。その動きの背後には「ルール」が存在します。鑑賞者は四角の動きをよく観察することで、この台の上の世界を支配するルールの存在に気づくのです。
 2021年に開かれた「ルール?展」(21_21 DESIGN SIGHT)でこの作品を見て私はかなりの衝撃を受けました。ルールという不可視の概念を物理的な白い四角の動きで表現する、そのシンプルな美しさ、動きの滑らかさが心地良いです。

 最近メディアアートの多くが、プロジェクターを多数使った「大規模プロジェクターアート」になっていると感じることがある。それ自体は技術の進歩によるものなので責められないが、他方で「メディアアートは本来もっと可能性を秘めたものなのでは?」とも思う。本作は作品サイズとしては小ぶりだし、応募資料の写真で一見しただけでは控えめで大げさなところはない。しかし動いている実物では、まるで魔法のような出来事が顕出する。

https://j-mediaarts.jp/award/single/the-square-makes-it-through/

 メディアアート界のレジェンドである選考委員の八谷和彦(はちや かずひこ)は贈賞理由でこう述べています。テクノロジーの進化に伴ってメディアアートは複雑化・大規模化してきましたが、この作品は小型でシンプルでありながらメディアアートの本質をよく表しています。日本のメディアアートの歴史を長年見てきた八谷ならではのコメントです。

 新人賞に選ばれた平瀬ミキの「三千年後への投写術」は、鏡面加工した石にレーザーを照射して写真や文字を彫り、その表面に光を当てる作品です。光は石の表面で反射し、壁にぼんやりとした図像が写し出されます。半永久的に残る石という素材を用いて記録を残す、まさに3000年後に向けた現代からのメッセージとなっています。

 本作では、記録媒体としての石に着目し、レーザー加工機で石材に施された写真彫刻に光をあて、黎明期の映像メディアを想起させながらも、未来へ記録の痕跡を残すような、アーカイブの可能性も示唆している。歴史的な文脈をさかのぼりつつ、現代のテクノロジーを用いた表現として結実している点に本作の醍醐味がある。

https://j-mediaarts.jp/award/single/projection-for-the-next-three-thousand-years/

②エンターテインメント部門

 エンターテインメント部門 ソーシャル・インパクト賞に選ばれたのは「新宿東口の猫」。新宿アルタ横のクロス新宿ビジョンにある、錯視3Dを利用した大型ディスプレイ用映像作品です。3Dを使ったビジュアルコンテンツは珍しくなくなりましたが、このネコがSNS上で話題を集めた理由はそのキャラクター性、ストーリー性にあります。人はやっぱりネコが好きなんです。

 この作品は、その、人間にとって特別な「猫」という存在に着目し、ある意味シンプルに世の中の興味へつなげたアイデアが秀逸だし、実際に現場に人を集めた力を見ても、メディアを通じ人々の意識や行動様式に変化を与えた作品に贈られるソーシャル・インパクト賞にふさわしいと思う。正直、看板や置物、ポスターやモニターなどあらゆる暮らしのなかにさまざまなキャラクターが存在する日本において、錯視的な表現方法と時間のデザインによって、キャラと人間の新しい関係値を生み出したのは見事としか言えない。

https://j-mediaarts.jp/award/single/giant-3d-cat/

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