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透明ランナー|瀬戸内国際芸術祭2022夏会期 Vol.1【直島・宇野港・豊島・犬島篇】

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 3年に1度開かれる日本最大級のアートイベント、瀬戸内国際芸術祭2022 夏会期がついに始まりました! 瀬戸内海に広がる美しい島や港を舞台に、今回で5回目となるこの芸術祭。33の国・地域から184組のアーティストが参加し、彫刻、写真、映像、演劇、さまざまなジャンルの作品を楽しむことができます。
 今年7月にはTIME誌の“The World's Greatest Places of 2022”で紹介されるなど、世界でも有数の規模と知名度を誇る国際芸術祭です。今回はコロナ禍で自由な渡航が制限される中での開催となりましたが、島を歩いていると中国語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語などさまざまな言葉が聞こえてきました。

 2010年の第1回から皆勤賞となる私は、今回も居ても立っても居られず会期初日の8月5日(金)から4泊5日で観に行ってきました。これまでの瀬戸芸と比較しつつ今回の見どころを紹介していきたいと思います。(写真は透明ランナー)


夏会期初日の朝一番の船便から多くの島民の方々が出迎えてくれました。直島・宮浦港。

直島

 瀬戸芸の中心となるのは「アートの島」として知られる直島です。固有の文化や生態系、島民のコミュニティと一体となりながら、現代アートに関するさまざまな活動が長年展開されてきました。すでに多数の芸術施設が立地する直島ですが、今回の瀬戸芸の目玉は2022年にオープンした2つの新しいギャラリー、「ヴァレーギャラリー」と「杉本博司(すぎもと ひろし)ギャラリー 時の回廊」です。

 ヴァレーギャラリーは建築家・安藤忠雄(あんどう ただお)の直島における9つ目の建築で、祠をイメージした建物とその周辺に広がる屋外エリアで構成されています。草間彌生(くさま やよい)の「ナルシスの庭」(1966/2022)は、彼女が1966年のヴェネチア・ビエンナーレで発表し、世界的注目を集めるきっかけとなった作品です。今回は合計約1700個もの球体が建物の屋内外に配置されています。

草間彌生 ナルシスの庭 1966/2022
こちらは安藤忠雄建築の建物の中に展示されています。
草間彌生 ナルシスの庭 1966/2022
小さな池を含む屋外エリア一帯に広がるように設置されています。
小沢剛 スラグブッダ88―豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏 2006/2022
不法投棄された産業廃棄物を焼却処理したあとに生じるスラグが素材として使われています。ヴァレーギャラリーの作品は数年ごとに展示替えされますが、この作品は常設展示となります。
安藤忠雄 ヴァレーギャラリー 2022
コンクリートの壁と屋根の間には幾何学的な造形の開口部があり、外光が建物内部に入り込む構造になっています。

 「杉本博司ギャラリー 時の回廊」は、杉本の代表的な写真シリーズ、硝子の茶室「聞鳥庵(もんどりあん)」、彼が主宰する新素材研究所のデザインによる家具など、そのキャリアで作り上げた作品が余すことなく展示されています。

杉本博司 硝子の茶室「聞鳥庵」2014
実際に茶室として使用することも想定されています。

 もうひとつ、前回から変わった点として悲しいことが挙げられます。草間彌生の作品「南瓜」(1994)が2021年8月の台風で海に流されてしまったのです。草間彌生といえば南瓜のイメージですが、屋外彫刻として作られたのはこれが初めてで、長年直島のシンボルとして親しまれてきました。台風が去った後なんとか海から回収できたものの破損が激しく、今回の再展示は見送られることとなりました。

 「南瓜」は海に突き出た桟橋の上に展示されていましたが、現在は台座だけが残されています。
2019年に訪れたときの写真。これが見納めとなってしまいました。

 なお宮浦港に隣接して設置されている赤い方の南瓜「赤かぼちゃ」(2006)は無事で、変わらず直島を象徴するオブジェとして人気を集めています。

草間彌生 赤かぼちゃ 2006

 直島の東側・本村港周辺には、直島特有の家屋や寺社を改修し、建物の空間そのものをアートにした作品群が点在しています。

三分一博志 The Naoshima Plan「水」 2019
靴を脱いで水に足を浸すことができます。夏会期はとにかく暑いのでここで涼んで英気を養うことにしています。
杉本博司 護王神社 2002
神社の石室と本殿をガラスの階段で結んだ作品です。

 直島の南側・ベネッセハウス周辺には、美術館とホテルが一体化したベネッセハウス ミュージアム(1992)、クロード・モネ等の作品がダイナミックに展示される地中美術館(2004)、李禹煥(リ・ウファン)美術館(2010)といった多数の美術館が立地しています。

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