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二宮敦人 #003「サマーレスキュー ポリゴンを駆け抜けろ!」

行方不明の幼馴染・祥一を捜すため、
オンラインゲームにログインした千香と巧己。
そこは世界中からアウトローなプレイヤーが集まる
アナーキーワールドで……

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第二章

 ディスプレイに、奇妙な地形が映し出される。
 爆撃でも受けたかのような地面、ところどころにそびえ立つ石の塔、そして空一面を覆う黒い天井。
「そっちはどう、
 たくの声。あたりを見回しながら、千香は答える。
「うん、悪くないよ。ちゃんと地面の上だし、近くに敵もいないみたい」
「前回はよりによって、塔に引っかかるようにして始まってたもんな。あれは運が悪すぎた。座標は?」
 千香はキーボードを操作して、画面に表示された数字を読み上げる。
「(——105、170)」
「オッケー、俺がそっちに行く。それからは作戦通りで」
「わかってる」
 千香は近くの岩に身を隠し、巧己を待ちながら周りの様子を窺った。
 すぐ目の前には、高層ビルのようなものが立ちはだかっている。ハーケンクロイツや卑猥な言葉の落書きだらけな上に、穴がいくつも空けられていて、内側から屋根や窓らしき痕跡が覗いている。それだけでも異様なのに、周りには無数の水溜まりが連なり、中には真っ赤に焼けた溶岩溜まりもある。
 じっと眺めていると、ここで何が起きたのか、だいたいの見当がついてきた。
 ランドクラフトでは、他の人が作った建物を台無しにするのに、溶岩がよく使われる。この建物も、元は小さな石作りの家だったのだろう。そこに悪意のあるプレイヤーがやってきて、上から溶岩を流し入れ、さらに水をぶっかけた。家は溶岩に焼かれ、その溶岩が水で冷やされて固まり、ビルのような石壁が出来上がった。そこにまた別のプレイヤーがいたずら書きを残し、さらにまた別の誰かが爆弾をしかけて吹っ飛ばした。
 この3Tスリーティーというワールドでは、こんなことがそこら中で行われているのだろう。
 突然爆発音が聞こえて、千香はびくっと身をすくめる。
 誰かが爆弾でも使ったのだろうか。プレイヤー同士が戦っているのかもしれない。
 音は二、三回続いたのち、途絶えた。
 足音を忍ばせながら、千香は音のした方へ行ってみる。地面には大きな穴があり、剣、革兜、盾といったアイテムが無造作に散らばっていた。
「ああ。ここで誰かが……」
 千香は思わず呟く。それは明らかに、プレイヤーが死んだ跡だった。
 ランドクラフトにおける死は、残りライフ数を示す赤いハート——十個与えられてスタートする——が一つもなくなってしまった時、どのプレイヤーにも平等に訪れる。
 死因はさまざまだ。
 たとえば敵モンスターや他のプレイヤーに殺される。素手で殴られるとハート一個を削られるくらいだが、強力な武器で斬りつけられたら簡単に五個や六個持って行かれるし、爆弾が近くで爆発したらほぼ即死だ。
 餓死。画面の左下にハートが十個並んで表示されているのと同じように、右下には骨付き肉を模したマークが十個並んでいる。これは空腹度を意味していて、時間とともにだんだん減っていく。走ったり、ブロックを削ったりといった作業をするとより速く減る。骨付き肉がゼロになったまま放っておくと、今度はハートが減ってしまう。パンなどの食料アイテムを食べてお腹を満たさない限り、止まらない。
 溺死。水中に潜ると、骨付き肉マークの上に丸い泡マークが十個表示される。酸素と呼ばれるこの泡は、息継ぎさえすれば一瞬で十個に戻るのだが、ずっと水中にいるとみるみる減っていく。ゼロになると、やはりハートが減る。
 他にも溶岩に焼かれるとか、高いところから落っこちるとか、砂漠でサボテンに刺されるとか、雨の日に雷に打たれるとか、あちこちハートを失う危険だらけだ。お腹いっぱいの状態で安静にしていれば、失ったハートは少しずつ回復していくのだが。
 ハートがゼロになって死んでしまっても、実は、ランドクラフトではすぐに復活ができる。ただ、それまで集めていたアイテムが全部その場にばらまかれ、スタート地点からやり直しになってしまう。
 貴重なアイテムをいくつも持っているとか、スタート地点から遠出しているとかでなければ、ランドクラフトでの死はそれほど怖いことではない。
 とはいえ、千香は死亡現場を見ているうちに、何だか感傷的になっていた。
 ついさっきまで、ここで他のプレイヤーが生きていた。そしてもういない。散らばっている遺品はどこか悲しげで、とても拾って使う気にはなれなかった。墓標を建ててあげたいくらいだけれど、今はそんなことしている場合じゃない。
 ごめんね。
 千香はきびすを返し、その場を離れた。

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