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2022年6月の記事一覧

透明ランナー|「メメント・モリと写真」展――写真が内包する“死”のイメージと向き合う

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。  東京都写真美術館で一風変わった名前の展覧会が6月17日(金)から開催されています。その名も「メメント・モリと写真――死は何を照らし出すのか」。同美術館の約36,000点におよぶコレクションを中心に、「写真と死」というテーマにフォーカスして約150点の作品を展示するものです。  “All photographs are memento mori.”というスーザン・ソンタグの一節が本展のインスピレーションの源となってい

イナダシュンスケ│パクチーに潜む「マズ味」

第5回 パクチーのマズ味 皆さんはパクチーはお好きですか? 一般的に、好き嫌いが大きく分かれるとされる食材です。苦手な方も少なくないのではないでしょうか。  しかし10年くらい前は、今よりもっと苦手な人が多かったはずです。当時から飲食店をやっていた自分の感覚だと、お客さんの半分以上、いやむしろ大半が苦手だったんじゃないかと思います。  今は、少なくともそこからは大きく様変わりしました。「好き」と言い切る人は確実に増えました。もしかしたら若干の苦手意識は持ちつつ、ちょっと無理し

ピアニスト・藤田真央 #07「亡き恩師・野島稔先生ーーわたしの音楽は、あのレッスン室で培われた」

毎月語り下ろしでお届け! 連載「指先から旅をする」 ★毎月2回配信します★  2022年5月9日。恩師、野島稔先生があの世へ旅立たれました。  わたしが最後に先生のお声を聴いたのは、亡くなる2ヶ月ほど前のことでした。ベルリンへ発つ前にと、わたしからお電話を差し上げたのです。ふだん電話では用件しか話さない方だったのに、その日はいろんなことを話してくださって、素敵な時間でした。お身体の具合を尋ねると、「元気ではないけれど、きみの声を聴いて元気が出たよ」と仰いました。  わたし

【動画あり】連載再開☆夢枕獏さん「ダライ・ラマの密使」への想い

 夢枕獏先生が、長年『別冊文藝春秋』で連載してくださっている小説「ダライ・ラマの密使」。  なんと、あのシャーロック・ホームズと、日本人の僧侶・川口慧海がチベットでめぐり合い、理想郷 ‟シャンバラ” を求め、ともに極限の砂漠を探索する……というスリリングなこの物語は、  なのです! そして、    しかし… 昨年、ホームズたち一行はついに ‟シャンバラ" へと辿りついたのです!!    そこで思わぬアクシデントが。  夢枕先生にリンパがんが見つかり、連載はいったんお休み。

透明ランナー|映画『FLEE フリー』――「故郷」を奪われたひとりの人間の今まで語られなかった物語

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。  日本人の映画館での映画鑑賞本数は年間約1本と言われますが、私が今年1本しか映画を観られないとしたら迷いなくこの映画を選びます。映画史に残るであろうマスターピースであり、まさに今作られるべき、今観るべき映画。それが『FLEE フリー』です。  『FLEE フリー』の主人公はアフガニスタンからデンマークに逃れてきたアミン。学生時代に彼の親友となった監督のヨナス・ポヘール・ラスムセンは、アミンが長年封印していた過去の記憶

【決定!】“危機の時代” の高校生直木賞——第9回 高校生直木賞全国大会レポート

 第9回高校生直木賞(同実行委員会主催、文部科学省ほか後援)の 選考会が、2022年5月22日に開催された。  2014年に始まった高校生直木賞も、今年で9回目。新型コロナの影響で全面オンライン参加となったが、高校生たちの読書への情熱は一瞬にして “距離” を超える。 北海道から鹿児島まで、これまでで最多の全国38校が参加し、“自分たちの1作” を決めるべく議論を戦わせた。  候補作は、第165回、第166回直木賞候補作の中から選ばれた充実の6作品。  『同志少女よ、

木村朗子│フェミニズムをアップデートする

 清水晶子さんの待望のフェミニズム本だ。研究者であれば学術論文を書くのが本領だろうが、しかし学術論文というのはすでにある程度、問題意識を共有した人に向けて書かれるもので門外漢には少し難しいのである。さらにいえば学術論文というものには、論に固有の理路があって、個人の見解を縷々述べることはできない。それゆえに清水晶子さんご自身の考えを読んでみたいとずっと願ってきた。  本書は『フェミニズムってなんですか?』という問いに答えるようにして書かれているから、フェミニズムをまったく知ら

【アーカイブ公開中】〈#ミステリー小説が好き〉ベストレビュアーは…! 結果発表会

 2022年4月から5月にかけて実施致しました note×「WEB別冊文藝春秋」のコラボレーションお題企画「#ミステリー小説が好き」。  実に500件を超える投稿を拝見し、編集部一同、大盛り上がりでした!  ★結果発表★ 拝読した感想を、7/1(金)20:00よりYouTubeライブでご報告。心惹かれた点を話し出したら止まらなくなってしまったわれわれ…… ※アーカイブがご覧になれます  この記事でもご報告しますと、勝手に〈ベストレビュアー〉3名 +特別賞 1名はこちらの

透明ランナー|ゲルハルト・リヒター展――日本初公開の大作「ビルケナウ」はいかにして生まれたか

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馬場典子│「先輩アナウンサー」への詫び状──『全力でアナウンサーしています。』を読んで

 大学3年の冬休み、祖母の家で就職活動のハガキを何通も書いていた私は、舌打ちをした。  バブルはとっくに弾けている1995年の暮れ、当時はまさか30年も続くことになるとは思わなかったが、景気は沈み、団塊ジュニアは就職氷河期に直面していた。  のちに、同じ大学でも男性にだけ資料が送られていたことを知った。今にして思えば、採る気もないのに資料を送ってくるより良心的とも言えなくはないのだが……。  でも、舌打ちをしたのはそんなご時世に対してではない。  見えない未来にペンダコよろ

透明ランナー│映画『ドンバス』――ロシア侵攻前のウクライナで実際に起きた13の物語を見て

 こんにちは。あなたの代わりにそっと観てくる「透明ランナー」です。 5月21日(土)に公開されたウクライナ映画『ドンバス』をご紹介します。  ドンバスとはウクライナ東部に位置する地方で、2014年にロシアとの間で領土紛争が発生し、その後も武力衝突が繰り返されています(ドンバス戦争)。本作は2018年、今から4年前の作品ですが、2月24日(木)にロシアによるウクライナ侵攻が始まったことを受け、「緊急公開」という形で上映が決まりました。  監督はセルゲイ・ロズニツァ。ウクライ

高田大介〈異邦人の虫眼鏡〉 Vol.4「フランスの車窓から」

「図書館の魔女」シリーズで一大ファンタジーブームを 巻き起こした高田大介さん。 在仏15年、現在はパリから250キロ離れたトゥール郊外にお住まいです。 雄大な川や森に囲まれ、生きとし生けるものの営みに耳をすませる 篤学の士の採れたての日常をどうぞご堪能ください。 徒歩か自転車か自動車か À pied, en vélo ou en voiture 人の歩行速度はだいたい4㎞/hほどだという。自転車では15~16㎞/hぐらいだそうだ。もちろん自転車に出しうる瞬間速度はもっと速い

ありえない関係の二人がエモすぎる! 竹宮ゆゆこ『あれは閃光、ぼくらの心中』第一章公開

 『とらドラ!』シリーズや『砕け散るところを見せてあげる』など、 青春期の衝動を圧倒的熱量で描き出す異才・竹宮ゆゆこさん。 そんな竹宮さんの最新書き下ろし文庫、 『あれは閃光、ぼくらの心中』が、6/7(火)に刊行されます!  本作の主人公は、音大付属中学に通う嶋幸紀・15歳。ピアノ一筋だった人生に暗雲がたちこみ、冬の夜に自転車で家出するところから物語が始まります。道に迷いヤンキーに追いかけられた先で遭遇したのは、夜空にギラギラと輝く25歳のホスト、弥勒。行くあてのない嶋は酔

ピアニスト・藤田真央 #06「ふたりの師の教え――音と、音楽と、向き合うこと」

毎月語り下ろしでお届け! 連載「指先から旅をする」 ★毎月2回配信します★  モーツァルトを集中的に演奏するようになってからというもの、わたしは歌曲、とりわけドイツ・リート(歌曲)への関心を強めています。  同じドイツ・リートでも、シューマンとシューベルトを比較するとまた面白いですね。シューマンの曲は、こちらを刺してくるような「痛み」がにじむ。クララへの恋慕といった、作曲家の想いがストレートに表現されています。わたしはそういった創り手の自意識が前面に出すぎているものには