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【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~

〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と…… 4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします! これを読めば5月病も怖くない……はずです。 『令和元年の人生ゲーム』 第1話 平成28年  2016年の春。徳島の公立高校を卒業し、上京して慶応義塾大学商学部に通い始めた僕は、ビジコン運営サークル「イ

大木亜希子「マイ・ディア・キッチン」第4話 料理監修:今井真実

第四話「そろそろ、レストランの営業を再開しようと思うんだ」  朝の空気を取り込むためリビングの窓を開けていると、木製の椅子に腰をかけた天堂さんがそう告げた。澄んだ風が部屋中に流れ込み、彼がクシャミをひとつする。 「寒いですよね。すみません」  慌てて開けたばかりの窓を閉じると、彼はコーヒーをひとくち啜り、「大丈夫。花粉の仕業かも。もうすっかりと春だねぇ」と言って立ち上がり、窓の外に目をやった。視線をたどると、向かいの家の庭に梅が咲いている。水彩画のような淡いピンク色が美しく、

死と向き合い続けた日々の記憶を辿って――『ナースの卯月に視えるもの』ができるまで|秋谷りんこ

 私は、二十代から三十代にかけて十三年ほど看護師として働いていました。初めて患者さんの死と向き合ったのは、看護学生のときです。看護学部では座学のほかに病院実習があり、学生は一人ずつ患者さんを担当し、日々関わりながら学びを深めます。  ある日病院に行くと、実習担当の看護師さんが私たち学生を集めました。 「つらいことをお知らせするけど……〇〇さんが昨日の夜に急変して、亡くなりました」     それは私の担当患者さんでした。昨日まで一緒に過ごしていた患者さんが、今日にはもういない。

「看護の希望に光を当てたい」――『ナースの卯月に視えるもの』刊行記念エッセイ|秋谷りんこ

 看護師をしていた時、患者さんとのコミュニケーションはとても大切なケアの一つだった。声かけ、傾聴、共感。どの医療従事者よりも患者さんと過ごす時間の長い仕事だからこそ、看護師の言葉は、患者さんへの影響が大きい。患者さんから「秋谷さんに励ましてもらったので治療も頑張れた」「『なんでも言ってくださいね』という一言で心が軽くなった」などと言っていただいた時は、自分の伝えたいことがまっすぐ伝わった気がして嬉しかったし、ホッとした。ご家族に「今日はお風呂に入りましたよ」といった細かい報告

5/8発売決定!『ナースの卯月に視えるもの』第一話全文無料公開!

1 深い眠りについたとしても  夜の長期療養型病棟は、静かだ。四十床あるこの病棟は、ほとんどいつも満床だというのに。深夜二時、私は見回りをするためにナースステーションを出て、白衣の上に羽織ったカーディガンの前を合わせる。東京の桜が満開になったとニュースで見たけれど、廊下はまだひんやりしている。一緒に夜勤に入っている先輩の透子さんは休憩に行った。  足音に気を付けながら個室の冷たいドアハンドルに触れる。ゆっくり引き戸を開けると、シュコーシュコーと人工呼吸器の音だけが響いていた

YouTuber・コウイチ「金曜日のミッドナイト」

金曜日のミッドナイト ・52歳 男性  こんにちは。あ、テレビの取材ですか。事件でもありましたか? あ、バラエティ番組の取材ですか。何もないなら良かったです。いやぁこんな町にも来るんですね。ちなみになんて番組ですか? 金曜日のミッドナイト? それは朝にやってる番組なの? あ、ミッドナイトだから夜ね。俺は朝しかテレビ見ないからちょっとわからんね。朝はアレだよ、ニュースやってるから見るのよ。今日もニュース見てたよ。え、今日やってたニュース? あんまり覚えてないね。なんか台風が近

自意識を素直に認めよう――日テレディレクター・安島隆の愛読書

 何の気なしにグッズのスタジャンを羽織って外出するほどには、余韻がぷんぷん残っている。約2ヶ月前の2024年2月18日に開催された「オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム」。ドームの5万3千人に、ライブビューイング、配信で見てくれたお客さんまで合わせると計16万人。ラジオモンスターならではのモンスター級エンタメは、ニッポン放送の人気ラジオ番組がもとになったイベント。僕は現在テレビ局の局員ですが、縁あって総合演出を務めました。こんな感じのテレビと関係のない仕事が多いので

三宅香帆の「フェチ小説が読みたい!」| 第1回 綿矢りさの〝アパレル小説〟

第1回 綿矢りさの〝アパレル小説〟 恋愛小説、ミステリ小説、SF小説、ホラー小説、ファンタジー小説、青春小説。この世の小説はさまざまなジャンルに分類されている。  しかし小説を読んでいると、思うのだ。もっと作者のフェチを感じるジャンル分けがあってもいいのではないか!?  小説を読んでいるとき、作者のフェティシズムが漏れ出る文章が現れると、読者としてこのうえない快楽を覚える。映像と違って文章のみで構成される小説は、同じ風景を描くにしても、どのように描写するか、どれくらい書き

衝撃のラストが待ち受ける、恋愛リアリティーショー×孤島ミステリ!|中村あき『好きです、死んでください』インタビュー

 無人島での恋愛リアリティーショーの撮影中、人気女優が殺された。しかも密室で——。 『好きです、死んでください』というインパクトのあるタイトルと、儚げな女性の装画が目を引く本書は、孤島で起きた連続殺人の謎を追うミステリ小説だ。  著者の中村あきさんは、2013年に星海社FICTIONS新人賞を受賞しデビュー。21年に『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』で第3回双葉文庫ルーキー大賞を受賞し、本作が初の単行本となる。 「デビュー当時は、自分と同じような本格ミステリファンに刺さる

秋谷りんこ「ナースの卯月に視えるもの」 #001 #002

1 深い眠りについたとしても  夜の長期療養型病棟は、静かだ。四十床あるこの病棟は、ほとんどいつも満床だというのに。深夜二時、私は見回りをするためにナースステーションを出て、白衣の上に羽織ったカーディガンの前を合わせる。東京の桜が満開になったとニュースで見たけれど、廊下はまだひんやりしている。一緒に夜勤に入っている先輩の透子さんは休憩に行った。  足音に気を付けながら個室の冷たいドアハンドルに触れる。ゆっくり引き戸を開けると、シュコーシュコーと人工呼吸器の音だけが響いていた

『解散ノート』に綴った本当の気持ち|モモコグミカンパニーインタビュー

――BiSH解散から約7カ月が経ちました。現在はモモコグミカンパニーさん個人として、テレビ出演をはじめ幅広くご活躍されています。 モモコグミカンパニー(以下、モモコ) 『解散ノート』を読み返してみて、「BiSHでなくなった後、私は人々にどう思われるんだろう」という恐れが滲んでいるなと思いました。実際、解散後は世間からの見られ方が厳しくなったと感じることが多いですね。これまでもBiSHというグループ、BiSHのメンバーとしての私に対して、嫌いだとか、ネガティブなことを言われる

【アーカイブ動画公開】新川帆立×秋谷りんこ〈デビュー作はこう磨け!〉公開打ち合わせ

 ※記事の下部「購読者限定エリア」にて アーカイブ動画がご覧頂けます。 ***   2023年4月25日〜7月17日に開催された日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞2023」。 「別冊文藝春秋賞」については、特別審査員の新川帆立さんと編集部で選考し、白熱した議論ののち、「ナースの卯月に視えるもの」(秋谷りんこ)を選出致しました! ★デビュー作を世に送り出す上での極意★  受賞作「ナースの卯月に視えるもの」は、ブラッシュアップの後、電子小説誌『別冊文藝春秋』および「WE

「創作大賞2023」決定! 「別冊文藝春秋賞」は秋谷りんこさんに贈呈します

 2023年4月25日〜7月17日に開催された日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞2023」。  エンタメ系電子小説誌『別冊文藝春秋』及び「WEB別冊文藝春秋」は、〈お仕事ミステリー小説〉に参加いたしました。  どれも読み応えのある作品ばかりで、編集部一同たいへん楽しく拝読しました!  たくさんのご応募、誠にありがとうございました。 『別冊文藝春秋』は、〈お仕事小説部門〉〈ミステリー小説部門〉の作品を拝読し、最終候補四作をセレクトしました。 ・「殺人小説の書き方」古池ね

鬱屈を抱えた全ての人へ――ラランド・ニシダの初小説!|『不器用で』インタビュー

 匂いや情景が一気に立ちのぼる、印象的な比喩表現から始まる本作は、お笑いコンビ「ラランド」のニシダさんによる初小説。器用に生きられず、生きづらさを抱える人々の姿を繊細な観察眼で描いた短篇集だ。  もともと無類の読書好きで、年に百冊近く読破するというニシダさん。とはいえ、お笑いのネタはもっぱら相方のサーヤが書くし、依頼を受けるまで、自ら小説を書いてみようと思ったことはなかったという。 「本が好きで読んでいても、まさか自分で書いてみようとは思いませんからね(笑)。お笑いサークルの