透明ランナー|「メメント・モリと写真」展――写真が内包する“死”のイメージと向き合う
こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。
東京都写真美術館で一風変わった名前の展覧会が6月17日(金)から開催されています。その名も「メメント・モリと写真――死は何を照らし出すのか」。同美術館の約36,000点におよぶコレクションを中心に、「写真と死」というテーマにフォーカスして約150点の作品を展示するものです。
“All photographs are memento mori.”というスーザン・ソンタグの一節が本展のインスピレーションの源となっています。ラテン語で「死を想え」を意味する「メメント・モリ」は、キリスト教圏で日常がいつも死と隣りあわせであることを表す警句でした。写真史を遡ると、写真という発明されたばかりの装置が1840年代に急速に普及した理由は「自分の姿を死後まで残したい」という市井の人々の欲望にありました。写真は一瞬を永遠へと転化させるものであり、肖像画あるいは遺影としての役割を担ってきました。現実を切り取りながら現実から独立して存在し続ける写真というメディアには、その発明当初から常に死のイメージが伴っているのです。
第1章:マリオ・ジャコメッリ、セバスチャン・サルガド
展覧会はハンス・ホルバイン(子)の版画が並ぶ「序章:メメント・モリと『死の像』」で幕を開けたあと、全部で3つの章に分かれています。「第1章:メメント・モリと写真」では、戦場写真家として著名なロバート・キャパ(1913-1954)、ベトナム戦争のルポでピュリツァー賞を受賞し、銃弾に倒れた澤田教一(1936-1970)、水俣病に苦しむ人々を撮影したW.ユージン・スミス(1918-1978)など、カメラを通して死と向き合った写真家たちの作品が並びます。
本展のポスターにもなっているマリオ・ジャコメッリ(1925-2000)の作品は、アドリア海に面した街セニガッリアのホスピスで死を待つ高齢者の姿をおさめたものです。ジャコメッリは9歳のときに父を亡くし、困窮から母はホスピスで働くようになり、彼自身もホスピスで高齢者たちと幼少期の多くの時間を過ごしました。20代で初めてカメラを手にしてからホスピスに通い続け、14年の月日をかけて完成させたのが「やがて死がやってきてあなたをねらう」(Death will come and will have your eyes)シリーズです。この印象的なタイトルはチェーザレ・パヴェーゼの詩「死がやってくる」から取られています。
ジャコメッリが独特の暗室作業によって生み出した写真は、モノクロの強いコントラスト、意図的に焦点を外したアウトフォーカスが特徴です。まるで死の間際に見るような幻想的な光景を写し出し、高齢者の姿を写し取る彼の優しい眼差しが感じられるようです。ジャコメッリの関心は常に老いとは何か、死と向き合うとはどういうことかという点にあり、生涯を通じて死に直面する不安あるいは受容を写真に託して表現してきました、1993年に「やがて死がやってきてあなたをねらう」について語ったインタビューに彼の死生観が端的に表れているように思います。
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