『イニシェリン島の精霊』――美しい孤島に訪れる奇妙な仲違い|透明ランナー
私はあらすじが書けません。
冒頭であらすじを紹介し、監督や俳優の略歴に触れ、感想に入るというのがよくある映画評のパターンですが、本連載はそのような流れで書いたことはありません。映画は演出、撮影、音楽、編集など多種多様な要素の積み重ねであり、ストーリーを取り出してうまくまとめるのは非常に難しいことです。あらすじを書かないのではなく書けないのです。
たとえば前回の記事「『ピンク・クラウド』――未来を予言してしまった映画が描く限界状況の人間関係」ではあらすじっぽい部分は78文字しかありません。ストーリーに触れないまま形式面の話に突入しています。あらすじ書くの難しいよ~。
そんな中でも特にあらすじを記すのが困難なのが、2023年1月27日(金)に公開された『イニシェリン島の精霊』です。というわけで公式サイトから引用してみます。
仲良しだったおじさんふたりが絶交する話のようです。
監督・脚本のマーティン・マクドナー(1970-)は、英国で劇作家として成功を収め、2004年から映画界に進出。アカデミー賞脚本賞に3度ノミネートされている天才的ストーリーテラーです。本作はアイルランド島から海で隔たれた小さな架空の島、イニシェリン島で展開されます。変わらぬ日常が淡々と続くはずだった孤島で繰り広げられるこの不思議な物語。どんな話かと言われると……一体どんな話なんでしょう?
2023年1月24日(火)。俳優のリズ・アーメッド(1982-)とアリソン・ウィリアムズ(1988-)がプレゼンターとなり、アカデミー賞ノミネート作品が発表されました。
『イニシェリン島の精霊』は作品賞を含む8部門9ノミネート(助演男優賞2名)を受けました。10部門11ノミネートの『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート、2022)、9部門ノミネートの『西部戦線異状なし』(エドワード・ベルガー、2022)に次ぐノミネート数です。その3日後の1月27日に日本公開という時期も、観客の期待を高めるのに絶妙なタイミングでした[1]。
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