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今村翔吾「海を破る者」

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日本を揺るがした文明の衝突がかつてあった――その時人々は何を目撃したのか? 人間に絶望した二人の男たちの魂の彷徨を、新直木賞作家が壮大なスケールで描く歴史巨篇
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#別冊文藝春秋2020年3月号

今村翔吾「海を破る者」 はじまりのことば

 世界の長い歴史において最も大きな版図を築いた国はどこか。面積ならば第1位は大英帝国で、その国土は3370万㎢に及ぶ。だが当時の世界における人口比率で考えると20%で、大英帝国は首位から陥落する。  では人口比率から考えた第1位はどこの国か。それが本作の一つの核となるモンゴル帝国である。その領土はあまりにも広大で西は東ヨーロッパから、東は中国、朝鮮半島まで、ユーラシア大陸を横断している。そして当時の世界人口の25・6%、実に4人に1人がモンゴル帝国の勢力圏で暮らしていたこと

今村翔吾「海を破る者」 #002

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今村翔吾「海を破る者」 #003

 河野家の本貫地は風早郡河野郷である。先祖は国衙の役人として働いていたが、源平合戦で活躍して以降、この水居津の辺りまで勢力を広げることになった。  承久の乱で失ったのは、本貫地である風早郡なのだ。故に亡くなった父、伯父、郎党に至るまで、いつか河野発祥の地を取り戻すという宿願がある。だが六郎は流石に口には出せぬものの、  ——残ったのが水居津でよかった。  と、心より思っていた。  風早郡河野郷は内陸部にあり山も険しく決して水田も多くない。この水居津に残った領地は広さこそ風早郡