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『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈・初長篇!――〈はじまりのことば〉

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 今年の三月に『なるてんを取りにいく』でデビューしたみやじまと申します。幸いなことに複数の版元からお仕事の話をいただいているのですが、いくつもの原稿を同時進行するのは難しいため、のらりくらりと保留してきました。
 その網の目をかいくぐって滋賀県おお市まで乗り込んできたのが別冊文藝春秋編集部です。いつのまにか書くことが決まっていて、しかもどういうわけか連載ということになっていました。「ようかいウォッチ」のコマさんのごとく「都会(の人)はもんげー怖いズラ」と恐れおののきつつ、こうなったら書くしかないと腹をくくっているところです。

 さて、『こんかつマエストロ』は編集者による「宮島さんの書いた婚活パーティーの司会者の話が読みたいです」というリクエストからはじまりました。しかしわたしには婚活の経験がないため、その実態がわかりません。編集者がこれまで見聞きした婚活について語るのを「そういう世界があるのか~」と思いながら聞いていました。
 打ち合わせの終わり、わたしはとりあえず書いてみますと口を滑らせていました。今思えば、無意識のうちに何かをつかんでいたのかもしれません。余裕のある締切を設定しておいたにもかかわらず、着手したのは締切の二週間前。なんとか締切に間に合わせようと手探りで書いたのが『婚活マエストロ』第一話です。わたしは自分のことを「書くのが遅い」と思っていたのですが、正確に言えば「書きはじめるのが遅い」だったのだと気付きました。

 この作品の主人公であるケンちゃんことがわけんは最近四十歳になった独身男性です。わたしも今年四十歳になったわけですが、作家デビューしたことによって去年とは全然違った一年を過ごしています。まさかサイン会を七回もやらせてもらえるなんて、一年前には想像していませんでした。
 ケンちゃんもここしばらく、在宅ライターとしてあまり人と会わない生活を送ってきました。ある日、マンションのオーナーであるなかひろしの紹介で、婚活事業を手掛ける企業から記事作成の仕事を頼まれます。
 取材を兼ねて参加した婚活パーティーで、ケンちゃんは「婚活マエストロ」ことかがみはらと出会います。マエストロって男性を指すような? まぁそこは置いておいて、とにかくこの鏡原さんは真剣な出会いの場を提供することに燃える人物です。ケンちゃんもその熱気に感銘を受けたようで、鏡原さんたちの婚活事業に関わっていくのでした。

 今年はコロナによる規制が緩み、さまざまなイベントが再開されました。婚活パーティーもそのひとつでしょう。わたしはしような人間のため、コロナ禍でもさほど変わらない暮らしをしているつもりでしたが、やっぱり不自由を感じていたのだと気付くことが多々あります。サイン会だって、今のように気軽には開催できなかったはずです。こういう時期に作家デビューできたのは幸運だったかもしれません。
 見切り発車でスタートした『婚活マエストロ』についても、なんとかなる、なんとかする、という気持ちで臨んでいく所存です。これはある意味婚活業界に足を踏み入れたケンちゃんの姿と重なります。ストーリーの大まかな流れは決まっているものの、結末でケンちゃんがどうなるか、わたしにもわかりません。
 果たしてわたしは初連載をうまいこと乗り越えることができるのでしょうか。読者の皆さまにはそこも含めて楽しみにお待ちいただけたらうれしいです。


▼「婚活マエストロ」第1回はこちら!

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