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門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」(*小説)

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かつて経済の中心には「米」があり、それは「証券」や「先物」に姿を変え、金融派生取引(デリバティブ)を発生させた。つまり、「金融市場(マーケット)」である――大坂堂島に実在した「米…
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門井慶喜が「江戸時代の金融市場」に挑む!――〈はじまりのことば〉

 以下、金融の話である。なるべくわかりやすく説明したい。  江戸時代には、たとえば旗本の…

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#008

第5章(承前) 御庭番は、将軍直属の密偵または調査員である。全国へ飛んで大名の動静や民情…

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門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#006

第3章(承前) 翌日、紀伊国屋は、早朝から大工たちを呼び入れた。  彼らに木の箱状のもの…

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門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#007

第4章(承前) 垓太が神妙な顔になり、 「今度は、逃げへんで」  小声で言うと、久右衛門は…

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門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#005

第3章(承前) 紀伊国屋はその晩、野村屋、大坂屋とともに曽根崎新地へ行き、「よし野」とい…

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門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#004

第3章 1年後、江戸。  享保10年(1725)秋。府下は黄色い霞に覆われていた。上州方面…

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門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#003

第2章(承前) 全体に、堂島の米市場は、まず2種類の建物がある。  ひとつは米会所である。市場全体を統括する本部のようなもの。具体的には米仲買の監督、紛争の裁定、相場情報の記録と公開などをおこなう。  もうひとつの建物は消合場で、これは清算所である。主として帳合米(先物取引)の清算をおこなう。  米会所と消合場は、ならんで道の北側にある。川とは反対の方角である。逆にいえば道そのものには何もないので、この空間が、つまりは無数の取引の生まれる現場というわけだった。  淀屋橋時代に

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#002

第1章(承前)「あんたら」  と、口をはさんだのは松右衛門だった。周囲へさっと目をやって…

門井慶喜・新連載スタート!!「天下の値段 享保のデリバティブ」#001

序 紀州和歌山城中、二ノ丸御殿の一室でごろごろしていた新之助のもとに使いが来て、 「本丸…