第12回 今井真実|じっくり焼いて、ガブリ! 初夏に蘇る、鮎の記憶
初夏になると、スーパーでいのいちばんにチェックするのは鮮魚売り場。探し物の目的は「鮎」である。
私は子供の頃から鮎が大好物。この季節は今か今かといつも鮎の登場を待ち侘びている。幸運なことに夫も鮎に目がなく、週に何度も夕食に出したって、いつでもまるで初めて食べるかのように歓声を上げる。この時期は食卓に鮎の塩焼きを出すだけで大人たちは大喜びだから、ある意味ラクなのである。
それに引き換え、子どもたちの反応はまだら。大人顔負けに一心不乱に食べることもあるが、一口二口かじってそのまま残すこともある。理由を推測するに、ワタが苦い時とそうではない時で、反応が変わっているようだ。
そして、昨日の夕方のことである。
今年初めて、スーパーで丸々太った鮎を見つけて思わず心の中で小躍りする。今夜の晩ご飯に塩焼きにして出そうと買い物カゴに入れた。そしてやっぱり迷うのは何尾、購入するかである。去年、最後に出した時は……そうそう、きっとまた残すだろうからと、子供の分は買わずに一口あげよう。そう見くびっていたら、なんと丸々食べられてしまった。あの時の気持ちったらなんとも複雑だった。ウケの悪い魚を子供たちが喜んで食べた嬉しさと、あれ? ということは私の分がないじゃない? という悔しさと。
今日はもう鮎に半額シールがついているし、家族の人数分買うことにしよう。カゴにずっしりとした重みを感じながら、鮎の塩焼きに合う献立は何かしらと考える。とうもろこしご飯を合わせたら初夏らしくて良いなあ。きゅうりとわかめの酢の物も合いそうだ。メインディッシュが決まると、パズルのピースをはめるように、するすると他のおかずのアイデアも頭に浮かぶ。夜ご飯を準備するときの、この瞬間が快感だ。
「#別冊文藝春秋」まで、作品の感想・ご質問をお待ちしております!