イナダシュンスケ|哀愁のサニーレタス
第23回
哀愁のサニーレタス
サニーレタスはよく、何かの下に敷かれて登場します。コロッケ、から揚げ、春巻きなどの揚げ物が多いですが、お弁当だとハンバーグの下に敷かれたりもします。
サニーレタスのもしゃもしゃとした立体的な形状や赤褐色から緑のグラデーションは、確かに茶一色の料理をもググッと引き立ててくれます。そして主役に覆い隠されて見えない部分は、実は配膳の際に、料理の滑り止めとしても機能しています。まさに名脇役。特に居酒屋のテーブルでは、見目も麗しく、実に頼もしいバイプレイヤーとなります。
しかし実際に食べ始めると、サニーレタスは少々厄介でもあります。サニーレタスより古株の「滑り止め野菜」である千切りキャベツであれば、コロッケにソースをかけるついでにキャベツの方にもちょろっとかけて、合間に箸休めとして摘んだりします。これは完全に、和食におけるお刺身のツマと同じ役割。そういう意味では、地に足のついた食べ進め方とも言えます。
しかし、ペロンと1枚葉の形のまま置かれたサニーレタスでは、そういう典雅な食べ方は難しい。結局コロッケを食べ終えた皿にはサニーレタスだけが残り、さてこれをどうしたものか、と思案に暮れることになるのです。
コロッケの下敷きになっていた部分は既に熱でクッタリしており、しかも染み出した油はべっとりとまとわりつき、あまつさえ散らかったパン粉の屑にまみれています。持ち前のフレッシュな印象は薄れ、決して美しい光景とは言えません。
しかしここでひとつ、大事なことを指摘しておかねばなりますまい。この状態のサニーレタスは、実はおいしいのです。はみ出していた部分はまだシャッキリとしたフレッシュ感を残しています。下敷きになっていた油まみれのクッタリ部分をシャッキリ部分で包むように折りたたみ、それをひとくちで頰張ると、これが意外なほどおいしい。
サニーレタスは、そのひ弱そうな印象を裏切るかのような、意外な味の濃さとほのかな苦味が身上です。油はそこに幾分マイルドさをもたらしつつ、コクを付与します。少し汚らしくも見えたパン粉の屑はクリスピーなアクセントとなり、コロッケから程よく溢れたソースで、ほんのりと味付けもなされています。
このおいしさを知る人は、決して少なくないのではないでしょうか。しかし我々はどうしても、皿に残ったサニーレタスを前に、少し躊躇してしまうのです。
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