第13回 今井真実|灼熱の台湾でほおばる、肉汁たっぷり水煎包
ああ、これがこの国の夏なのか。これは、暑いわ、評判通り。昨日までは、「東京の方が暑いくらい。台湾、意外と涼しいね」などと軽口を叩いていたくらいだったのに。台湾が本気を出してきた。
街中の道をただ歩いているだけなのに、日光が肌に刺さるように痛い。太陽に焼かれた砂浜に立っているみたいに足の裏からも熱が伝わってくる。日傘をさして、さらになるべく日陰を探すも、もちろん歩道はぎらぎらと明るいまま。汗は当たり前のようにとめどなく流れて、もうそれに意識を向けることもない。
仕方がないのだ。有名な「水煎包」のお店に行くためならば。
「水煎包」との出会いは昨日のことだった。台湾出張に来て初めての朝。取引先の方から待ち合わせに遅れると連絡があり、せっかくだからと駅ビルを探索することにした。台湾に来たのは今回が初めてのことだった。しかし、仕事で行くのだから観光をする時間もないだろうと、あいにく下調べもしていなかったのだ。それに、魅力的なお店を見つけてしまうと、行きたいのに行けないことが悔しくなってしまうから。ああ、こんなことなら、もっとリサーチすれば良かったなあと少し後悔した。とはいえ、偶然ぽっかりとできた束の間の自由時間は嬉しいもので、貴重なチャンスにちがいない。さて、どうしようかな、そういえば今日はまだ朝ごはんも食べてなかったなと思い出す。とたんに、いいにおいに釣られてその方向に。結局、私らしくビルの食料品店街に向かったのだった。
そこで発見したのが「水煎包」だ。鉄板の上でじゅうじゅうと焼かれている白くてぷっくりとした饅頭。かりっと焼き目のついた皮にもそそられる。ちょうど子供の握り拳くらいの大きさでさっと食べるにもちょうどいい。メニューを見ると、豚、キャベツ、ニラの3種類の具材があるようだ。肉好きの私は迷わず、豚を選んだ。値段は20ドル、日本円で約90円。それに冷たい豆乳紅茶も注文した。ビニール袋に店員さんが入れてくれたが、まだ熱々でビニール袋の端の方を掴む。「谢谢」と挨拶をして店を後にした。
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