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#別冊レビュー

【㊗発売即重版!】ピアニスト・藤田真央さん初著作『指先から旅をする』

 ピアニスト・藤田真央さんによるエッセイ&語り下ろし連載「指先から旅をする」がこのたび本になりました。 弱冠24歳にして「世界のMAO」に 2019年、20歳で世界3大ピアノコンクールのひとつ、チャイコフスキー国際コンクールで第2位入賞。以降、世界のマエストロからラブコールを受け、数々の名門オーケストラとの共演を実現させてきた藤田さん。 現在はベルリンに拠点を移し、ヴェルビエ音楽祭、ルツェルン音楽祭といった欧州最高峰の舞台で観客を熱狂させています。 エッセイ&語り下ろし

ブックレビュー:科学とは何なのか~科学哲学の世界|白石直人

 科学哲学は、哲学の中でも特に「科学とは何か」といった問題や、生物学などの個々の科学にまつわる哲学的問題を取り扱う分野である。哲学の中でもやや特別な分野なので、今回の記事では科学哲学に絞って、本を見ていきたいと思う。 科学とは何か 科学哲学の最初の一冊としては、A.F.チャルマーズ・著『改訂新版 科学論の展開——科学と呼ばれているのは何なのか?』(高田紀代志、佐野正博訳、恒星社厚生閣)は広範なトピックスをバランスよく取り扱う入門書であり、お薦めしたい本である。初版はやや古い

ブックレビュー:源氏物語と平安貴族の時代〈後篇〉|白石直人

▼前篇から読む 平安中期:摂関政治 藤原道長をその頂点とする摂関政治の時代を一望するならば、土田直鎮・著『日本の歴史5 王朝の貴族』(中公文庫)は、古いが非常に定評のある通史である。貴族同士の権力争い、特に藤原家内部での激しい攻防を経て、藤原道長がその栄華を極める過程が描き出されている。本書はしかしそれに加え、平安貴族の風習や文化などについても丁寧に説明を加えており、それによって平安時代の歴史をより深く理解することができる。  摂関政治では、自分の娘を天皇に嫁がせ、その息

ブックレビュー:源氏物語と平安貴族の時代〈前篇〉|白石直人

 2024年1月からのNHK大河ドラマ「光る君へ」は、紫式部と藤原道長を描き出す。彼ら・彼女らが生きた平安時代は一体どのような時代だったのだろうか。この記事では、摂関政治全盛期の前後の時代まで含め、平安時代がどのような時代だったのかを教えてくれる本を紹介していきたい。なお、平安時代の歴史を読む際には天皇家や摂関家の複雑な姻戚関係が重要となるので、天皇家の系図や摂関家の系図を適宜参照していただきたい。 平安時代通史~権力闘争の視点から 平安時代全体を一望する本としては、保立道

年末年始に行ける! オススメ美術展5選【2023-24年】|透明ランナー

坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア(NTT ICC) 本連載でいちばん反響の大きかった記事が、2023年4月に公開した「『現代アーティストとしての坂本龍一』を振り返る――現代アートへの接近、そして越境」でした。教授の業績を回顧する記事は多くありましたが、現代アートの側面から振り返るものはあまりなかったように思います。執筆にあたって彼の芸術活動の幅広さをあらためて認識しました。  NTT ICCで2023年12月16日(土)から開かれている「坂本龍一トリビュート展

ブックガイド——援助と開発経済~どうすれば貧しい国は発展するか|白石直人

■最底辺の国の状況 発展途上国とされてきた国々が次々と発展を遂げている一方、そうした発展の流れから取り残されている最底辺の国もまた少なからず存在する。ポール・コリアー・著『最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?』(中谷和男訳、日経BP社)は[1]、アフリカ諸国を中心とした最底辺の国々はどのような問題を抱えているのか、そうした国々が発展するには何が必要なのか、を考えた本である。援助や開発経済学を考える際の基本書であり、平易に書かれているので問題状況を

『ゴーストワールド』から見る《ティーン映画》の系譜――22年ぶりの再公開に寄せて|透明ランナー

 《ティーン映画》というジャンルがあります。「10代の生きづらさ」というテーマはいつの時代も作品の主題となり、数多くの名作が生み出され、同世代の若者が「私たちの物語」として支持してきました。その一方で、こうしたジャンルの物語は、後から振り返ってみて「あの頃はこうだったなあ」と感じることはあるものの、時代が下るにつれ「私たちの物語」として受容されることは少なくなっていきます。  《カルト映画》という言葉があります。公開時よりも公開後に熱心なファンを獲得し、長期にわたって繰り返

ブックガイド——中央ユーラシアから見る歴史|白石直人

 従来の歴史記述の多くは、ヨーロッパ諸国や中国の歴代王朝の視点から書かれたものが多い。そうした視点の記述では、大陸の中央部を広く占める中央ユーラシアは見過ごされるか、「野蛮な敵」として貶められるかがほとんどである。しかし近年は、見過ごされてきた中央ユーラシアの視点から歴史を記述し直す試みが活発に行われている。今回の記事では、そうした中央ユーラシアを主人公として描かれる歴史の本を紹介したいと思う。 ◆騎馬遊牧民の視点 ヨーロッパ諸国や中国の歴代王朝の視点の記述では「未開で野蛮

風景論へのノスタルジーではない眼差し――「風景論以後」展|透明ランナー

 それは2023年2月1日(水)のことでした。東京都写真美術館の2023年度のラインナップが発表され、それを眺めていた私は、ある展覧会の情報に目が留まりました。  えっ、風景論?! 風景論の展覧会が、今?!  この展覧会は5月頃「風景以降(仮)」から「風景論以後」へと名前を変え、7月に展示内容の詳細が発表されました。私はあまりに楽しみすぎて、ホームページをこまめにチェックしながら始まるのをずっと待っていました。  待ち望んだ風景論の展覧会は予想を遥かに超えているものでし

名作だらけ!“映画”との距離が近い多幸空間――山形国際ドキュメンタリー映画祭|透明ランナー

 山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)2023に行ってきました!  YIDFFは1989年に始まった、山形市内でドキュメンタリー映画を中心に上映する映画祭です。2年に一度開催され、2023年(10月5日(木)~12日(木))で第18回を迎えます。上映作品のクオリティもさることながら、毎回世界中から集まる豪華なゲスト、制作者と観客との距離が近い独特の雰囲気も含め、世界有数のドキュメンタリー映画祭としてその名を知られています。  私は以前からどうしてもYIDFFに行き

『テート美術館展 光 ―ターナー、印象派から現代へ』――光を描く、光で描く|透明ランナー

 国立新美術館で2023年7月12日(水)から絶賛開催中の「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」。英国・テート美術館[1]の所蔵品から、“光”をテーマとした作品約120点が出品されています。  開幕から2ヶ月経った9月15日(金)には入場者数が20万人を突破しました。この大人気を受け、最終週の9月25日(月)から10月1日(日)まで、開館時間が20時(通常18時)まで延長されることとなりました。夜は空いているのでおすすめです。東京・国立新美術館の会期は10月

豊田市美術館のイマジナティヴなキュレーション――「枠と波」「吹けば風」展|透明ランナー

 日本には素晴らしい美術館が全国各地に多数ありますが、その中でも企画展のたびに必ず遠征して観に行く、圧倒的信頼を置いている美術館がいくつかあります。そのひとつが愛知県・豊田市にある豊田市美術館です。美術館の建物は建築家・谷口吉生(1937-)の設計によるものです。  豊田市美術館は国内でも有数の規模の作品を所蔵しています。海外作品ではクリムトやシーレなどのウィーン分離派、シュルレアリスム、アルテ・ポーヴェラ、アーツ・アンド・クラフツ運動などなど。日本美術も日本画から現代アー

『アレックス・ダ・コルテ 新鮮な地獄』展――映像の“厚さ”とポップな地獄|透明ランナー

 来たぞ金沢!  今回のお目当ては金沢21世紀美術館で開催されている『アレックス・ダ・コルテ 新鮮な地獄』展(2023年9月18日(月・祝)まで)。ダ・コルテは1980年生まれ、フィラデルフィアを拠点とするアーティストです。2019年のヴェネツィア・ビエンナーレで脚光を浴び[1]、2021年にはコロナ禍のメトロポリタン美術館の屋上に巨大な作品を出現させて話題になりました。本展がアジアで初めての個展となります。  ダ・コルテは絵画や立体、インスタレーションも手掛けますが、本

『オッペンハイマー』最速レビュー|クリストファー・ノーランは何に挑み、何を達成したのか【ネタバレなし】|透明ランナー

 観ました、観ましたよ、『オッペンハイマー』を!!  この興奮と衝撃を一刻も早くお伝えしたいのですが、しかし日本公開日も決まっていない段階では何を書いてもネタバレになってしまいそうです。うーん難しい。でもネタバレなしでも書けることはあるはず!  『オッペンハイマー』は初見ではすべてを理解することが難しい複雑な映画なので(まあノーランですし)、前提としていくつかのことを知っておくとより深く映画を楽しむことができます。  本作は3つの時間軸がパラレルに絡み合いながら進む構成