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ミスターSASUKEに救われた——『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈【無料公開中】

今年『成瀬は天下を取りにいく』でデビューされた宮島未奈さん。
同作はダ・ヴィンチ「BOOK OF THE YEAR 2023」小説ランキング1位、
「静岡書店大賞」受賞が決まり、次々と「成瀬ファン」を増やしています。

そんな宮島さんが最も心を寄せてきたもの……
それはTBSの名物番組「SASUKE」!

ミスターSASUKEこと山田勝己氏への熱い思いを綴られたエッセイを、
「SASUKEの月」12月を記念して、期間限定で無料公開いたします。

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 小説家デビューして2ヶ月が過ぎた。
 身のまわりでもっとも大きな変化を感じるのは、Twitterである。デビューした途端にフォロワーが増え、1000人を超えた。
 がんで撮った写真をアップするだけの「きょうの琵琶湖」には、かつては3いいねぐらいしかつかなかったのに、今では二桁のいいねがつく。うれしい感想ツイートや書店の売り場写真をリツイートして、自著のメディア掲載やイベント情報を紹介しているうちに、小説家以前のわたしが何をつぶやいていたのか忘れつつあった。
 過去のツイートをたどってみると、『成瀬は天下を取りにいく』の出版予定が徐々に広まりだした昨年11月、わたしはこんなことをつぶやいている。

 そう、デビュー前のわたしが琵琶湖と並んで関心を寄せていたのは、ミスターSASUKEこと山田勝己だったのだ。
『SASUKE』とはTBSで不定期に放送されるスポーツ・エンターテインメント番組だ。100名の挑戦者たちが、「鋼鉄の魔城」と呼ばれる巨大なアスレチックに挑む様子が放映される。
 制限時間内にすべてのステージをクリアした者には「完全制覇者」の称号が贈られる。1997年から2022年の間に40回放送されているが、完全制覇者はわずか4人だ。
 ミスターSASUKEと呼ばれる山田勝己は完全制覇を成し遂げていない。第1回大会からSASUKEに挑戦している彼は、自宅にSASUKEを模したセットを自作し、トレーニングのしすぎで仕事をクビになり、SASUKEを引退して後進の育成をはじめたかと思えば引退をてつかいして出場し、とにかくその生き様がミスターSASUKEなのである。
 山田の名シーンとしていまだに語り継がれているのは第10回大会(02年)でのできごと。サードステージの最終エリアで敗退した山田は涙ぐみながら、
「俺には……SASUKEしかないんですよ」
 の名言を残す。当時まだ若かったわたしはそんな山田に感動することはなく、なんか変な人だなと冷めた目で見ていた。

 わたしの山田に対する見る目が変わったのは、18年のことだ。わたしはそのとき、はじめて挑戦したR-18文学賞の最終選考で落選したばかりだった。最終候補に残った喜びなどなく、ひたすら悔しかった。こんな思いをするのなら、もう小説を書くのはやめようと思ったぐらいだ。
 落選の連絡を受けた3日後、たまたま放送されていたSASUKEの第35回大会を見たら、足を負傷した山田勝己がまつづえをついて出ていた。さすがに挑戦者としての出場はなかったが、ケガをしながらも後進の応援に駆けつけている山田を見たら、胸にこみ上げるものがあった。
 ——山田なら、最終選考で一度落ちたぐらいで諦めるはずがない。
 感銘を受けたわたしはその後もR-18文学賞に挑戦し続けた。2回目はファイナルステージ、3回目はサードステージでの落選だったが、4回目でついに大賞・読者賞・友近賞をすべて受賞するという完全制覇を果たした。
 山田は第38回大会から再び挑戦者として出場している。後進たちとトレーニングに励み、挑戦を続けるその姿は、今もSASUKEの看板として輝いている。

 第39回大会までに完全制覇の経験があるのは、あきやまかずひこながまことうるしはらゆうもりもとゆうすけの4人である。昨年末に放送された第40回記念大会ではこの4人が挑戦者としてそろみして、大いに盛り上がった。
 このうち森本はサスケくんという愛称を持ち、すでに2回の完全制覇を果たしたことのある最有力選手だ。第40回記念大会でも、ファイナルステージまで駒を進めた。
 新装されたファイナルステージは、高さ25.5メートルのコースをクライミングウォールやロープを使って45秒で登り切るというもので、常人にはとても及びもつかない身体能力が求められる。すでに脱落した挑戦者たちの間でも、こんなのクリアできっこないという空気がただよっていた。
 しかし、森本と、それを見ている長野の二人は、明らかに違った。テレビ越しにも、この二人だけはクリアを信じているのが伝わってきた。
 結果、森本はギリギリのところで完全制覇を逃す。彼がクリアボタンを押したのは制限時間の1秒後。その健闘ぶりは、次こそは必ずクリアできるであろうと希望を持たせるものだった。
 悔しがる森本を一番に出迎えて抱き締める長野を見て、わたしは思わず涙した。完全制覇を信じる者にしか見えない景色があるのだと感じた。
 ちなみに山田勝己はこの大会、ファーストステージで脱落している。戻ってきた森本に山田が放った一言は、「キミは何者や一体」だった。鋼鉄の魔城をあと一歩で攻略せんとした森本に対する賛辞のつもりらしいが、両者の意識はそり立つ壁で区切られているかのごとく断絶している。山田はもう完全制覇を目指していない。すでに気付いていたけれど、明らかにされると少し寂しかった。
 それでも山田は第41回大会に姿を現すだろう。完全制覇を信じる森本と、ミスターSASUKEの名を背負う山田。ほかの挑戦者にもそれぞれの役割があって、100人全員にスポットライトが当たる。それこそがSASUKEの魅力である。
 次回はどんなドラマが生まれるだろう。年末の放送が楽しみだ。

宮島未奈(みやじま・みな)
 1983年静岡県富士市生まれ。京都大学文学部卒業。現在は滋賀県大津市在住。2018年「二位の君」で第196回コバルト短編小説新人賞を受賞(宮島ムー名義)。21年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。23年、同作を含む連作短篇集『成瀬は天下を取りにいく』でデビューし、話題となる。

宮島未奈さんの初連載『婚活マエストロ』が始まります! 
「WEB別冊文藝春秋」にて、12月20日に第一話を公開します。

ひょんなことから婚活業界に足を踏み入れることになってしまった
40歳の売れないライター・猪名川健人の活躍やいかに⁉

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